畏れの力

 ヒーロースーツを着た始めの頃は流石に恥ずかしかったが、エクセレントのコスチュームを着て何度も活動をするうちに、誠一はその活動に誇りを持つようにさえなっていった。

 まずは地域のボランティア。それから人が集まるところで、コスチュームを着たままに「怪獣を倒すのが俺の使命だ」と吹聴した。

 笑う者も多かったが、出来るならやってくれと冗談交じりでも応援の声をかけてもらえた。


 一方で“紫尾田”は流石に“特殊災害対策本部”本部長だっただけあった。自身の持つ“ジュラガカン”の情報をもとにまずは報道機関に、そこから網目状に人脈ツテを作っていった。


「“ジュラガカン”の虚構としての力が強いのならば、それを超える虚構の力をもってして封じ込めれば良いのだ」


 “紫尾田”はそう言った。結局のところ、GC-01が彼らの世界で“ジュラガカン”に有効だったのも、その伝承が残っていたからだ、と。


「この世界にフィクションであっても、ジュラガカンを倒す。そんな役割を持った存在がいるのなら、その存在を大きくしていくんだ」


 “ジュラガカン”を倒す。

 その役割は、言うまでもなく“紫尾田”のものだ。映画の中で、“紫尾田”は“ジュラガカン”を討伐する。

 それ以外に思いつくのが、超常戦士エクセレントだった。


 『大怪獣ジュラガカン』というのは、実は昔に放映されていたヒーロー番組の中に出て来た怪獣の名前をそのまま使っている。

 だからあの映画は、一エピソードにしか使われなかったが、その強さと獣脚類の体躯に獅子頭という造詣の奇抜さからもコアな人気のあった怪獣のスピンオフ作品なのだ。あまりその筋での宣伝はされないが、誠一のような怪獣マニア達の間では周知の事実である。


「その番組で大怪獣ジュラガカンを倒すのが、超常戦士エクセレントです。エクセレントは、それまではキノコ怪人とか、現代に蘇ったフランケンシュタインとか、人の大きさの怪物ネズミなどを相手にするけど、最終回で遂に街を覆い尽くす程に大きな怪獣、ジュラガカンと戦うことになる。エクセレントはそれまではあくまで人間大の敵と戦ってきたから、その巨大さになすすべもない。だけど、シリーズを通して助けて来た皆の力を借りて、最後にはジュラガカンの苦手な周波数を発生させる爆弾を抱え、大怪獣に特攻する。そして大爆発が起こり、ジュラガカンは消滅。世界は救われるんです」


 誠一は“紫尾田”に超常戦士エクセレントの屈指の名エピソード『精魂! 大怪獣への挑戦!!』の筋を説明した。


「ジュラガカンという名前はどこから?」

「その番組では、ジュラ紀に恐竜から逃げるように暮らしていた哺乳類が核実験によって巨大化し、異形の怪物となった、という話で。ガカンというのは、過去のエピソードでエクセレントが戦った怪物ネズミの名前です。『ジュラ紀のガカン、ジュラガカンか!』とエクセレントに協力する刑事の花盛はなもり警部が名付けるんです」


 なるほど、と“紫尾田”は頷いた。


「その分、スケールも矮小化しているわけだ。イメージとしては理想的だな。それでいこう」

「それでいく? とは?」

「そのヒーロー番組で、ジュラガカンが辿った運命を、現実世界でもなぞるんだ」


 そうして、誠一は超常戦士エクセレントとして、“紫尾田”は自称“ジュラガカンを追いに来た異世界人”として人々に認知される為に、行動を開始した。


 次にあの大怪獣が顕れたならば、二人の力を持って倒す為に──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る