第7話 誕生日

次の日、

やはりステファンとエドの様子が変だなと

感じて、気にはなるけど、2人の間の問題

だった場合、部外者の入る幕ではないので、

そっとしておこう、リアムとレオからも、

言葉は、交わしていないけど、

そんな空気を感じた。


「朝ご飯を、食べに行こう!」

レオが元気よく言うと、

行こう、行こう」

エドも元気よく言った。


僕達は、楽しく話をしながら、

食堂へ向かった。

そして、いつも通り、

ステファンは、魚の定食を選択して、

他の人は、肉の定食にした。

受け取り口で、受け取って、

空いている席に座って、

「いただきます!」

楽しく話をしながら食べていると、

「リアム!」

リリアさんが、走ってこちらにやって来た。

リアムを力いっぱい、抱きしめると、

「やめてよ、母さん。恥ずかしい」

リアムが抵抗した。

「何が恥ずかしいのよ、ね。小さい時は、抱っこ、抱っこって……」

話を始めたリリアさんの口を、

リアムが、両手でふさごうとした。

「もう、母さん、勘弁してよ」

リアムが、赤面した。

エドとレオは、そんなリアムを見て、

笑っていた。

僕の横に座っていたステファンが、

うつむいているのに気づいた。

魚の定食の上に、

ポタッ、ポタッ、

水滴が、落ちてきた。

泣いている?

「どうしたの?」

小さな声で聞くと、

「何でもない。その……少し辛くて」

ステファンは、涙を服の袖で拭いてから、

顔をあげた。

「そ、そうか。一味、かけすぎた?」

と聞くと、

「うん、ドバッと出て」

ステファンが、ひきつった笑顔で言った。

「あれ、気をつけないとね、一味が出てくる穴が大き過ぎるよね」

僕は、なんとなく、話を合わせた。

でも、ステファンの味噌汁に、七味は、一粒もかかっていなかった。

どういうことかな?

この前の、図書室での出来事なども加味すると、やはり、何かある、と感じるけど、

聞けなかった。

リアムに絡んで満足した様子のリリアさんは

同じ部屋の人と一緒に、食堂を出て行った。

ステファンは、みんなの会話には入らずに、黙って食事をしていた。

そんな、ステファンが気になる僕は、

みんなと会話しながら、

たまに目線だけ、ステファンに向けた。

「ごちそうさまでした」

食べ終わった僕達は、

食器を返却口に返して、食堂を出た。


「今から、どうする?」

リアムが言うと、

「そうだね……運動広場で、バドミントンする?」

レオが答えた。

「うん、そうしよう」

僕とエドが賛同すると、

ステファンがうなずいた。

僕は、運動広場へ移動しながら、

「何か、困っていることがあるなら、相談にのるよ」と、ステファンに話しかけようか、

迷っていた。

でも、決断する前に、運動広場に到着して

しまって、結局、何も聞けなかった。


食堂では、元気がない様子だったステファンだけど、

バドミントンは、笑顔でやっていたので、

僕は少し、ホッとした。

さっきは、本当に七味が辛かっただけだったのかな?


「喉が渇いた!」

レオとエドが、

ほぼ同時に言った3秒後、

「気が合うね、僕も喉が渇いた」

リアムも言った。

みんなで食堂へ、水を飲みに行き、

バドミントンをして疲れたので、運動広場へは戻らずに、部屋で休憩をすることにした。


部屋に着くとステファンが、

「図書室に本を、借りに行ってくるよ」

と言ったので、

「一緒に行くよ」

僕が、声をかけると、

「借りたい本は決まっているから、すぐに戻るよ」

と言って、

部屋を出て行った。

ステファンの後ろ姿を見送って、振り返ると

「ステファン、どこ行ったの?」

リアムとレオ、エドが僕に聞いてきた。

「借りたい本があったみたい」

僕が言うと、

「そうか」

リアム言った。

「バドミントン、楽しかったね」

「うん、でも、疲れた」

それぞれベッドに、横になった。

この日から僕は、

ステファンのことがすごく気になって、今は元気かな? 様子を無意識に、観察するようになった。

それから、数日間は、

これといってステファンに変化はなく、

本を借りに行くと言って、ひてりで図書室に行くことは増えたけど、

それ以外は、普通に見えた。



2回目の薬を服用して、2週間が経過した

ので、今日は、薬の効果の有無や細胞の変化の具合、健康面を調べる日で、

グループごとに検査を受けた。

検査は簡単で、針をちょっと、親指に刺して

その針先についた、ほんの少しの血液と、

体重計のような台に、2分くらい乗ったままじっとしていたら、終わった。

これだけで、何が分かるのかな、あんな少しの血で……と思ったけど、

このシェルターの中は、最、最、最先端技術であふれていて、どんな仕組みかな?

と考え出すと、頭から煙が出そうなくらい、

僕には難問だから、

深く考えるのは、やめている。


半日かけて、全員の検査が終わったら、

分析をして、

何か問題や追加の検査が必要な場合は、

次の日以降に個別で呼ばれるから、検査の

次の日から3、4日以内に呼ばれなかった

人は、問題がなく順調だということで、

最終的な検査結果は、

呼び出し分の人の分析が終わってから

発表されると、リサが教えてくれた。

僕達の検査の時間は、昼前だったから、

医務室Bから、そのまま食堂へ行って、

ご飯を食べた。

そのあと、運動広場に行くことになって、

今はその移動中。

リアム、レオ、エドは3人でよく、

ふざけ合っているので、

僕とステファンは、3歩くらい離れて歩く。なぜなら、そのふざけ合いに巻き込まれないようにするため。

これは、よくある僕達の移動風景だ。

僕とステファンは、並んで歩いているけど、そんなに話さないというか、

僕が一方的に話をして、あいづちを打ってくれるか、質問をすると答えてくれる感じ。

何か困っている? と言う質問をできずに

いた僕は、今、聞いてみようかな?

ステファンの雰囲気を、読み取ろうとして

いたら、運動広場に着いてしまった。

また観察しただけで、2人きりのチャンス

タイムが終わってしまった。

ガッカリしていたら、

ステファンが、

「読みたい本があるから、図書室に本を借りに行ってくるよ」

と言ったので、

チャンス到来とばかりに、

「一緒に行こう」

と言うと、

「大丈夫、ありがとう」

向きを変えて、

図書室の方へ行ってしまった。

「借りたら、来てね! 待っているよ」

ステファンの後ろ姿に僕が叫ぶと、

ふりかえって、うなずいてくれた。

またひとりで行くと、言われてしまった。

その様子を、ふざけ合いながら、見ていた

らしい3人が、僕を見た。

「ステファン、どこに行ったの?」

リアムとレオは聞いてきたけど、

エドは、何も聞いてこなかった。

「本を借りたら来るって言っていたから、先に入ろう」

僕は、リアムとレオの背中を押しながら、

運動広場の中へ入った。


リアムとレオは、バドミントンのコートの

近くに建てられていた、ベゾラスが

埋め込まれている柱に行き、ラケットを

5人分とシャトルひとつを出現させた。

僕とエドは、バドミントンのコートの横に

設置してあったベンチに、並んで座った。

「はぁ……」

同時にため息をついたので、

僕とエドは、顔を見合わせた。

「2人ずつ、ジャンケンでチームに分かれよう」

レオが言ったけど、

「食べたばかりで、今は動けない」

僕が断ると、

「じゃあ、僕がスカイの話し相手になってあげよう」

エドが言った。

「ありがとう」

僕は、ニコッとした。

「じゃあ、レオ、勝負だ!」

リアムがラケットを持って、ポーズをすると「望むところだ!」

レオもラケットを持って、ポーズをとった。「どっちも、頑張ってね」

僕は、2人に声援を送った。

レオとリアムの応援をする以外の時、

僕とエドは、お互いの出方を探っているかのように、無言だった。

僕は、ステファンについて聞きたいことが

あって、

エドは、話したいことがあると思う。

でも、お互いに切り出せなくて、

何も話せずにいた。

「何の本を借りたの? 審判する? 選手になる?」

運動広場に入って来たステファンを見つけたレオが叫んだ。

ステファンは、僕達の方へ来て、

「借りたい本は、見つからなかった。少し疲れたから、部屋で休むね」

と言った。

「具合、悪い?」

僕は、とっさに聞いた。

「具合は、大丈夫。最近、寝つきが悪くて、寝不足で」

ステファンが言った。

「ゆっくり、眠ってね」

リアムが言うと、

ステファンは、うなずいて、

運動広場の出入り口の方へ行ってしまった。「ステファン、何かあったの?」

レオがエドに向かって、気軽に聞いたので、

そんなつもりは、まったくないと思うけど、僕の聞きたかったことを、代弁してくれて

ありがとう、心の中で思った。

「何かって?」

エドは、僕が思っていた答えとは、

違う反応をした。

「え? 何もないの?」

レオが驚いて言うと、

「何がないの?」

エドが言った。

「ステファン、何の本を探しているのかな? よくひとりで図書室へ行くけど、本を持って戻ってくるのを、見たことがない」

リアムが言った。

「何かある気がするよ? エドは、何か知っている?」

僕がズバリ、便乗して聞くと、

「まぁ、強いて言うなら、あると言えばあるかな」

エドが、ニヤリとした。

「何があるの?」

リアムも、ニヤリとして言った。

「携帯電話もカレンダーもないから、今日が、何月何日か正確には分からないけど、『あの日』は、ステファンの誕生日の1か月前だった。薬の服用の日数とかを鑑みると、そろそろ、誕生日の日な気がする」

エドが言った。

「そうなの? そろそろ、ステファンの誕生日なの?」

「なら、お祝いしないと!」

レオとリアムが嬉しそうに言った。

話をはぐらかされたような気がするけど、

今は、誕生日という楽しい話をしている

から、水を差すのはやめておこうと思った。

「たぶん、だけどね」

エドが言うと、

「それでも、誕生日付近なら、どうやって、お祝いするか、相談しよう!」

リアムが、持っていたラケットを、

高く掲げた。

「ここでは、ケーキとかクッキーや、パーティーの定番アイテムは、なさそうだよね?」レオが言ったあと、

「あ!」

あることに気づいて、閃いた。

本物のケーキとかはないけど、

ベッドのように、ベゾラスで出現させれば

誕生日会っぽくできるのでは? と考えた。



リサに相談するために、足早に部屋へ戻ると

ステファンがいたので、エドが適当な理由を作って、連れだしてくれた。

それから、リサに相談すると、

「誕生日会? 何、それ」と言ったので、

何でも知っていると勝手に思っていたから、驚いた。

でも、考えてみれば、知らなくて当然かも

しれない。

ロボットに、初起動日とか完成日はあっても

それを、「誕生日」として、プログラムに

組み込んだりはしていないよね、きっと。

僕達は、こう考えて、

リサの誕生日って、何? 発言に納得した。ベゾラスには、手動モードがあるから、

出現させたいものの絵を描けば、出現させ

られる、とリサが教えてくれたので、

僕達はまず、ケーキの絵を描くことにした。

「絵を描くのが、得意な人いる?」

僕が聞くと、

沈黙が訪れたので、

「とりあえず……ひとりずつ描いてみて、1番上手なケーキを採用するのはどう? 」

と聞くと、

「う……ん」

自信なさげに、みんなが言った。


「ケーキって、こんな感じだったかな?」

「形がいびつ……まずそうになっちゃった」

「まずそうでも、見た目がよければ、いいのでは? 食べるわけではないし」

ケーキの絵を、順番に描いてみたけど、

全員、絵心皆無で、

スタートから準備が、行き詰まった。

そんな、不甲斐ない僕達を見ていたリサが、

「やれやれ」と言って、

しっぽの先でスラスラと、おいしそうな

ケーキの絵を描いてくれた。

「おぉ! リサ、すごい!」

僕達が、大絶賛していると、

「これくらい、みんな普通に描けるけど」

と言った。

リサの言う、「みんな」はAIロボットの

ことだと思うけど、

僕達の気持ちは、傷ついた。

もう少しリサに、

思いやりの心があればいいのに……。


本当に、AIにプログラムをしたのは誰?

優しいものの言い方をするプログラムを、

忘れている、絶対に!

僕は、そう確信した。


リサに気持ちを一回、傷つけられたけど、

ステファンのために!

気持ちを奮い立たせて、準備を再開した。

8個の風船に、「誕生日おめでとう!」の

文字を書いたり、折り紙で作った輪っかの

絵、クラッカーの紐を引いて、紙吹雪が出て

いる瞬間など、パーティーの雰囲気が出る

ものを、リサの指導を渋々、受けながら、

どうにか書き上げて、部屋の中に出現させて

飾った。

「こんな、感じかな?」

「うん、いい感じ!」


無事に、誕生日会の雰囲気ができあがって

きたので、

「エドとステファンを読んで来て」

リサに頼むと、

「通信中」

音声が流れて、

「図書室にいる」と教えてくれた。

一瞬、沈黙が訪れた……そして、

「行ってくる」

レオが、部屋を出ていった。

「リサは、呼びに行ってくれないの?」

僕が言うと、

「どこにいるのか、探してあげたけど?」

と言った。

「そうだね、リサ。ありがとう」と言いつつ僕はここの中で、言い方! と叫んだ。

「ドキドキするね」

リアムが落ち着かない様子で、

部屋の中をウロウロしていた。

「喜んでくれると、いいね」

僕は、リアムに言った。


しばらく待っていると、扉をたたく音がして

「入るよ」

レオが、合図をくれたので、

僕は、内側から扉を開けた。

「ステファン、いいって言うまで、目を開けないでね」

レオが言うと、

「分かったけど……なんで?」

ステファンが、不思議そうに言った。

「いいから、いいから」

レオがステファンの両手を持って、

部屋の中央まで、誘導した。

僕達は、目で合図をして、


「ステファン、誕生日、おめでとう!」


みんなで、拍手をした。

「え!? あ、ありがとう。これ、どうしたの? すごく、嬉しいよ」

ステファンは、驚いた様子で、

顔を赤らめて、笑った。

「これはね、あの冷酷なリサのご指導のもと……」

リアムが、泣き真似をした。

「だ、大丈夫?」

ステファンが、リアムの顔をのぞきこむと、

「嘘だよ」

リアムが笑った。

「驚かさないでよ」

ステファンも笑った。

ロウソクつきのケーキの火を消す動作を、

ステファンにしてもらい、

出現させた、トランプでゲームをしたり、

レオとリアムがマジックを披露したりして、

楽しい誕生日会は無事、終了した。

ステファンの笑顔が見られたので、

この「お祝い作戦」は大成功だったと思う。

みんなでご飯を食べに、食堂へ移動して、

そのあと、お風呂へ行って、部屋へ戻った。

それぞれが、ベッドへ横になった時、

「今日は、ありがとう。すごく、嬉しかったよ」

ステファンが、改めてお礼を伝えてくれた。


エドとステファンの間に、何かあるのか、

ないのか、分からないままだけど、

ステファンが喜んでくれたから、

とりあえずは、これでよし!

と僕は思った。

そして、いつの間にか、

僕もみんなも眠りについていた。




数日後、2回目の薬を服用して、

2週間後に行った検査の結果が出た。

自分的には、見た目も変わっていないし、

これといって何か宇宙に適応しています、

という感じもなかったけど、

ちゃんと変化をしていたみたいで、

僕達とリリアさんのグループ、他に、

いくつかのグループの人達も、肺呼吸を

しない、宇宙空間にある太陽風や

宇宙線などを浴びても病気にならない、

体中の水分が沸騰しない、身一つで、

宇宙空間へ出ても、生きられる体への変化が

完了していた。

そして、今回、変化が完了していた僕達が、

先発隊として、3日後に、

あの、「アムズアスペース」という

避難場所へ、出発することになった。


「ついに、宇宙か」

リアムが、ドキドキするね、という表情を

していた。

「本当に、信じられない。宇宙に行ける日が来るなんて。しかも、訓練なしで、行けるなんて」

僕も、ドキドキ、ワクワクな表情で言った。



○次回の予告○

『ようこそ、アムズアスペースへ』













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