第27話 (絵あり)火星の大規模農園で、お米を作ろう!

近日ノートの☆24☆と☆25☆と☆26☆

☆64☆、☆65☆、☆66☆に挿し絵があります。



数日後に迫った、ヒューマンレベルの判定日までに、ヒューマンレベル4を、

6にすることは不可能だと感じた、

ヒューマンボウルの人だけではなくて、

数日では、ヒューマンレベルを6には上げられない、と感じた生体ヒューマンの人も、

あの権利を行使して、

アムズの人口は、すごい勢いで減っていた。


この話を聞いた時、

ヒューマンレベルが6になれなくても、

アムズで過ごせばいいのでは?

不老不死の体を捨てて、普通の人間の体に

なりたいの?

そんなに地球に戻りたくて、戻れないから、と絶望するの?

地球に戻りたい、と強くは思っていない

からか、レベルを6にできないから、とあの権利を行使する人々のことが、

僕は、単純に不思議に思った。




今日は、地球環境モニター室の全員で、

火星の表面積の4分の2を使った、

大規模農園で、畑作業をする日。

ここでは、部門ごとに交代で、お米、小麦、野菜、果物、綿花をみんなで育てている。


「火星でのお米の収穫は、これで最後か」

「そうだね。長かったアムズでの生活が、終わるのか……」

リアムとレオが、遠い目をしながら言うと、

「そんなこと、ないと思う。体の培養には、15年くらいかかるから、まだ何回か火星で畑作業の日があると思う」

ステファンが、遠慮がちに言うと、

「さぼらずに、しっかり、作業をしたら?

レベルが6にならなかったら、どうするの? 判定日の翌日までは、油断しない方がいいと思うけど」

エドが、ニヤリとしながら言うと、

「そ、そうだね。さぼっている場合では、ないね」

リアムとレオが、慌てた様子で言った。

「単純だよね」

エドが、リアムとレオを見ながら笑った。

僕とステファンは、ふざけ合っている3人を

温かい気持ちで、眺めていた。

「ヒューマンレベルが6にならなかったら、どうなるのかな? アムズに残るってことだよね?」

僕が言うと、

「それは……」

ステファンが、言葉をつまらせた。

「違うの? 何か知っているの?」

「スカイ、一緒に稲を運ぼう」

「あ、うん。いいよ?」

僕は、首をかしげつつ、うなずいた。


僕とステファンは、リアムとレオ、エドが、ラノスイリトファティムで出現させた

「鎌」を使って、収穫した稲を、ヴィグラで

吹き出した、エアボウルに次々と投げ込んで

回収していった。

エアボウルが、稲でいっぱいになったので、

脱穀機と精米機、一時貯蔵庫がひとつに

なった機器に持って行くために、

ステファンと一緒に、エアボウルを引き

連れてオーヴウォークに入った。


「ヴィグラ」とは、

運搬用のエアボウルを吹き出せる機器で、

宇宙空間や天体の中にある、目や計測機器を

使っても、見ることや存在を確認することが

できない物質、「シアーエーテルベント」を

原料に、色々なものを作りだす、

「特定物質圧縮加工装置」の一種。

使い方は、シャボン玉を口で吹く時のような

感覚で、これを運びたい人やものに向かって

吹くと、器機の先端部分にある吹き出し口

からエアボウルが出てきて、人やものが

取り込まれて、完全に中に入ると、

宙に浮く。

手で持たなくても、押さなくても、

吹き出した人の動きに合わせてついて来て

くれるので、軽いものから、すさまじく

重いものまで、なんでも運べるし、

指1本で押して移動させることができる、

便利な器機。


「エアボウル」とは、

ヴィグラを使って、シアーエーテルベントを

原料に、圧縮して球の形に、加工したもの。

不要になった時は、エアボウルのどこでも

いいので、親指と人差し指で、押し擦ると、

跡形もなく消滅する。


脱穀などの機器が置いてある場所の近くに

来たので、オーヴウォークから出た。

稲や麦、綿花など種類によって機器が違う

ので、稲専用の機器を探して、

脱穀機の受け取り口にエアボウルを入れて、

親指と人差し指で押し擦ると、エアボウルが

消滅して、稲が管に吸い込まれていった。

脱穀が終わると、精米機で精米されたお米が

一時貯蔵庫にたまっていった。

持ってきた稲がすべて精米されて、

一時貯蔵庫に入ったのを確認できた

僕とステファンは、レオ達のいる場所へ戻る

ために、オーヴウォークに入った。


体が浮いて、動き始めたので、僕が座ると、

横にいたステファンも座った。

「さっきの話だけど……噂を聞いたよ」

ステファンが言った。

「噂? どんな?」

「レベルが6にならなかった人のジッタは、強制的に生体ヒューマンとヒューマンボウルの体から出されて、人間以外のありとあらゆる生き物の体に入れられるらしい……」

ステファンが言った。

「えっと……人間ではいられなくなるの?

本当に? なんだか怖い話だね……ちなみに…… それは、選べるの? 」

僕は、こわばった表情をした。

「判定日の時点でのヒューマンレベルによって、どの生き物の体に入るのかが決まるから選べない、と僕は聞いた……あくまでも噂だから、信じるかどうかは、スカイ次第だよ」

ステファンが言ったので、

「懐かしいな、地球にいた時に好きだった、都市伝説みたいだ。信じるかどうかは、自分次第」

僕は、なんだか嬉しくなった。

「ところで、ありとあらゆる生き物って、具体的には何?」

「具体的には知らないけど、文字通りだと思う。人間以外の動物とか鳥類、昆虫類、爬虫類、両生類、魚介類、微生物とか……かな?」

ステファンが言った。

「なるほど……でも、選べないのは、あれだね」

僕が、困った顔をすると、

「僕もそう思う。そう思うからこそ、なりたくない生き物になったら嫌だから、選べないなら、せめて死は選びたい、とあの権利を行使している人が増加していると聞いたよ……」

ステファンが暗い表情をした。

「そうか……そうだよね。なりたくないというか、嫌いな苦手な生き物って誰にでもあるよね。でも、あくまでも噂の段階で、どうなるのか、本当のところは分からないのに、命を粗末にするなんて……今の時点で、あの権利を行使するのは、どうかと思う……」

僕が言うと、

少しの間、沈黙が僕とステファンに訪れた

あと、

「僕は……もし、どの生き物の体に入るのか選べるとしたら、鳥になりたい」

ステファンが、僕を見て言った。

「どうして?」

「地球環境モニター室で見てきた、地球に点在する遺跡や絶景を、実際に間近で、この目で見てみたい。鳥なら、山も海も、国境や人間が決めた立ち入り禁止区域とか、そういうことに関係なく、自由に見学ができると思って」

ステファンが、嬉しそうに言った。

鳥には、国境も立ち入り禁止区域も関係ない

僕は、その通りだな、と思った。

そういえば昔、

ルーカス室長に、調査したいと申し出て、

断られた出来事を思い出した。

「僕も、行きたい場所があるよ」

「どこ?」

「陸地にあった火山と海底火山を実際に見に行ってみたい。天変地異があったし、地形に変化とかがなくて、現存していたら」

僕が言うと、

「じゃあ、一緒に行こうよ」

ステファンが、笑顔で言った。

「うん、そうしよう」

僕は、ステファンと一緒に、

大空を飛びながら、遺跡や火山を見学して

いる風景を、思い浮かべた。

すごく楽しそうだ、と思った。


リアム達のいる場所に戻ると、

刈り取った稲がたくさん、あちらこちらに

置いてあったので、

ヴィグラで、エアボウルを吹き出して、

稲を回収していった。


2日間の火星の大規模農園での作業が

終わって、

次の日は、1日だけ休みだったので、

みんなで、土星の環リンクへ行って遊んだ。




次の日、ステファンから聞いた話が、

気になったいたので、

ルーカス室長に尋ねてみることにした。

「あの……噂を聞いたのですが」

「どんな?」

「ヒューマンレベルが、6になれなかった人のジッタは、生体ヒューマンとヒューマンボウルの体から取り出されて、強制的に人間以外の生き物の体に入るとか……本当ですか?」

僕が聞くと、

少し黙ったあと、

「それは……考えない方がいいと思う。ミステリーだから」

じっと僕を見つめたあと、ウィンクをして、

ルーカス室長は、去っていった。


ルーカス室長は、

「ミステリー」という言葉が気に入っている

好きだ、と確信した。

でも、考えようによっては、

便利な言葉かもしれない。

言いにくいとか、答えに困った時、

分からない時は、

この「ミステリー」の一言で、

すべてが解決するような気がする。

僕が最高司令官になったとしたら、の仮の

話だけど、何かを伝える時に、

答えに困った時には、

ルーカス室長直伝の伝家の宝刀、

「ミステリー」を使わせてもらおうと

思った。


「答えになっていませんよ」

去っていく、ルーカス室長の後ろ姿に、

僕は、つぶやいた。


ルーカス室長は、「考えない方がいい」

とサミュエルさんと同じことを言っていた。

レベルが、6にならなかった人の

ジッタは……人間以外でも、生まれ変われる

のなら、いいのかな……でも、

「強制的に体から、取り出される」という

否応なしの雰囲気に、すごく恐怖を感じた。

これが事実なら、恐ろしい結末だ……と僕は思った。

当初、地球全土からレベル4以上と、

18歳未満の人々が来ていたから、

アムズの人口的には、

数十億人はいたと思う。

たくさんの人々が、

ヒューマンレベルの判定日までに、

レベル6に到達できないと感じて、

「あの権利」を行使していたので、

今は、数億? 数千万? 桁がいくつか減った人数になっていると思う。


リアムやレオ、エド、ステファンは、

地球に戻ったら、何をする?

まずは、お米を作って、

家は、隣同士か、シェアハウスにする?

川で遊んで、木の上に秘密基地を作ろう!

木星のカフェの支店、『地球支店』を作ってみんなで経営しよう!

とにかく、ワクワクしていて、

僕との温度差が、すごかった。

だから、いつも「うん」とか「いいね」

と軽く賛同するくらいしかできないし、

「スカイは、何がしたい?」

と話をふられる時もあるけど、

地球の大地に立っている自分の姿を、

想像することができなくて、

何も思いつかなかった。

そして、

リアムとの別れよりも、

エルザに会えなくなる……このことの方が、辛い、と僕は感じた。


○次回の予告○


『ヒューマンレベルの判定日』











「」



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