プロトタイプの小宇宙
二晩占二
神様の骨
骨をもらった。
福引で当たった。1等だった。
まじまじと眺める。つり革のような弧を描いている。撫でるとざりざりしていて、指先に削れた白い粉がついた。
「これは何ですか」
「神様の骨ですよ」
営業スマイルで質問に即答する店員。
女性の客が来て、抽選器をまわした。がらがら、と球のぶつかる音が揺れて、飛び出る、金色。からんからん。また1等だ。
「大当たりい! 1等です、さあどうぞ」
店員は俺に手渡したときと同じ流れで、女性に骨を押し付けた。
これは何ですか、と問いかける女性に、神様の骨ですよ、と同じ流れで即答した。
女性がこちらを向き、目が合った。骨を持った俺と、骨を持った女性。彼女の骨は俺のものと違って、細長かった。海賊旗の下半分でバッテンを作っている骨に似ていた。
「なんでしょうね、これ」と俺が話しかけて、
「なんでしょうね、これ」と彼女が
つり革のような弧と、バッテンのような細長。どこの骨なのか検討もつかなかった。
ちょっと本屋で調べてみます、と俺が告げると、お供します、と女性もついてきた。
女性はカナさんという名前だった。読書好きだとも自称した。俺は無趣味を恥ずかしげもなく打ち明けた。
大型書店に入ると彼女は「きっと6階ですよ」と医学書コーナーへ俺を導いた。
書棚をかき分けて解剖学のコーナーにたどり着くと、骨の辞書なる分厚い書籍が面陳されていた。俺と彼女は初対面の男女ということも忘れて、顔を寄せ合い、1ページ1ページ吟味し、お互いの手元に握る神様の骨とイラストを見比べた。
30分、40分と時間が過ぎ、俺の骨は
1週間ほど間が空いて、カナさんから連絡があった。
「別の骨を見つけたんです。神様の骨。一緒に、見てもらえませんか?」
俺たちは例の大型書店で集合した。カナさんは先に着いていて、すでに骨の辞書を何周か辿ったあとだった。
その骨はどこで見つけたの、と訪ねたら、フリーマーケットで、との回答。
「なんか、まだまだ見つかる気がする。神様の骨。今まで意識してないから気づかなかっただけで、本当はそこらここらにあるんじゃないかしら」
彼女は言った。俺もうなずいた。実は、ここに来る途中で、カラスがそれらしき骨をくわえて飛び立つのを見かけていたのだ。
骨の辞書は購入することにした。毎度まいど何十分も立ち読みして、俺たちの手垢まみれにするのは気が引けた。
レジに持っていく。金額が告げられる。意外と高い。さすが医学書。
「割り勘にしません?」
カナさんがそう言ったので、甘えることにした。レジ袋とブックカバーを断って、店を出る。
俺は本の扱いが荒いことに大層自信があったので、辞書は彼女に預けることにした。
以来、神様の骨が見つかるとカナさんから連絡がくるようになった。俺も新しい骨を見つけては報告した。待ち合わせて辞書で調べて、という行程を経たのは最初の2、3回だけで、それからは直接カナさんの自宅を訪ねた。
周囲に注意しながら歩いていると骨は次々と見つかって、自然とカナさんの家を訪れる頻度が増えていった。次第に移動すら面倒になってきて、俺たちは一緒に住むようになった。
今、神様の骨は255個を数えた。2DKの一室を埋めている。
パズルのように組み合わせていくと、生物らしき造形を象る。人型に見えなくもないが、やはり微妙に違っている。人間にはない位置に、突起や空洞。
そもそも人間の骨は208個ほどだというから、明らかに数が多い。
今日も彼女が骨を見つけてきた。枯れ枝のようにも見えたが、彼女が骨だというから、きっと骨なのだろう。床に並べた骨たちの腰のあたりに、そっと置いた。
俺も近所の公園で拾ってきた小石のような骨を、目のくぼみの近くに添えた。
俺たちの同棲生活はこれからも続いていく。一生終わらないのかもしれない。
だって、神様の完成形なんて、俺たちには想像することもできないのだから。
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