第10話 旧人類と旧旧人類と旧旧旧人類

次の日、リリアさんに起こされて、

目が覚めた。

洗顔タオルで顔を拭いて、身支度を整えて、僕とリアムは、

「行ってきます!」

と言って、

リアムと僕の家がある浮遊コロニーから、

月へ向かった。


地球環境モニター室に入ると、

ルーカス室長に、

「撮りためた写真の分析を中心に、作業して」

と言われたので、

「了解です」

と返事をして、

僕とリアムは、分析ブースの椅子に座った。コンピューターに保存してあった、

地球の陸地や海洋を撮った写真を1枚、1枚確認して分析、分類をする作業を開始した。

しばらく、

何事もなく作業をしていたリアムが、

悩ましげな様子をかもしだした。

「どうしたの?」

僕が聞くと、

「これ、見てよ」

机の中央に埋め込まれているベゾルクに、

写真を映し出した。

「これが……何?」

「ここを見て」

映し出した写真の一部を拡大して、

指でさした。

「ん? ジャングル?」

僕が見解を言うと、

「違うよ」

リアムは、不機嫌そうに、

頬をプクッと膨らませた。

「ここを、よく見て」

強めに画面を、人差し指でたたいた。

「そんな態度をとられても、ジャングルにしか……あ、もしかして、この建物!?」

僕が言うと、

「正解!」

嬉しそうに、

リアムが拍手をした。

「それで、これが何?」

「これを見ても、分からないの?

えーん 」

両手で顔を覆って、泣き真似をしたので、

僕は面白くなって、

笑ってしまった。

「ずいぶん、楽しそうだな。ちゃんと、作業はしているのかな?」

ルーカス室長が、

僕達のところへやって来た。

その声を聞いたリアムは、泣き真似をやめて

「室長、スカイがまったく分かってくれません……」

と言った。

それを聞いたルーカス室長は、

「いくら親友でも、リアムの考えをすべて把握なんて、不可能だよね」

僕のフォローをしてくれた。

「室長、その通りです」

僕は頭を、縦に何度も振った。

「2人して、僕を責めるなんて、酷いよ」

両手でまた顔を覆って、泣き真似をした。

僕とルーカス室長は、顔を見合わせて、

クスクス笑った。

「それより、何が気になったのか、教えてよ」

僕が言うと、

「分かったよ」

少し、ふてくされ気味のリアムが言った。「ここにある建物のせいで、木の成長が妨げられているような気がする。例えば、この部分。木は、もっと伸びたいと言っているのに、屋根が邪魔をしている。木の芽が出た、2000年くらい前からの写真をつないでみると、よく分かると思う」

僕とルーカス室長は、

リアムの編集した写真を見せてもらった。「言われてみると、邪魔になっているのかな?」

ルーカス室長が、写真を見て感想を述べた。

「ですよね! 植物の成長の妨げになっているので壊して欲しいと、依頼をしてもいいですか?」

リアムが聞くと、

「壊すのか……ちょっと待てよ。これは、駄目だった記憶が……」

ルーカス室長が、

何かのデーターを画面に出して、確認をして

「やっぱり。ここは、保護の対象になっている、旧人類系の遺跡だ」

と言った。

「旧人類系? 何ですか、それ?」

リアムが首をかしげて言うと、

「リアムやスカイと一緒に生きていた人間と、その祖先とかのことだよ。一旦、地球上での暮らしが終わって、本当の意味での地球人はもう、ひとりもいないだろう? しいて言うなら、ここにいるみんなは、アムズ人かな?」

ルーカス室長が言った。

「なるほど……確かに、僕達の体は、肺呼吸ができない、地球にいた時とは、まったくの別物ですね。旧人類、確かにそうだ」

リアムが、納得した表情をした。

「数千年前に地球にいた僕達のことは、『旧人類』と呼ぶのですね。知りませんでした。その旧人類の遺跡が保護されているとかの情報は、どうやって見るのですか?」

僕が聞くと、

「この情報は、室長以上でないと見られないし、今、残っている遺跡とかは、ほとんど、保護の対象になっているやつだから、遺跡や遺物があっても、保護の対象だな、と思って気にしなくていいよ」

ルーカス室長が言った。

「そうなのですね、分かりました」

僕は返事をした。

「建物が完全に、緑化の邪魔になっているけど、このまま様子見、ということですね……」

リアムは、

納得しきれていない様子だった。

「うん。でも気になるなら、植物管理室に、幹や枝が複雑な形にはなるけど、建物を避けながら伸びていく樹木や草花の種を、遺伝子操作をして作って蒔いてもらうか、建物をうっすら覆う程度の草花の種入りの土を蒔いてもらえば、建物を残したままでも、この部分の緑化はできると思うけど、こんなやり方はどう?」

ルーカス室長が提案すると、

しばらく画面を見ながら、考え込んで、

「壊せないなら、そのうっすら覆う作戦が、いい気がします! さっそく、植物管理室にテレパして、相談してみます」

リアムは、テレパを始めた。


僕が、画面をじっと見つめて、

考え事をしていると、

その様子に気づいたルーカス室長が、

「どうした? スカイも建物は、壊したい派?」

と言った。

「そうではないですけど、ただ……」

「ただ……どうした?」

「ルーカス室長、実は、ずっと不思議に思っていたことがあって……」

「どんなこと?」

ルーカス室長が、空いていた椅子に座った。

「旧人類の遺跡は、さっきの場所みたいに、植物の成長の邪魔になるので、壊すというか、地球の再生化をするなら、地球表面上にある旧人類の遺跡はすべて、破壊するか撤去するべきだと思うのですが、どうして保護するのか、理解ができなくて。何もない更地の方が、緑化もしやすいと思うのですが」

僕が言うと、

ルーカス室長が笑った。

「何か、おかしなことを言いました? 僕は、真剣に悩んでいます!」

「ごめん、ごめん。なんか、昔の俺に、似ていて」

「何が似ていて、面白いのですか?」

僕は、文句気味に言った。

「俺も前回、別の惑星……じゃなかった、前に他の人がリアムのように考えて、俺はスカイと同じ疑問を抱いて、上司に質問したことがあってね。今の状況と同じで、デジャブ!? と少し笑いが込み上げて」

ルーカス室長が言った。

「そうですか……それで、上司の人は、答えをくれましたか?」

「答えね……何となくだけど、くれたかな。でも、突拍子もない回答で、まさかってなったけど」

「その答えを僕にもぜひ、教えてください!」

と言うと、

「どうしようかな?」

ルーカス室長が、もったいぶってきたので、「気になるから、教えてくださいよ」

腕をつかんで、左右に動かして、

駄々をこねてみた。

ルーカス室長の体は、揺れていた。

「分かったから、体を揺らさないでー」

と言ったので、

僕は、ルーカス室長の腕をはなした。

「オーパーツって、知っている? もしくは、覚えているかな?」

「もちろん、知っているし覚えています! その時代の技術で作られたとは思えないとか、どうやって作ったのか分からない物のことですよね? 」

「その通り、よく分かっているね。では、特別に話してあげよう!」

ルーカス室長が座っていた椅子ごと、

僕に近づいて来て、

ひっそり話をしてきた。

「ここだけの話だぞ。実は……あの保護の対象になっている旧人類系の遺跡は、旧人類ではなくて、旧旧人類と旧旧旧人類の遺跡だよ」え?

僕の頭の中に、

ハテナマークがたくさん出てきた。

「今、スカイの頭の中、ハテナだよな?」「そ、そうですけど、どういうことですか?」

図星だったので、僕は驚いた。

「俺も聞いた時、そうだったから。俺達……じゃなかった、スカイ達の人類よりも前にも実は人類の歴史が何回かあった、なんて言われても普通、どういうこと? だよね」

ルーカス室長が、ニヤリとした。

「まさに、どういうこと? ってなっています!」

「実は、地球再生化計画は、今回が3回目で、その遺跡や遺物については、地球再生化計画に2回、参加したという人が、言っていた話だよ」

「え!? 2回!? 3回!?」

ルーカス室長は一体、

何を言っているのだろう?

僕は、パニックになりそうだった。

「スカイ、大丈夫だから、落ち着いて」

僕の背中を、優しくなでてくれた。

僕は、一旦、深呼吸をして、

自分を落ち着かせて、

「どういうことか、教えてください」

「もちろん。でも、聞いた話だからね」

ルーカス室長は、

念を押した上で話してくれた。

「オーパーツと言われている物は、スカイ達の時代の人類くらい発展した科学技術もしくは、それ以上の技術で作られた物で、宇宙人とか地球外生命体が作ったのではなく、作ったのは『人類』だよ。1万年前の地層から出土したりするのは、地球再生化計画が行われている時に埋まってしまったものが偶然、土の中や海の中、生い茂る樹木や砂地、山間地域などから見つかった、ということらしい」

と言った。

「なるほど……それは、とても興味深い話ですね。長年、オーパーツって、誰がどうやって作ったのかな? と不思議に思っていたので、今、話を聞いて、パズルのピースがカチッとはまった感じで、すごく納得できました。 そういう事情があったとは、夢にも思いませんでしたけど」

ルーカス室長の話を聞いて、

僕は興奮気味に言った。

「そうだよね。誰も、きれいさっぱり歴史をいちから、始めからやり直しをしていたなんて、思わないよね。まぁ、せっかく、3回も原始人? の頃から、やり直しをしたのに、また駄目だったけどね」

ルーカス室長が最後に皮肉を行ったけど、

気にならないくらい、

宇宙と都市伝説が好きな僕は、

興奮状態だった。

「本当に、その通りです。僕達の人類が、新しく始まった3回目の歴史を刻んでいたとは、思いもしませんでした。まさに、『歴史は繰り返す、二度あることは三度ある』ですね! オーパーツの謎は解けましたけど、なぜ、そもそも、遺跡や遺物を残したりしたのですか? アムズの技術があれば、それらはすべて簡単に破壊できるし、回収して太陽の熱で消滅させることもできますよね?」

僕が言うと、

「アムズの技術なら簡単にできるけど、何て言うのかな? 文明を築くヒントが必要で、文明の繁栄は永遠ではなく、時には滅びることもあるし、なぜ滅びたのかを考察して欲しい、というメッセージだとか。まったく意味が分からないけど、気配? 思い出を残している、とも言っていたな」

ルーカス室長が言った。

「もしそうなら、まったく何も残さないか、手順を詳しく映像で残しておくとかした方が親切ではないですか? オーパーツになって余計な謎を生んでいましたよ。それに、何の気配で、誰の何の思い出ですか?」

僕が首をかしげると、

「そうだね。俺はスカイと同じ意見だけど、書いた言語が読める人がいないかもしれないから、絵が多いらしい。それに答えだけを記すのではなくて、こうかな? と考えてこそ技術は進歩するとか。僕の考えではないから、その真意は分からないし、何の気配かも誰の思い出なのかも知らないな……スカイにこんなに質問をされると分かっていたら、彼女の話をもっと、真面目に聞いたのになぁ……」

ルーカス室長が、遠い目をした。

僕は、ルーカス室長が、後悔している姿が

珍しくて意外だったので、

「誰も未来のことは分かりませんし、そういう時もありますよ。僕は、ルーカス室長の話を、しっかり聞きますよ」

と慰めると、

嬉しそうに、

「ありがとう、スカイ」

と言った。

「そう言えば、遺跡って、石かと砂が多いですよね? なぜですか?」

「いや、本当にスカイって、俺と同じ」

ルーカス室長が、笑った。

「何が、同じなのですか?」

「クロードロップじゃなくて……ち、地球の遺跡に石が多いなって思って聞いたら、天体に元々あった物を加工せずに、そのままの状態で利用している場合は、地震や外的要因、例えば、巨大隕石の衝突などで完全に破壊されなければ、永遠に存在し続けることができて、石は自然にある物をそのまま使うから、残っているらしい」

ルーカス室長が言った。

「なるほど。石は、水にも熱にも強いですもんね。ところで、『加工』とは、どんなものですか?」

「例えば、鉄鉱石から鉄を取り出して、鉄筋に加工したものが、高温で溶けて液体の鉄になると、地面に染み込んで行く。そこに石があったら、その石と結合して、また鉄鉱石に戻る、という感じに、加工前の状態に戻るらしい」


ルーカス室長の話を聞いて、

思い返してみれば、

その通りだ、と僕は思った。

あの日、最後に見た地球の陸地、地上には、たくさんの建物やガレキ、

プラスチックのゴミなどがあったのに、

数千年続いた天変地異が終わった瞬間から、ずっと地球を観察しているけど、

鉄筋コンクリートの建物だけではなくて、

木造の建物、

あんなに大量にあったプラスチックのゴミやガレキなどを、1回も見たことがない。

壊した、という話や撤去したという話は

聞いていないから、

すべて溶けて地面に染み込んで、

自然界に戻っていった、ということだったのかな。

遺跡に石製が多い理由が分かった僕は、

なんだか嬉しくなったと同時に、

悲しくもなった。

兄さんに、このことを話したい、と思った

からだ。

そして、ふと、

オーパーツだと言われていた、地下や高山に作られていた遺跡のことを思い出した。

これも、石、岩石で、できていたような気がする。

ルーカス室長の言う通り、

地球再生化計画が3回目ならば、

過去2回、今回のような天変地異が起きた、ということになる。

地下や高い場所でなら、

あの天変地異をもしかしたら、

回避することができたのでは?

だとしたら、避難所として作られた?

と僕は、推測をした。



「オーパーツに、地下都市や高山都市があるのですが、これってもしかして、避難所だったりしますか?」

ルーカス室長に聞くと、

「地下都市、高山都市……聞いたことがあるような、ないような……」

悩みだしたルーカス室長を、

僕は、かたずをのんで見守った。

「ごめん、分からない……彼女の話を、なんとなくしか記憶していなくて……」

「そうですか……」

「もし、地下や高山とかに避難できる場所があったのだとしたら、再生化計画が終わって、地球に戻ったら、生き残っている人々と再会できるかもしれないよ。長くて激しい天変地異の中では、生存できる可能性は、かなり低いとは思うけど……」

落胆した僕を見たルーカス室長は、

独自の見解を語った。

「本当ですね、避難所で生きているかもしれない可能性はありますね。でも、確かに……数千年もの長い月日を、ただの人間の体で、生き残れる気は、しませんね……」


僕なら、天変地異が終ったって分かったら、地上で生活したくなるし、太陽の光を浴びたいから、地上に出て行くと思う。

もし生き残った人がいたとしたら、

兄さんが生きていたとしたら……。

天変地異が終わって、

数千年という月日がたっているから、

目撃していても、おかしくはないはずなのに見たことがない。

兄さんは……生き残っている人はいない……ということなのかな……やっぱり。

だとしても、

本当に、避難所だったら?

地下都市は、すごく広くて立派な施設だったと思うから、災害が来た!

となってから作り始めたのでは、

間に合わないし、

「文字が読めないかもしれないから、絵を描いた」ということには、納得できるけど、

そもそも、誰がそれを描いたのかな?


悩まし気な僕の様子に気づいた

ルーカス室長が、

「どうした?」

と言った。

「納得できる部分と、そうではない部分があって」

「どんな部分?」

「最初の人類は、どうやって文明を起こして発展していったのか、地下に岩石を掘って避難所を作るには、ある程度、日数が必要だと思うので、アムズにある技術のように、物質を一瞬で出現させない限り、間に合わないですよね? 事前に、天変地異が起こることが分かっていたら別ですけど、そんなことって、ありえますか? それに、鉄鉱石や建物に使われている木材は、地球に元々ある石や木ですよね?」

僕が言うと、

「確かに……どうしてだろうね? いつ作っていたのかな? 鉄は、溶けるから駄目なのかな? 木は、火で燃えてしまうから? スカイ、どう思う?」

ルーカス室長が、

僕に質問をしてきたので、

「逆に質問されても、困りますよ」

僕が笑うと、

「あはは、そうだね」

ルーカス室長も笑った。

そして、

「ん……ん」

2人で顔を見合せながら、首をかしげた。

「あ!」

「ど、どうした!?」

僕が突然、叫んだので、

ルーカス室長が驚いた。

「すいません、いいことを思いついて。その彼女は、どこにいるのですか? 直接、話を聞いてみたいです。そうしたら、色々な疑問が解けますよね」

頭を何度も縦に振りながら、

僕の話を聞いていたルーカス室長は、

「スカイ、鉄鉱石のことも彼女のことも何もかも……まだ、まだミステリーよ」

ウィンクして、

僕から離れて行った。

「えー! 室長!?」

僕は、開いた口が塞がらなかった。


ルーカス室長の姿を目で追っていると、

リアムの頭上からテレパのマークが消えた

のが見えた。

リアムが僕の方を見たので、

顎を手で押し上げて、口を閉じて、

何事もなかったかのように、平静を装った。


結局、オーパーツの謎が解けたようで、

深まった気がするし、

実は、地球の再生化計画が3回目で、

過去2回、参加したという人が、

ここにいるのか、いないのかも不明だし、

もう、よく分からなくなったので、一旦、今、聞いた話は頭の片隅においておいて、

また今度、考えることにした。



テレパの結果、どうなったのかをリアムに

尋ねると、

「今ある木は、そのままにしておいて、建物を避けながら伸びていく木の種と、土の中に草花の種と肥料が入ったカプセルを作って、蒔き終ったら、テレパをしてくれることになったよ」

と言った。

「そうか。これで、リアムの緑化計画が一歩、また前進したね」

1区間の問題が解決したので、

僕とリアムは、他の写真の分析作業に

移った。

しばらく作業をしていると、

「ん……ん」

とうなりだした。

緑化したい場所が、また見つかったのだと、僕はすぐに分かった。

「ルーカス室長に、聞いてくる」

リアムが席を立った。

僕は、歩き出したリアムに手を振った。

今度は、どの建物が植物の成長を邪魔して

いるのかな?

もしかしたら、その建物は……避難所だったりして……と思った僕は、リアムの席へ移動して、機器の画面を見た。

「りっぱな森だ……あ、これかな? 建物が少しだけ見える。でも、十分、緑化されていると思うけど……リアムは、どの部分が気になったのかな? まさか、この少しの部分も許せないとか……まぁ、いいか。あとで聞こう」

この建物の下に地下空間があるかどうか

知りたいな……どうすれば……

あ、そうだ!

透過線を使えばいいんだ!


「透過線」とは、

発生させることができる機器から、

直線で出てくる、電磁波の仲間で、

文字通り、透過することができる線のこと。

普段、使うことはあまりないけど、

これを使えば、

洞窟や建物を透過して見ることができる。

例えば、

洞窟を見る時にこれを使うと、

洞窟を構成している岩石や土、植物が、

色が抜けて、透明になったかのように

見えなくなって、洞窟の中だけがはっきりと見えるようになる。



僕は、誰も使っていない、写真を撮影する

機器に移動して、透過線を使って、生い茂る木々の下の確認を始めた。

地下に空間はあったけど、残念ながら、

人が住めるような広さではなかった。

ガサガサ。

木々が揺れる音がした。

音がした方向に、

機器のカメラを移動させると、

「え!?」

人影!?

まさか……でも、二足歩行の直立したような影が見えた気がする……。

「あの日」から、

1万数千年以上たっているのに……

生き残った人がいたの!?

そんなこと、あるはずもないのに、

ルーカス室長と話をした直後だったので、

もし、兄さんだったら……と僕の胸は、

ドキドキと高鳴っていた。

僕は、こっそり、

地球の中で待機させてあったAIキュープを

1台、無断で拝借した。

AIキュープは、南半球にいたので、

最高速度で北半球の先ほど人影らしきものを見た場所へ移動させた。

冷や汗が出てきた。

袖で汗を拭きながら僕は、AIキュープを

勝手に操作していることがバレないか、仮に人だったとして、兄さんのはずはないのに、

あれは兄さんなのか確かめたい、

という気持ちでいっぱいだった。

AIキュープは数分で、地球の半径ほどの

距離を移動して、目的の場所の上空へ

到着したのに、とても長く感じた。

僕は、焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりとAIキュープを降下させた。

ドキドキ、

胸の鼓動の音が、

体から漏れているかのように響いていた。

生い茂る木々を通過すると、

草花に覆われていた遺跡の姿が見えてきた。ガサガサ。

また音が聞こえた。

音のした方向を映すように、

急いでAIキュープに指令を出した。

でも、兄さんはおろか、生命体らしきものは何も映らなかった。

ガサガサ。

また音がして、

それが生い茂る背の高めの草花の下で

移動しているかのように揺れた。

僕は、AIキュープを操作して追いかけた。そして、

草花の中へ潜った。

でも、そこには、何もいなかった。

気のせいか……そうだよね、あはは。

ただの人間の体で、1万年以上もの月日、

天変地異で荒れ果てた地球で、

生き残れるはずないよね。

ルーカス室長とオーパーツのことなどを

話したから、

風で木々が揺れていただけなのに、

遺跡や草花の影が偶然、人間に見えたのだ。あー、驚いた。

作業に戻ろう。

僕は、AIキュープに待機場所へ戻るように

指令を出した。


分析ブースの先ほど座っていた席へ戻った時分析ブースの向かいで、

地球の陸地と海洋の写真を撮っていた

ステファンの姿が視界に入った。

「カウントダウン……」

デスクのスピーカーから、音声が流れた。

ステファンは、デスクの近くの壁にあった

リイフェネストロを、じっと見つめていた。

「ステファン!?」

僕が声をかけると、無反応だった。

このままでは、撮り損ねる!

僕は、慌てて分析ブースから移動して、

ステファンの代わりに写真撮影をした。

なんとか間に合った……よかった。

カメラのレンズとつながった機器から目を

離して、ステファンを見ると、

まだリイフェネストロをじっと見つめたままだった。

「どうしたの? 何を見ているの?」

声をかけると、

また何も反応がなかったので、

顔をのぞきこむと、

悲しそうな表情をしていた。

「具合、悪いの? 大丈夫?」

肩を軽くさわりながら言うと、

「え? あ、どうしたの?」

僕を見て言った。

「え? どうしたのって、僕のセリフだよ」と言うと、

ステファンの目から涙が一筋、落ちてきた。「どこか痛いの? サムさんに、見てもらおう。付き添うよ」

と僕が言った時、エドがやって来て、

「どうしたの?」

と言った。

「ステファン、具合が悪いみたい」

僕が言うと、

ステファンの様子を見たエドは、

「具合は、大丈夫だよ。スカイは作業に戻って」

と言った。

「本当に、大丈夫? スピーカーの音声にも僕の声にも無反応だったし、涙を流し……」エドが、僕の話を遮った。

「えっと、僕とさっきテレパしていたから、無反応だっただけだよ」

慌てた様子で言った。

エドの瞳が、これ以上は聞かないで、

と訴えている気がしたので、

ステファンの頭上に、テレパのマークは

出現していなかったと思うけどな、

と思いつつ、

「そう?」

僕は、分析ブースへ戻った。

しばらく、

エドとステファンの様子を見ていたけど、

普通に見えた。

さっきの出来事は、

一体、なんだったのかな?

モヤモヤしながら、僕は、写真の分析作業を再開した。



○次回の予告○

第10話

土星の環リンクへ遊びに行こう



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