ヒーローは継がれる
「俺を倒して終わりだと思うなよ、勇者よ!!」
魔王ガルルドンは、勇者との最終決戦でその胸に伝説の剣スカイウォーフを突き立てられて尚、負け惜しみの如く叫んだ。
「もうお前の負けだ! 認めろ、ガルルドン!」
勇者ヴィクト・アップリーの言葉に、ガルルドンは嗤った。
「オレが死んでも闇は残る。俺の無念の闇は、この世界を覆い、次なる世界の脅威となるであろう!!」
ガルルドンはそう言って、両腕を天に掲げた。
その瞬間、戦いの場になっていた古戦場全域に、黒い閃光が広がった。
ヴィクトはその眩さに思わず目を背け、伝説の剣から手を離した。慌てて剣を握り直そうとしたが、剣は既に何物をも貫いておらず、手応えもなく勇者の手に戻った。
「勝った、のか?」
「ええ。おそらくは」
旅の仲間である賢者シャナクの言葉にホッとしたのも束の間、勇者の持つ“絆の鏡”から、語りかける声が聞こえた。絆の鏡は、遠方より声を届けることの出来る魔法の鏡で、各地に散らばった仲間達から、緊急時に声を届けてもらうようにしている。
「ヴィクト! 大変だ! クラガ城の向こうに、龍が!」
「何だって!?」
絆の鏡からの報告に、ヴィクトはシャナクと頷き合った。
シャナクは杖を空に掲げた。刹那、
「ヴィクト、来てくれたんだ!」
「大丈夫なのか!?」
絆の鏡に呼びかけた仲間、巫女のビューラにヴィクト達は駆け寄る。
ビューラは息を整えながら、小さく頷いた。
「う、うん。異変が起こる筈だから準備をしろって、警告してくれた人がいたの」
「そんな人が……」
ビューラにその人物が今どこにいるかを聞こうとするヴィクトの肩を、シャナクが震えながら叩いた。
「ヴィクト、あの暗雲、間違いないぞ。あれはジュラガ=カーン! 世界を混沌の時代に陥らせるという古の龍だ!」
「その通りだ」
シャナクの言葉に、同意する声があった。
ヴィクト達は声のする方を振り向く。
全身を薄い鎧で覆う男が、そこにはいた。
「この人です、勇者ヴィクト」
ビューラはその男のもとに駆け寄り、ヴィクトに向けて手で示した。
「この人が、私達に警告をしてくれたの。名は確か──」
「エクセレント。超常戦士エクセレントだ」
ビューラの紹介する男は、頭を覆う布でできた兜を脱ぐ。その髪は珍しい黒髪だったが、その目はヴィクトがこれまで幾度となく見てきた、使命に燃える者のそれだった。
「あれは大怪獣。俺はあいつを追って来た──!」
『ジュラガカン』 完。
ジュラガカン 宮塚恵一 @miyaduka3rd
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