第21話 将来

「え! 本当ですか!!! キャハハハ」


 出会って初めて、箸が転がってもおかしい年頃の子の笑い声を聞いた。

「まあキュウリの斜め切りが輪切りになる事はあるかもしれないけれど、ちょっとあのレタスのさいの目カットはね・・・動物園の飼育員だったのかしらとも思ったけれど」

「だったら動物園の美人飼育員ですよね」

「そっちの見物人の方が絶対増えるわ、あのレベルは」

姫は随分にこやかになったので

「ねえ、姫ちゃんは怖い話しとか幽霊の話しとか嫌い? 絶対に見ない? 」

「いえ、そんなことは無いですよ」

「だったらこのことも人知を超えたことと思った方がいいんじゃないかしら。警察だって、霊感の強い人に頼ったりすることもあるんだから」

「でも、彼女は存在していて・・・・」

「お父さんからも、お母さんからも不思議な事を体験したお話は聞いたことがあるんでしょ? お父さんはプロ、他の人の話は聞いて、プロの話しは聞かないなんて変でしょ? まあ、あなたの場合お父さんで、距離が近すぎるのでしょうけれど。

彼女達が特殊な機関で育て上げられたとしたら、それはものすごく完璧な組織になる。ワザと出来ないフリをして、上達を早く見せる、そこまで教えるとしたら、もう、太刀打ちはできないわよ、個人レベルでは。

この国では彼女達が何者であるかを確認できないまま、消えてしまった、多くの人に悲しみという痛みを残して」

姫はそのことには答えられなかった。雪女や鶴の恩返し、子供の頃に読んだ童話が頭に浮かんだ。


「姫ちゃん、私ね、彼女の事をきちんと話すの、初めてなの。

もちろん、家では話すわよ。秘密の環境保護団体とか雪の精とか言ったら主人が

「お前も冷たい、どうして人の幸せを望んでやれないんだ。どうでもいいじゃないか、雪の精だろうが組織の一員だろうが関係ない。ただ二人で幸せに暮らそうとしていたじゃないか、壊す側に回るなんて、それじゃ魔女裁判と一緒だ」って言われたの。彼女の美しさに対する妬みなのかもしれない、それも反省したわ。

「お料理が苦手なんです」って言ったときの彼女の顔は、普通の人だった。愛する人のために苦手なことに挑戦しようという素直な心だった。あれはどう見ても演技には見えない。

だから今はあんまり考えないで、彼女が帰ってきてくれることを願うことにしているの、それだけ」

「そうか・・・・そうですよね・・・・・・・」

「結果があなたの納得する形じゃなかったでしょうけれど、全てが自分の納得のいくものになるなんてあり得ない。依頼者の方が本当に喜んで下さったのを良しとしなければ、あなたのお父さんの仕事も、基本仕事はそうで無ければ成り立たないでしょう。

 それに今回の経験はあなたにとっても良い事よ、研究者になった方がいいかも」

「え? どうしてですか? 」

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