第9話 (絵あり) 紙の本を、見に行こう!

#近日ノートに挿し絵があります。

本文と一緒にご覧ください。

近日ノートの☆18☆、☆19☆です。



僕とリアムは、中枢機関塔を出て、

三日月ベンチに行くために、

オーヴウォークへ向かった。



「オーヴウォーク」とは、

自動で体を運んでくれる歩道のこと。

これは、反重力を応用した特殊な仕組みで、

道は淡い水色で、キラキラしている。

利用方法は、2つあって、

ひとつは、

オーヴウォークの中へ入って、

行きたい方向へ体の正面を向けて、

3秒間くらいその場でじっとしていると、

体が浮いて、動き出す。

右や左へ曲がりたい時は、

体の正面を曲がりたい方向へ向けて、

止まりたい時は、

足の内側の側面を2回、拍手をするように

動かすと、ゆっくり止まる。

もうひとつの利用方法は、

ナノスタンプのメモリー機能を使って、

中枢機関塔にある「ナノスタンプ管理室」へ

直接行くか、テレパをして、よく利用する

場所をナノスタンプに登録することが

できる。

登録しておくと、オーヴウォークに入った時

ナノスタンプから、登録しておいた目的地の名前が出現する。

行きたい場所の名前をさわると、体の正面を行きたい方向へ向けなくても、

体が浮いて移動を始める。

地球上での暮らしでは、自転車や自動車、

電車や飛行機などがないと移動するのに

不便な場合があったけど、アムズにある

歩道はすべて、オーヴウォークになっているので、移動がすごく楽にできる。


月と火星のそばには、人工的に作った、

用途によって大きさが異なる、宇宙空間に

浮かぶ6角形の陸地、「浮遊コロニー」が

あって、

月のそばには、生体ヒューマンの人達が

住んでいる、M01、M02、M03、

M04の4つ、

火星のそばには、ヒューマンボウルの人達が住んでいる、K150、K151、K152K153、K154、K155、K156、K157の8つある。


月と火星のそばにある浮遊コロニーは、

「浮遊コロニーM02」や

「浮遊コロニーK156」といった具合に、

「浮遊コロニー○✕✕」と、

浮遊コロニーのあとに、

アルファベットと数字をつけて呼んでいる。


浮遊コロニーへの移動には、

肉眼では見えないくらい細いチューブで

つながっている、月と火星、

月の浮遊コロニーと火星の浮遊コロニーに

設置されている、

ひとり用の「定位置間転送装置」を使って

移動する。

名前が長いのでみんな、設置されている

装置の形から、月と月の浮遊コロニーの間を行き来する時は、装置が三日月の形をして

いるので、「三日月ベンチ」、

火星と火星の浮遊コロニーの間を行き来する時は、装置が三角形なので、

「三角ベンチ」と呼んでいる。


定位置間転送装置の使い方は、

ひとりで三日月ベンチや三角ベンチに座ると

「転送を開始します」と電子音声が流れて、

体がナノサイズに分解されながら、

チューブの出入り口へ吸い込まれていく。

チューブの中を通って、

目的地側の三日月ベンチや三角ベンチの

出入り口からナノサイズに分解された体が

出てきて、足元から順番に体が復元されて

いき、転送完了となる。


ちなみに、月と火星の間を行き来する時は、

自転と公転の関係で、

チューブで移動することができないので、

白と淡いエメラルドグリーン色のキラキラ

した、イイイイスターの輪郭が地面に描かれている、「ファイアカプカステーション」という装置で移動する。

これも名前が長いので、

「ファイカプ」と呼んでいる。

ファイカプに近づくと、

ファイカプを担当しているスクエアが現れるので大型、中型、小型の3種の中から、

利用したいカプカを伝えると、

イイイイスターの輪郭の上にカプカを

出現させてくれる。

「カプカ」とは、

アムズでよく見かける模様が施されていた

楕円の土台に、半分がすべて窓になっている半円をくっつけたような形をしていて、

宙に浮いている。

自動で側面に人形の穴と小さな台が階段状に出現するので、これを使って、

宙に浮いているカプカに乗り降りをする。

船内には、固定されている座席はなく、

クッションが浮いているので、好きな場所へ持っていき、座ることができる、

船内にいるスクエアに、例えば、

「火星に行きたい」と頼むと、

カプカを動かして、火星側のファイカプに

連れて行ってくれる。

目的地のファイカプに到着して、乗っていた全員が降りると、カプカは自動で消滅する

仕組みになっている。



いつもなら、オーヴウォークで、体を運んで

もらうけど、今日はなんとなく、

リアムと歩きながら話がしたいなと思って、

オーヴウォークの前で立ち止まると、

「入らないの?」

リアムが言ったので、

「なぁ、リアム……」

静かに話しかけると、

「何?」

リアムが、僕の顔を、のぞき込んだ。

「近々、土星にも行けるようになるのに、地球には、人も動物も、いないよね?」

地球の方を見て言うと、

リアムも同じ方向を見て、

「いないだろうね、だってみんな、ここにいるし。強いて言うなら、微生物は、いると思う。肥料や種と共に、散布されているから……って、この話、今日、2回目だけど……何? どうしたの? まさか……人影を見たとか!? 」

興奮気味に、リアムが言った。

「まさか、違うよ。地球はまだ、人の住める環境にはなっていないし。最近、夢を見ることが多くて、眠りが浅いのかな? 疲れがとれないし、ぼうっとして、考え込むことが多くて」

「そうか。睡眠がとれていないと、疲れが残ってしまうよね。でも、どこか具合が悪いなら、明日、診てもらう? つきそうよ」

リアムが心配そうに言ったので、

「体調は、大丈夫! 変な夢を見て、何の夢かな? と考えすぎて疲れて、言い方が悪かったね、ごめん。さぁ、帰ろう」

僕は、リアムの手を取って、

オーヴウォークの中へ入って、

僕達の家がある、「浮遊コロニーM02」に行ける三日月ベンチまで移動した。

別々にベンチに座って、

チューブを通って、

「浮遊コロニーM02」へ到着して、

三日月ベンチから立ち上がった時に、

僕とリアムに、エドから、テレパが入った。

「お疲れ様! 勤務終わったの?」

「終わってないよ。補給室で、こっそりテレパ中だよ。僕とステファンとレオは、明日まで勤務だけど、明後日、みんなの休みが重なるから、一緒に図書塔へ行かない? さっき妹のエマからテレパがあって、面白そうだったから」

エドが言ったので、

「何が?」

僕が聞くと、

「アムズには、ないと思っていた『紙の本』が実は、1 冊だけ見つかって、どうやら、処分忘れの本だったみたいで、処分する前に、よかったら、見に来ないかって、お誘いが」

エドが言った。

「え!? 紙の本!?」

僕とリアムは、驚いた。

「行くよ、行く!」

これは、行くしかないと思った。

「明後日の朝、10時に、図書塔の出入り口に集合で」

とテレパを終了した。

「紙の本が、アムズにあったなんてね」

「紙の本にさわるのなんて、何千年ぶりだろう?」

リアムと僕は、興奮気味に言った。



アムズには、紙でできている本はないけど、本はある。

これは、地球上にあった、電子書籍の

進化版のような感じかな?

さわることのできる特殊映像に、

「香りを感じる」機能を追加した、

さらに特殊な映像でできている。

この本は、

電子書籍のように、画面をスライドさせて、ページをめくるのではなくて、

紙の本のように、1ページずつ手に取って

めくることができるし、

目次にチャプター機能が付いていて、

読みたい項目を押すと、

自動でそのページを開いてくれる。

他にも挿し絵や文字の拡大、表示する言語の

変更や朗読をしてくれる機能も付いている。

紙の本なら、ページ数や本のサイズによって

重さが変わるけど、特殊な映像製の本は

図鑑や辞書、絵本だろうが、種類を問わず、すべて同じサイズで統一されていて、

映像なので、重さは一切、感じない。

「香りを感じる機能」がついているので、

どんな香りがするのか気になった、

知りたいと思った時は、その挿し絵に

3秒ほど、手のひらを置くか、

文章をゆっくりと指でなぞると、

本から香りの成分が入った特殊なエアボウル

「香り球」が出現するので、どこでもいいので押し擦ると、香り球が弾けて消滅し、

中身の香りの成分が、一定時間、本と自分の

顔の間の空間にだけ充満するので、

香りを感じることができるし、

挿し絵だけの機能だけど、

例えば、マカロンの上の部分は抹茶味、

下の部分は、イチゴ味、中身のクリームは

ラムネ味だとする、それぞれの部分を指で

なぞると、その部分だけの香りが、

一定時間だけ指につくので、指を匂えば

香りを感じることができる。

アムズにある本は、地球上にあった本で、

特殊な読み込み装置に入れて、

本のデーターを取り込み、これを元にして、

特殊な映像製の本にしている。


アムズには紙が無いので、

地球上にあった、メモやノートなどの

紙製品は、一切、存在しない。

だから、代わりにボイス球で伝言を残すか、テレパをする。


「ボイス球」とは、

名前の通り、球の形をしていて、

両手でにぎると、小さくなるから、

持ち運びができる。

地球上で言うと、

ボイスレコーダーの進化版のような物かな?

例えば、

ボイス球に、「○○さんに伝言」と言って、録音をして、玄関などに浮かせて置くと、

指定した人が来た時にだけ、伝言を流して

くれて、伝え終わると、伝言を録音した人の

ところへ自動で戻ってくる、という仕組み。

ほとんどの人は、テレパをするので、

ボイス球は常にポケットに入っているけど、まだ使ったことはない。


メモやノートにあたる物としては、

本と同じように、ページがめくれて、

専門のペンや指で、書き込むことができる、

特殊な映像製のノートがあるけど、

僕を含め、ネオオに書き込んだりしている

ので、特殊な映像製のノートを使っている

人はいない気がする。

というように、アムズでは紙がなくても、

まったく困らないので、

「紙」がそもそも存在しない。

だから逆に、「紙」が珍しいのだ。


「ネオオ」とは、

正式名称を、「ベゾニソル・オクヴィディギーロ・ネオオ」と言い、

オクヴィディギーロに、いくつかの機能を

追加した、持ち運べる機器。

オクヴィディギーロと同じく、特殊な映像で

できているけど、写真や動画を撮ったり、

保存、再生をする機能以外に、

書き込めるノートの機能、地下シェルターの

居室にあった「ベゾラス」のように、色々な

ものを出現させる機能もある、アムズには、

なくてはならない、便利な道具のひとつ。

ネオオの角、対角線上に2か所をつまんで

引っ張ると大きくなって、縮めると小さく

なるので、好きなサイズにして使うことが

できる。

持ち運ぶ時は、ほとんどの人は、最小限の

サイズにして、服のポケットに入れている

けど、僕は、くるくる丸めて、筒状にして

ポケットに入れている。



明後日が、楽しみだね! と話をしながら、帰っていたら、あっという間に、

お互いの家の前に到着した。

リアムの家が入っている居住塔の隣に、

僕の家が入っている居住塔が建っている

というか、浮いている。


僕達の住む居住塔は、どんな感じかというと

月や火星、月の浮遊コロニーと火星の浮遊

コロニーの広場にいるぽぽぽがモデルなのか

ぽぽぽを細長くしたような形をしていて、

エンヴィルが柱のように見える。

外観や広さ、間取りは、

どの塔もすべて同じで、塔、ひとつにつき、1フロアに4世帯で

合計、64世帯分の部屋がある。

屋上部分には、アムズのシンボルマーク、

イイイイスターの輪郭の形をした、塔の

名称を表す数字のオブジェが設置してある。


居住塔の中央部分は、円柱状の吹き抜けに

なっていて、ここにアムズの昇降設備、

「エンヴィル」が設置してあるので、これを使って昇降する。

これは、地球上にあった、エレベーターや

エスカレーターなどの昇降設備とは違って、

反重力を応用した特殊なシステムで、

淡い水色でキラキラしていて、柔軟性がある円柱の筒のような形をしていて、

地面やフロアの境目には、ない時もあるけど

だいたいイイイイスターの輪郭の模様が

施されている。

正式名称は、「エングラヴィサークル」、

だけど、長いのでみんな、「エンヴィル」と呼んでいる。


使い方は、

例えば、1階から8階に行きたい場合、

1階のエンヴィルの中に入って、

「8階」と言うと、自動で体が昇っていき、

8階で止まる。

もし、複数人が別の階へ行くのに、

同時にエンヴィルの中にいた場合、

エレベーターなら、行きたい階のボタンを

押せば、順番に止まってくれるけど、

これはそれぞれが、行きたい階を言わないと

いけない仕組みなので、

同じ階に行くとしても、各自が言わないと、昇降できない。

でも、手をつないだり、体の一部や身に

着けている物などにふれていると、

一体とみなされて、各自で言わなくても、

一緒に体が昇降する。



リアムの家のある塔の、エンヴィルの中へ

入って、「8階」と一緒に言うと、

僕達の体は同時に、昇っていた。

エンヴィルを出るとすぐに、

玄関の扉がある。

扉の中央に埋め込まれている画面に、

スクエアが現れて、事前に登録している人が来た時にだけ、扉をスライドして開けて

くれるし、施錠もしてくれる。

「ただいま」

「お邪魔します」

僕は、リアムと家の中へ入った。

いつもなら、リリアさんの声がして、

作ってくれている料理のいい匂いが

漂ってくるのに、今日は静かで、

何の匂いもしてこなかった。

「母さん!」

リアムが呼んでみたけど、

返事はなかった。

「帰っていると思ったけど……まだみたい」「そうみたいだね」

「テレパ、してみるよ」

リアムの頭上に、

赤色のテレパのマークが出現した。

リリアさんは火星で、瞬培フィッシュの

生産を管理する仕事をしている。

しばらくすると、

テレパのマークが消えた。

「今日は母さん、残業で明日から2日間の休みに急遽、変更になったから、クッキーは明日、帰ってから作るって、スカイに伝言してだって」

リアムが言った。

「そうか。残念だけど、仕方ないね。明日の楽しみに取っておくよ。それにしても、リリアさんが残業って、珍しいね」

僕が言うと、

「珍しいと言うか、この数千年で、初めてかも」

リアムが言った。

「そうなの!? 初めて!? ところで、残業の理由は?」

「突然、37人のヒューマンボウルの人が辞めたって。それで、連続で働く日数には上限があるし、急に37人分の人員確保は無理で、母さんの他にも勤務が3日目の人は、あと1日勤務して欲しいって、室長に頼まれたみたい」

リアムが言った。

「そういうことか。でも、そもそも勤務って、辞められるの?」

「あれだよ、あれ。あの権利の行使。37人は初めて聞いたけど、時々はあるよね、年に数十人くらいは」

リアムが言った。

僕は、すごく驚いた。


アムズには、抹消滅の権利、

通称、「あの権利」と呼ばれている権利が

ある。

これは、生体ヒューマンの人も

ヒューマンボウルの人も、

不老不死な体のために、

「死」が自然に訪れる、ということが、

永遠にないから、自分の人生の終わりを、

自分で決められるように、と作られたのが、この権利だった。

これを行使すると、文字通り、消滅して何も

残らない。

すなわち「死」が訪れたということになる。

僕の知る限りでは、あの権利を行使する人は

圧倒的にヒューマンボウルの人が多い。

その理由を聞いたという人から、聞いた話

だけど、機械の体でずっと過ごしていると、

何かが心の中に蓄積してきて、

ふと、あの権利を行使したい!という衝動に

突き動かされてしまう、そうだ。

この話を聞いた時は、何が蓄積するのか、

どうして突き動かされるのか、

僕には、理解ができないと、思った。

僕が、生体ヒューマンの体だからなのか、

あの権利を、行使したいと思ったことは、

一度もない。



「クッキーはないけど、培養加工肉のミンチと培養卵のそぼろとお米があるから、投げて二人で食べてだって。とりあえず、少しエネルギーを補給しよう」

リアムが言ったので、僕は賛成した。

ラノスイリトファジェロで、調理ボウルを

2つ、出現させて、それぞれに、ひとり分の

お米と具材を入れて、バルコニーから、

僕とリアムは、太陽に向かって、ひとつずつ

投げた。


「ラノスイリトファジェロ」とは、

調理ボウルやスプーンなどの調理器具や

食器類を出現させることができる、持ち手が

ついているポットのような形をした、宙に

浮いている機器で、

宇宙空間と天体ある、目や計測機器を

使っても、見ることやその存在が確認でき

ない物質、「シアーエーテルベント」を

原料に色々なものを作り出す、

「特定物質圧縮加工装置」の一種。


「調理ボウル」とは、

地球上にあった、炊飯器やフライパンなどの

調理器具のような物で、球の形をしている。

投げられた調理ボウルは、太陽の近くまで

飛んでいき、近づいたり遠ざかったり

ホバリングしたりして、太陽との距離感で、

その具材にあった火加減を自動で調節して

くれる。

中身の具材に火が通ったかも自動で感知して

時には、本体が小刻みに揺れて、中身を

混ぜてくれるし、完成したら、投げた人の

ところへ、戻って来てくれる。

アムズでは、太陽の熱を直接利用して、

調理ボウルでお米を炊いたりクッキーを

焼いたりしている。


ラノスイリトファジェロの使い方は、

機器の正面についている画面に、

調理ボウル、スプーン、箸、フォーク、

お皿などといくつかの選択肢が表示されて

いるので、例えば、

スプーン、2本と調理ボウル、ひとつが

欲しい場合は、

スプーンの文字の下にある、本数を入力する

ところの上向きの三角の表示を押して、

「2」にして、

調理ボウルの文字の下にある、

本数を入力するところの上向きの三角の

表示を押して、「1」にして、

「決定」を押すと、吸い込み口から、

シアーエーテルベントを吸い込んで、機器の

中で加工をして完成すると、

イイイイスターの輪郭が描かれている機器の

上部に、3つとも小さめに出現する。

これを、手に取ると、使いやすい大きさに、

自動で変化してくれるけど、ちょっと違うな

と思った時は、出現したものを、どこでも

いいので、つまんで、引き伸ばしたり縮めて

大きさを調節することができる。

使い終わったあとは、

どこの部分でもいいから、出現させたものを

親指と人差し指で、強めに押し擦ると、

消滅するので、洗う手間が一切かからない。

食べかすがそこら中に漂うのでは?

と思うかもしれないけど、

こびりつきにくい仕組みになっているので、食べかすが残る、ということが一切、

起こらない。



投げた調理ボウルが、

2つとも、数分で戻ってきた。

調理ボウルをキャッチして、ソファーに

座って、スプーンで食べた。

お腹がいっぱいになって、眠たくなってきた

ので、リアムの部屋のベッドで、寝転んで

話をしていたら、いつの間にか、2人とも

眠っていた。




カーテンの隙間から、

太陽の光が、まあまあな強さで入ってきた。

今日は、浮遊コロニーが太陽側みたいだな……眩しさで、僕達は目が覚めて、

時計を見ると、9時45分だった。

「うわぁ、大変!」

僕達は、慌ててベッドから飛び起きた。

ラノスイリトファティムで、洗顔タオルを

出現させて顔を拭いて、髪の毛を整えて、

急いで身支度をした。


「洗顔タオル」とは、

拭くだけで石鹸と水で洗ったかのように、

さっぱりして、保湿成分も入っているので、

肌も潤う便利な、温かいタオルのこと。


「ラノスイリトファティム」とは、

特定物質圧縮加工装置の一種で、長方形が

ゴツゴツしているような形をしていて、

宙に浮いている、洗顔タオルや衣服、

寝具や家具などを出現させる時に使う機器で

各家庭に1台ずつ、置いてある。

使い方は、

機器の側面にある画面の部分に、衣服、靴、

洗顔タオル、カーテン、寝具類、敷物などと

表示があるので、必要な物を選択して、柄が

選べるものは、柄や色、形の選択をして

「決定」の表示を押すと、

画面がある側面とは別の側面にある

吸い込み口から、シアーエーテルベントを

吸収して、機器の中で加工する。

そのあと、イイイイスターの輪郭が描かれて

いる機器の上部から、大きさに関わらず、

機器と同じサイズで出現する。

そのままでは小さい物、

例えば、布団や敷物の場合は、設置したい、

使いたい場所に出現させたものを置いて、

布団や敷物の端を持って、自分で引き伸ばし

たり縮めたりして、好きな大きさにして、

「決定」という表示が中央に付いているのでそこを押すと、その大きさで固定されるので

好きなサイズにして使うことができる。

不要になった時は、その物のどこかに角が

2つある、「消滅」と表記されたタグが

ついているので、

この2つの角をそれぞれ持って、別の方向に

引っ張って、少しちぎると消滅する仕組みに

なっている。



僕達が、エンヴィルに入って、

「1階」と言って体が降りていた時に、

8階に向かって上昇していた、

仕事が終わって、帰って来たリリアさんと

すれ違った。

エンヴィルの中ですれ違った一瞬、

お互いに、

「あっ!」となって、

3人でテレパを開始した。

「お帰り、お母さん。ちょっと出掛けてくるね」

リアムが言うと、

「ただいま! 昨日は、ごめんね。今日は作れるから、あとで必ず、寄ってね」

リリアさんが言ったので、

「うん、必ず寄ります」

僕は答えた。

降りていた体が、1階に到着したので、

僕達は、走って、オーヴウォークへ入って、三日月ベンチへ移動した。

「ところで、どこへ行くの?」

「エドの誘いで、図書塔へ行く。でも、寝坊して、集合時間に遅れそう」

リアムが言うと、

「それは、急がないと! 行ってらっしゃい、楽しんで来てね」

リリアさんがテレパで見送ってくれた。



テレパを終了して、三日月ベンチに座って、

チューブを通って月へ移動して、

オーヴウォークに入って、図書塔の前まで

自動で体を運んでもらって、移動した。

オーヴウォークを出た時に、

「おはよう!」

レオが叫ぶ声が聞こえた。

「おはよう!」

僕も叫んだ。

「遅いよ、2人とも」

頬を、プクッと膨らませてエドが言うと、「ごめん、起きる時間が遅くて……あれ? 知らない人がいる!」

リアムが言った。

「あ、そうそう。僕の妹のエルザ、よろしく! いつの間にか、エドの妹のエマと知り合っていて、エマがエルザも誘っていたから、一緒に来たよ。アムズ生まれだから、『紙』自体をまったく知らない、とか驚きだよね」

レオが言うと、

エルザは僕達の方を見て、会釈をした。

「妹がいたのか、レオには」

僕が言うと、

「まぁ、色々あって、急にお兄ちゃんになりました」

レオが、エルザの頭をなでながら言った。「じゃあ、揃ったし、行こう」

エドが言った。

エルザは、レオの腕につかまりながら、

歩いていた。

横顔がちらりと見えた時、どこで見たのかは

思い出せないけど、どこかで見た、キレイな

女の人に、似ている、と感じた。


図書塔がある高台の斜面に設置してある

オーヴウォークで、上まで登り、

図書塔の中へ入ると、エドの妹かな?

女の人が、歩いてこちらへ向かって来た。

「おーい!」

エドが手を振ると、

「兄さん!」

手を振り返した。

「みんなに紹介するね、妹のエマ」

エドが言って、

僕達もひとりずつ、簡単に自己紹介をした。「みんな、こっちへ来て」

エマの後ろについて行くと、

関係者以外立ち入り禁止と書かれている扉があって、その扉を開けて、

「中へどうぞ」

エマが言った。

中へ入った瞬間、

ブワッ、

懐かしい匂いがしてきた。

幅広の通路が、見えないくらい奥まで続いていて、扉のない部屋と扉に数字が書いてある部屋がいくつもあって、

エマは、「8」と書かれた扉の前で止まって「中へどうぞ」

扉をまた、開けてくれた。


その部屋の中へ入ると、

さらに懐かしい匂いがした。

そうだ、紙の本の匂いだ!

僕は思い出した。

壁が見えないくらい、背の高い本棚がずらりと並んでいて、その本棚には本が、隙間なくびっしりと収められていた。

本棚ゾーンを抜けると、

コの字に置かれた大きな机があって、

その机の上や周りに見たこともない機器や

道具類などが色々と置いてあった。

コの字に置かれた机の中央の空間に、

円形の天板の机がひとつ浮いていて、

本が1冊、置いてあった。

「エマ、この部屋、すごい匂いだね」

僕が言うと、

「図書館って、かんじでしょう」

と笑った。

「うん! こんなに匂うってことは、もしかして、ここにある本は……全部、紙!? 実はたくさん見つかったの? 」

「残念ながら、紙ではなくて全部、3Dホログラム製の本なの。この部屋にある本棚はすべて匂いをつけるき機器で、今回見つかった紙の本の匂いを分析して、科学的に再現することができたから、今後、図書塔の本棚にある本すべてに匂いをつけていくことと、検索装置の分にも匂いつきで出現させられるようにする計画なの」

エマが説明をしてくれた。

「そうなの? 全部に!?」

本棚と思っていたのに、

匂いをつける機器だったなんて、

アムズの科学力って、半端なくすごい、

改めて思った。

「みんな、この紙の本が見えるところへ来て」

エマが手招きをしたので、僕達は、円形の

天板の机をぐるりと囲むように、集まった。

「まず、この本を順番に持ってみて欲しいの。ただし、持つ時は必ず、両方の手のひらに乗せてね」

ニコッとしてエマは、

隣にいたリアムに両方の手のひらを出すように言って、本を乗せると、

そっと本から自分の手を離した。

「おっと!」

リアムは、本を落としそうになった。

それを見たエマが、笑いを堪えているように見えた。

そして、

次の人へまわしてね、と目配せをした。

「気をつけて。思ったより重たい」

リアムが僕の手のひらの上に、そっと本を

置いた。

「うわぁ!」

僕も本を、落としそうになった。

リアムの言う通り、

思った以上に重さがあって、驚いた。

僕の隣は、エルザだった。

「重いよ、大丈夫? 気をつけて」

と言うと、

エルザがうなずいた。

「それじゃ、置くよ」

僕は、エルザの両方の手のひらの上に、

そっと本を置いて、

自分の手を本から離した。

その途端、

エルザが本を落としそうになったので、

とっさに本を受け取ろうとして、

本の下に手を入れたら、エルザの手と偶然、本の下で重なった。

「だ、大丈夫!?」

僕が声をかけると、

「……うん」

と言った。

エルザの手の上にあった本を、レオが持って「重たい!」

と言って、ステファンに渡した。

僕は、エルザの手の下にあった自分の手を、さっと引っ込めた。

ずっと、クスクスと笑っているエマに、

エドが、

「何、さっきから笑っているの?」

と聞くと、

「だって、みんな同じだから。アムズの本は、3Dホログラム製で重さを感じないから、私含めて本は軽いと思い込んでいたでしょう? 何千年前も昔には、紙の本を持っていたはずなのに、ここでは重さがある物も重力の関係で地球より、うんと軽いし、『重さ』に疎くなっているよね」

エマが言うと、

「確かに! 本を手のひらに置くだけって思っていたら、ずっしりと重くて驚いた」

リアムが、感想を述べた。

「最初、本を持つだけなのに、何で両手? と思ったけど、これは両手が必要だね。片手や指では無理な重量感」

僕が言うと、

「その通り!」

エマが笑った。


そして、

「次は、この本のページを1枚ずつめくってみてくれる?」

机の上に戻した本を、指でたたいて、

リアムの方を見た。

「また、何かあるでしょう? エマ、何を企んでいるの?」

リアムは、警戒していた。

「疑っているの? 何もないから、早くめくってみて」

リアムは、エマの顔をのぞきながら、

恐る恐る本の表紙に人差し指を置いた。

エマは、早くめくって、とひたすらニコニコしていた。

リアムは、緊張感を漂わせながら、

表紙をめくった。

「これだけ? 何だ、警戒して損した」

リアムが安堵していると、

「ね、何もなかったでしょう。じゃあ、もう1枚めくってみて」

エマが言った。

リアムが、今度は、堂々と力強く、

次のページをめくって、

「めくれたよ!」

どうだ、参ったか! という感じで言うと、クククッ。

エマがまた、笑いを堪えていたので、

「えー、エマ、何!?」

リアムは、あたふたした。

「リアム、よく見て。何枚か重なってめくれているよ」

「え!? そんなこと……あ、本当だ!

8枚も重なっている 」

リアムは、自分がめくったページの枚数を

数えて言った。

「次はスカイ、やってみて」

エマが、リアムのめくったページと表紙を

閉じた。

僕は、慎重にめくった。

その時、

「痛い!」

指が紙で切れてしまって、

血がポタッ……ポタッと床に落ちた。

「あら、大変。少し待っていて、引き出しにあれがあるわ」

エマは奥にある机の引き出しを開けて、

探し物を始めた。

血がたれていたので、床を汚してしまうと

思って、目線を切れた指から床に向けると、

エルザがかがんでいて、床に落ちた僕の血をじっと見つめていたと思ったら、

自分の人差し指に、僕の指から落ちた血を

つけて、ペロッとなめた。

「え!?」

僕は驚いて、声が出た。

ページをめくるチャレンジに集中していた

レオが、声に反応して僕を見た時に、

かがんでいるエルザに気づいて、

「何しているの? 疲れた?」

エルザの腕を引っ張って、立たせた。

「お待たせ、やっと見つかった。手、見せて」

エマが、「医療用治癒ペン」と言う、

軽傷程度の傷に塗るとすぐに治る、

医療機器を持ってきて、

僕の指の切れた部分を、ペン先でなぞってくれた。

すると、物の数秒で切り傷は、

治ってしまった。

エマに塗ってもらいながら僕は、

レオとエルザのやり取りを見ていた。

「何をしていたの?」

レオが言うと、

床に落ちていた僕の血を指につけて、

なめた指を見せて、

「これ……血?」

エルザが言った。

するとレオが、

「薬、飲んだ?」

小さな声で、エルザに言った気がした。

エルザはどこか具合が悪いのかな?

気になったので、

「エルザ、どうしたの?」

僕が聞くと、

「えっと、何でもないよ。ただ……アムズ生まれだから、血を見たのが初めてで、気になったみたい」

何となくレオが、慌てているように見えた。

「そうなの? ごめんね、驚かせてしまったね」

僕はエルザに、血を、故意ではなかった

けれど見せてしまったことを謝った。

「大丈夫。ね、エルザ」

レオが言うと、

エルザは僕をじっと見つめながら、

うなずいた。

エルザの美しい大きな瞳に吸い込まれそうでドキドキしてしまった。

「もう一度、やってみる?」

エマに声をかけられた僕は、

目線をエルザから、エマに移した。

「も、もちろん、やってみるよ」

先ほどよりも、

慎重にやったつもりだったけど、

数枚、重なってめくれてしまった。

次に挑戦したステファンも、

6枚重なってしまった。

「最後は、エルザね」

エマが声をかけた時、

エルザは、僕の血をつけた指を、

じっと見つめていた。

そして、

指に残っていた血をなめようとした瞬間、「エルザはやめとくって言っているから、僕がもう1回、チャレンジするよ!」

元気よく言ったあと、

レオが、エルザの指に残っていた血を

自分の服で、さっと拭いたように見えた。

レオは真剣な顔をして、

まず、表紙をめくった。

これは難なく、みんなが 成功しているけど問題は、次だ。

レオはゆっくり紙をめくったけど、

やはり数ページ重なってめくれてしまって、「あぁ! またチャレンジ、失敗した」

と叫んだ。

「ふふふっ」

エマが笑うので、

「また僕達のことを、笑っているよ」

不機嫌そうに、エドが言った。

「ごめん、私と同じことを、期待通りにしてくれるから。私も、何回やっても、数枚重なってめくれるし、スカイみたいに指を切ってしまって。そう思うと便利よね、今は何も考えずにめくっても1ページだけ簡単にめくれるし、紙ではないから、指が切れる心配もないし」

エマが、笑いながら言った。

「うん、うん。そうだね! ところで、何て書いてあるの?」

リアムが聞くと、

「それが、まったく分からないの。何人もの人に聞いたけど、知らないし、見覚えもない言語だって。検索にかけたけど、一致する言語もなくて……本の表紙に『2』と表記があるから、最低でも、『1』があるはずだと思って探したけど、見つからなくて」

エマが、がっかりした様子で言った。

「そうか……誰も知らないなんて、よけいに内容が気になるね」

リアムが言った。

「そうなの。挿し絵でもあれば、こんな内容かな? と推測ができるのに、この本には、1枚もないの」

「なんか、このマーク? 絵? どこかで見たことがあるような気がするかも……」

僕が言うと、

「本当!? どこで!?」

エマが嬉しそうな表情をした。

「えっと……ごめん、気のせいだった」

どこかで、見たような気がしたのだけど、

エマの期待には、答えられない、と思い、

僕は、苦笑いをした。

「そう……やっぱり、見たことないわよね」

エマは落胆した表情をした。

エマに悲しい思いをさせてしまった……。

僕が、落ち込んでいることに気ずいたのか、

「記憶違い、そんな時もあるよ。気にしないで」

エルザが小さな声で言った。

「うん……」

僕は、なぜか照れくさかった。

「ヒントがないのか……」

本をめくりながら観察をしていたエドが、

本を人差し指でたたくと、

コツコツ、

と音がした。

「エマ、この最後のページは、紙と言うより、プラスチックのような感じだし、まるで、液晶画面付きのインターフォンみたいだね」

エドが言った。

「やっぱり、そう見える?」

エマが、ニヤリとして言った。

「本当だ、見える!」

リアムも、ニヤリとした。

本の最後のページには、

3分の2の大きさの映像が映りそうな画面の

ような形のものがあって、その右下に円形の

小さなスピーカーらしき部分、

中央には、何かの絵、右には、

イイイイスターのような形が描かれていた。

電源ボタンかな? と思って、

イイイイスターの部分を押してみた。

何も起こらなかったので、

何回も押していると、

「何、エマ……スカイを見ながら笑っているよ」

エドが、僕の肩をたたきながら言った。

「え? 何、何?」

僕があたふたして言うと、

「スカイが私と同じことをするから」

エマが、クスクス笑った。

「どういうこと!? 笑ってないで説明して」

なぜか、エルザが不機嫌そうに言った。

「ごめん、ごめん。私もイイイイスターの部分が、ほんの少し周りよりも盛り上がっていたから、電源ボタンかなって思って、スカイのように何回も押したの。でも結局、ただの絵だったっていう結末で。通信機器のように見えるのに、使い方が分からないわよね」

エマが笑いながら言った。

エマの話を聞きながらエルザは、

僕の方を見て、

「私もボタンだと思ったよ」

笑顔で言った。

もしかして、慰めてくれている?

と思った僕は、なぜか嬉しい気持ちになって

ニヤニヤしてしまいそうになったので、

必死に瞼を上下に何度も瞬きしながら、

耐えた。

別のことを考えよう……。

僕は、視線をエルザから本へ移した。

書いてある文字が読めなくて、

何について書いてあるのか、

誰にも分からない本。

すごく、興味をそそられる。

いつか、解読できる日が来ればいいのに、

と僕は思った。

「エマ、この謎めいた不思議な本を処分するのは、もったいない気がするよ」

レオが言うと、

「私もそう思うけど、『紙』は、アムズには置いてはいけない決まりがあって……」

エマが残念そうな表情で言った。

「どうして?」

リアムが、首をかしげた。

「どうしてかは、私も分からないの。室長に以前、聞いたけど、『決まりだから、仕方がない』としか答えてくれなくて」

エマが言うと、

「そうなのか……アムズって時々、不思議なルールというか、どうして? と思うことがあるよね 」

エドか言った。

僕達は、

「その通り!」

何度も首を縦に振って、うなずいた。

そのあと、

本を見つめながら、しばらく沈黙が訪れた。パチンッ。

突然、エマが手をたたいた。

「ではこれで、地球上にあった紙の本の紹介を、終わります!」

エマが元気よく言ったので、

僕達は、ハッとした。

そして、

「エマ、ありがとう!」

みんなでお礼を言った。

「解読できない内容はおいておいて、どうだった?」

エマが、僕達の顔を見渡しながら言った。「紙が集まると重たい、ということを忘れていたよ」

レオが言った。

「本当、本当! 忘れていたね」

僕が言うと、

「そうなの?」

エルザが不思議そうに言った。

「エルザは、アムズ生まれだからね」

レオは笑いながら、

エルザの頭をなでた。

「アムズ生まれの人もいるから、紙を見たことがない、という事実に、驚くよね。エルザ、紙の本はどうだった?」

エマが尋ねると、

「重い?」と一言。

「そうね!」

エマは、ニコッとした。



エマが図書室まで見送ってくれて、

僕達は、挨拶を交わして、別れた。

「見たい本があるから、図書室に行ってくる。みんなはどうする?」

「僕とステファンは昨日、4日目が終わるギリギリに帰って来て、眠り足りないから、帰って寝るよ」

エドが言うと、ステファンがうなずいた。


エドとステファンと別れて、

僕、リアム、レオ、エルザで、図書室の中へ

移動した。

「検索してくるよ」

レオが検索装置のところへ向かうと、

エルザは、その後ろをついて行った。

僕とリアムは、読みたい本を探して、

空いていたソファーに座った。

「何の本を探しているの?」

エルザが聞くと、

「ちょっとね」

と言ってレオは、検索装置の入力画面に、

探している本の題名を指で書き込んだ。


図書室に置いてある、「検索装置」は、

台形に似た形をしていて、宙に浮いている。

画面に直接入力してもいいし、

音声認識機能があるから、

「こんなストーリーの本」と言えば、

探してくれる。

在庫的には映像なので無限に作り出せるから

同じ本を同時に100人でも1000人でも借りることができる。

探している本が見つかると、装置の頭上に、イイイイスターの輪郭をした絵が描かれて

いて、ここから出現する。

この検索装置は、

図書塔の図書室だけではなくて、火星と浮遊コロニーにも、いくつか設置されているので

実は、わざわざ月の図書塔にある図書室に

来なくても、本が借りられる。

返却は、いつでもどこでも可能で、

本の裏表紙にある、「返却」という表示を

長押しすれば、自動で消滅する仕組みで、

返し忘れていても、

借りて3か月が過ぎると自動で消滅するので

返却忘れは、絶対に起きない。



「それ、何て読むの?」

エルザが、画面をのぞき込んで言った。

レオは、自分で書き込んだのに、

「知らないよ。探している本はなかったから、みんなのところへ行こう」

エルザの手を引っ張った。

レオとエルザが僕達のところへ来たので、「本、あった?」

と聞くと、

「なかった」

とレオが言った。

「これからレオとエルザも、僕の家に来ない? 母さんが、大豆のクッキーを作って待っているから」

リアムが言うと、

「えっと……それは、おいしそうだね! 食べて帰ろうかな 」

レオが少し悩んでから言った。

「よし、行こう!」

僕とリアムは、読んでいた本の返却の表示を長押しして、消滅させた。



リアムの家に向かっている途中で、

エルザが眠たくなってしまったので、

レオが背負った。

「妹って、世話がやけるよ。年齢的には同い年だから、双子の気分」

レオが笑った。

「本当だね。そう言えば、僕も母さんと同い年だから、双子の気分」

リアムも笑った。

「というか、アムズにいる人全員、同い年だから……えっと……人数が分からないけど、めちゃくちゃ双子じゃない!?」

レオが言うと、

「本当だね! めちゃくちゃ双子だ!」

リアムが言ったので、

「じゃあ、無限双子でどう?」

僕が言うと、

「無限双子! それ、いいね」

レオとリアムが、同時に言った。

「無限、双子! 無限双子!」

3人で、ワイワイしながら、

リアムの家に向かった。


厳密には、同い年ではなくて、レオは僕より

年上だし、エドとステファンは年下だけど、

みんな、20歳の肉体だから、

肉体的に考えると、生体ヒューマンの人は、

全員、同い年ということになると思う。



リアムの家に着いて、玄関の扉を開けると、

いい匂いがして、リリアさんが、

台所の出入り口から顔をのぞかせて、

「お帰り」

と出迎えてくれた。

レオの妹に初めて会ったリリアさんは、

「いつの間にか、お兄ちゃんだったのね」

アムズ生まれの人だと、はっきりしている

人は意外と少ないから、驚いていた。

「僕も、まさか兄貴になるとは……」

2人で話をしていた。

エルザは、レオの背中でスヤスヤ眠って

いたので、リリアさんのベッドに寝かせて、

僕達は、リビングで、クッキーを食べながら

楽しく話をした。

「おいしい! リリアさん、相変わらず料理上手ですね」

レオが言うと、

「そうでしょう」

と言ったリリアさんにリアムが、

「全然、謙遜しないよね」

と笑うと、

「何か言った? リアム」

リリアさんが、目を細めて睨むと、

やばい! という顔をしたリアムが、

リリアさんと目を合わせないようにした。「リアムはいつも一言、多いよね」

レオが言うと、

「そうなの! でもそこがまた、かわいいでしょ」

リリアさんが笑った。


楽しい時間は、過ぎるのが早く感じる。

エルザは、一度も目を覚まさなかった。

「これ、妹さんの分。また一緒においで」

リリアさんが、調理ボウルにクッキーを

入れて、レオに渡した。

「ありがとうございます。起きたら、渡します。お邪魔しました」

レオは、エルザを背負って帰って行った。

玄関の扉が閉まっていき、

エルザの姿が完全に見えなくなるまで、

僕は見送った。

「どうしたの? 帰る?」

じっと玄関を見ていた僕に、

リアムが言った。

「何でもないよ。もちろん、泊まっていくよ」

僕は、リアムとリビングへ移動した。

エルザが、どこかで見たキレイな女の人に

似ている気がしたからか、

僕の血を見た時のエルザの行動や、

レオの様子が気になったからか?

理由は、はっきりとは分からないけど、

なぜか、エルザのことが気になってしまう。なによりも、

帰ってしまったことが、とても悲しかった。

この日も僕は、

リアムの家に泊めてもらった。


家は、寂しい……ひとりぼっちだから。

リアムのベッドで、寝転びながら話をして

いたら、僕達は、いつの間にか眠っていた。



○次回の予告○

『旧人類と旧旧人類と旧旧旧人類』

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