公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫野真鶴

プロローグ

 アルベルトは思った。この光景は間違いなく絵に描いて残すべきである、と。


 彼の眼前に広がるのは、楽しげに部屋のあちこちを見て回る娘の姿。そのドレスが、髪が、笑顔が、明るく室内を彩っている。真新しい絨毯と、それと合わせて変えたあらゆるカバーは、そんな彼女を引き立てるものでしかないとアルベルトは思っている。

 だが、彼女が何を見てそれ程の笑顔を浮かべているのかと言うと、それは紛れもなく絨毯でありクッションカバーである。

 そう! これはアルベルト自らの手で用意した織物なのだ!

 それを思うと涙が溢れてくる。アルベルトは歓喜に心を震わせ、娘の笑顔を脳裏に焼き付けた。多少面倒であったが、動いてよかった。自分の判断は間違っていなかったのだと一人頷いて、娘が撫でる織物を見る。

 これを探すに至った経緯は、現在の情景のスパイスになる。この輝かしい一瞬を永遠のものとするため、アルベルトは目を閉じ振り返ることにした。


 あれはそう、二週間ほど前のことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る