拾玖 二歳の絡繰り

 ある晩、お遊びでやってみた試みである気付きを得た。


 魔法陣の記述に使のだ。


 漢字という文字表現が存在しないこの世界の言語――とりわけ魔法陣の構築に使われることが多い起源語と呼ばれる古語は、記述に際し要する文字数が多く雑多になる。

 物は試しと、何十文字と書き込んでいた記述をたった三、四字程度の漢字の熟語に置き換えてみると、これが動作するのだ。


 考えてみれば納得である。魔法陣には古語以外にも現代の様々な各国語が用いられている。

 概念、指向性を記述するということが大事で、何語であるかは関係ないようなのだ。


 これにより魔法陣のコンパクト化と記述の自由化、精密化が捗り、私の魔法は数歩先に進んだ。



 魔方陣のコンパクト化は消費魔力の圧縮という思いがけない恩恵も齎した。

 この頃になると魔法の試行回数とそれに伴う消耗度合いも増え、夜毎魔力量の増加を体感できていた。

 圧縮で節約した魔力で水人形を複数作り、構造の微細な差分を比べられるようになると日に日に精巧さを増していった。

 改良に改良を重ねること一ヶ月。 最終的には臓器と主要な血管まで大まかに再現し、肺と声帯、舌の構造を用いた発声と発音もこなせるようになった。


 

 ガワが仕上がったので試しに圧縮魔力層でコーティングし、魔力を隠匿した状態で部屋の前を歩かせてみた。

 この実践について特に誰からも追及は無く、魔法で生成した水も隠匿が可能であると推定した。



 今度は運用について考える。

 水人形を運用する工程は


 一、 自身を象った水人形を作る

 二、 水人形の魔力構造を本物と遜色ないレベルにする

 三、 水人形を自然な動作で動かす

 四、 二、三を一定の距離を離れた上で行う

 ※ 四には水人形の遠隔操作並びに感覚共有などが必要となる


 と仮定した。

 三まではクリアした。

 二はまず適度に内包させた私由来の魔力を自然に巡らせる記述を盛り込む。 遮光ガラスの要領でダミーの魔力のみ遮蔽結界を任意に透過するようコーティングを変質させ、見かけ上は生体と遜色ないレベルに仕上げた。

 四の遠隔操作だけが現状未知数だ。


 取り急ぎ、視界に頼らない操作は可能であることが分かった。魔力操作は視界に頼っていないので当然と言えば当然ではある。

 ただし、視界に頼らず操作する場合はその分集中が割かれる難点がある。


 そこで漢字による圧縮でコンパクトになった魔法陣に人体の基本動作に関する記述を盛り込んでみることにした。

 心拍や呼吸など、人間として不自然でない程度の不随意運動から始まり、瞬きや徒歩、座り立ち上がりと言った簡単な動作のベースをある程度自動で行えるようにする。

 この動作補助機構により精細なコントロールに割く集中力をいくらか省略でき、脳容量の大幅なコストカットが実現した。



 次は感覚共有について考える。

 感覚共有の有無と程度は遠隔操作の構造の前提となるので詰める必要がある。


 主要な身体の間隔の内、取り急ぎ実装すべき要素を考える。

 まず、視覚と聴覚は必須。 視覚には魔力視も含めて考える。

 水人形なので味わって食べない。 味覚は外す。

 水人形なので危険もない。 痛覚は外す。

 嗅覚はあれば便利だが、水人形では必要に迫られる場面も少ない。 一旦保留。

 触覚は水人形の構造上、温度も含めて感知しやすい。 が、必要な場面を検討したいので一旦保留。



 さて、視覚については便利な魔法をついさっき見つけたところだ。

 早速実践していこう。

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