第22話 「6」がある

休みが終わって、

3、4日間勤務の1日目がやって来た。

地球環境モニター室に、

今から勤務の面々がそろったのを確認した、

ルーカス室長が、

「さて、今日で、地球再生化計画が始まって、早くも1万8000年ほどがたちました。そろそろ、最終段階に入っていきます。これまで、地球にいた生き物と言えば、微生物やバクテリアくらいだったけど、ついに、人類以外の哺乳類、魚介類、爬虫類、昆虫類、鳥類、食べ物の種などが放たれます!」

と言うと、

「おぉ!」

みんなから、ついにこの日が来たか、

と歓声があがった。

「ところで、動物とかを放つって、今まで、どこで飼育していたの?」

レオが質問をすると、

「飼育は一切していなくて、君達と一緒だよ。地球で、DNA情報と細胞を採取して、保管していたから、それを培養して放ちます! なので、これからは主に、放たれた生き物や作物が、目安通りかを確認する作業になります。今回の勤務で、誰がどこで何を観察するのかを発表します」

ルーカス室長が言った。


僕とリアムは、

北半球のCO区域の担当になった。

放たれた動物が、計画書通りの数で分布して

自力で生きていけるのか、

生きていける環境になっているのかを

確認して、計画書通りでない場合は、

作物以外に関しては、

生命体管理室にテレパをして、

何がどう足りないのか、多いのかを報告して

改善して欲しいと頼んで、

作物の不作や過剰、分布不足などは、

作物管理室へ報告することになった。

そして、

動植物が、計画書通りになったら、

次はいよいよ、

僕達、「人類」の番らしい。


「みんなで、地球に戻れる日が近づいて来たね!」

「久しぶり過ぎる地球での暮しか……何だか、感慨深いな」

ヒューマンボウルの人々も、

「やっと、人間の生身の体になれる!」

と希望に満ちていた。


だけど、

数日後、まさかの知らせが届いた。


ヒューマンレベルの最高段階は、

これまで、「レベル5」だったのに、

その最高段階が引き上げられて、

「レベル6」という段階ができたことと、

ヒューマンレベルの判定日に、

レベルが6に達した人だけに、

「地球に適した体を培養して、ジッタを移すことができる権利」と、

「地球へ向かう宇宙船に乗れる、片道切符が貰える権利」が与えられる、

ということだった。


これでは、避難所に入れる人が最初から

決まっていた「あの日」とまったく同じだ。

そうか……地下シェルターで、

サミュエルさんが言っていたのは、

これだったのか。

「ヒューマンレベルの制度は続く」

その理由は、

地球へ戻れる人が、最初から、

レベル6の人だけだと決まっていたから、

ヒューマンレベルの制度は、廃止になら

なかった、ということだったのだ。

「その時が来れば」とは、

地球の環境が正常になり、

地球に住むことができるようになった時、

地球へ戻れる人が決まっているということを知る瞬間、知らせが届いた時のことだった

のだ。


みんなで協力して、地球再生化計画を

遂行しながら、アムズに住む仲間として、

仲良く過ごしていたのに、突如、

シビアナ世界になってしまった、アムズ……いや、違う。

思いおこせば、はじめから、

ヒューマンレベルが、中心の世界だった。


アムズにいる人、全員で地球に戻れると

思っていただけに、生体ヒューマンの人も

落胆していたけど、あとひとつ、レベルを

上げればいいだけなので、

レベル4から2つ上げて、レベル6にしなくてはいけなくなったヒューマンボウルの人の落胆具合は、生体ヒューマンの人とは、

比べ物にならないくらいの差があった。

絶望を感じて、

「あの権利」を行使する人が増加して、

ヒューマンボウルの人の人数が、

これまでにない規模で、減っていった。


何を言っても仕方がない。

決まったものは諦めて受け止めて、

前を向いて、地球に戻るために、

レベルが6になれるように、まい進する

しかない! と思った反面、

まだ戻れる、と決まったわけではないけど、

もし、戻れるとなった場合に、

「戻りたい」と強くは思っていない自分が

いることに、気づいてしまった僕は、

迷いを感じた。

それはなぜか……兄さんとおじいちゃんが

いないからかもしれない……。

僕達は、

「みんなで、地球に戻ろう!」という、

共通の目標を立てたので、とりあえず、

迷いを感じたことは、隠しておくことに

した。


僕達は、スクエアに、どうしたらヒューマンレベルを6に上げることができるのか、

アドバイスをもらおうと思って、聞くと、

思ってもいなかった言葉が返ってきた。

「今のままを続けていれば、自然にレベルは6になる」

とスクエアが言った。

「今のままでいいの?」

みんなで、その真意はなんだろう?

と考えていたら、僕達の中で、一番頭のいい

ステファンが、そうかも! と思える仮説を

思いついた。

ヒューマンレベル5の人は、

今のままを維持することができるかを問われていて、今のままの心持ちで一生懸命、

地球再生化計画に尽力すれば、

ヒューマンレベルの判定日には、

レベルが6になっているのではないか、

ということだった。

すごく納得のできる話だったから、

僕達は、今のままを続ける努力をすることに決めた。

でも、僕は、迷いながら……。




僕が、深海の魚の分布を調べていると、

「なぁ、スカイ」

ため息をつきながら、

リアムが話かけてきた。

「どうしたの? なんだか、悩まし気だね」

「ちょっと、ここを見て」

ベゾルクに、どこかの砂漠が映っていた。

砂漠が、どうしたの? と思ったけど、僕はピンときた。

「もしかして、緑化したいの?」

正解だったようで、

リアムが頭を縦に、何度も振った。

リアムは、僕が見逃すというか、

そこも緑化したいの? と驚かされるくらい

緑化命! な感じのタイプだった。

「この広大な砂漠のエリアをもっと、というか全部、緑化しておけば、きっとまた起きるであろう、砂漠化問題も起きにくくなると思うのだけど、どうかな?」

リアムが言った。

少しでも遅らせられるように、緑化して

おいた方が、いい気はするけど……。


僕はふと、ルーカス室長が前に言った、

「ゼロからなにかを作り上げるのは大変だから、文明を築くヒントが必要だ」

という言葉を思い出した。


もしかしたら、それとは違うかもしれない

けど、砂は、ガラスとか家を作る材料に

使っていたと思うから、なくなったら困る

気がしたので、

「緑化命のリアムだから、緑ではないところは、気になるよね。でも少しは砂漠というか、『砂』は必要だと思う。公園の砂場や海岸の砂浜とか、ガラスにも利用できるよね?」

僕が言うと、

「確かに。公園の砂場にも、海岸の砂浜にも『砂』は必要だね、絶対に。ついつい、裸の地面を見てしまうと、緑の洋服を着せてあげたくなって」

また、緑化熱が暴走しちゃった、

とリアムが照れ笑いをした。

「リアムは、緑化に熱い男だからね」

何となく、フォローするように僕が言うと、

「そう、僕は熱い男なのだ!」

調子に乗ったリアムが、おもしろくて、

笑ってしまった。


「スカイ、ちょっといい?」

ルーカス室長に呼ばれたので、

「なんですか?」

と答えると、

手招きをしてきたので、

「ちょっと、行ってくるね」

とリアムに言って、

ルーカス室長のもとへ行くと、

「スカイと内密に話したいって、サミュエルが言っているよ」

と言った。

「サミュエルって、あのAIヒューマンの親戚だと言っていた、アムズの最高司令官のサミュエルさんですか? それとも、別のサミュエルさん? 一体、なんの用ですか?」

と聞くと、

「そうそう、あのサミュエル。まぁ、話しは本人に聞けば分かるから。誰かに、どこに行くのか聞かれたら、僕の手伝いだってことにして、この塔の一番上の部屋にいるから、行ってきてくれる?」

と言ったので僕は、

「分かりました、行ってみます」

と返事をした。

なんだろう? と思いつつ、

リアムに、ルーカス室長の用事で、

少し行ってくるね、と伝えて、

僕は、地球環境モニター室を出た。


○次回の予告○

『2人ので会いとアムズの呪い』




















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