第3話 シャルレーヌの想い

 「最悪の場合だけど、市街戦に持ち込むのもありなんじゃないの?」


 街を使えば、そこにいる民衆を盾に戦うことも出来るし遅滞戦闘や入り組んだ街並みを活かしてのゲリラ戦術も可能だとシャルレーヌは言った。


 「それはそうなんだが……領主のやるべきことでは無いよなぁ……」


 戦術の整合性は確かなのだが、領主としてこの戦に臨んでいるアンドレアにとってそれは容認し難いものだった。


 「むぅ……どうしたものか……」


 必死に頭を巡らせるアンドレアの方を、チラチラと窺う兵士たちの視線に気付いたシャルレーヌがちょんちょんとアンドレアを小突く。

 それだけでシャルレーヌが何を言わんとしているのかを察したアンドレアは、


 「おっほんッ!!」


 とわざとらしい咳払いを一つ、足を組み替えて余裕そうな表情を浮かべてみせた。

 すると効果は覿面、

 

 「流石はアンドレア様だ、初陣なのに堂々としてらっしゃるッ!!」 

 「うむ、勝てる気がして来たぞ!!」


 兵たちは束の間、不安を忘れた。


 「こんなもんでいいか?」


 兵たちの視線が散ったところで、ため息をこぼしながらアンドレアは言った。


 「流石はアンドレア様、人を騙すことにも長けてらっしゃる」


 シャルレーヌは、ニヤニヤしながらそう返すと彼女は首から下げたアミュレットを握り締めた。


 「不安なのか?」

 「当たり前じゃない……武芸の心得はあっても実戦は未経験なんだから」


 見ればシャルレーヌは槍をこれでもかとキツく握りこんでいた。

 気丈そうに振舞っていても、やはり緊張しているのだろう。


 「無理するな。今ならまだ間に合う、城に戻ってもいいぞ?」

 「アンドレアに言われたくないわ。無理してるのは貴方も一緒でしょう?それにアンドレア一人で戦場に行かせるわけに行かないじゃない」


 シャルレーヌがそう言うとアンドレアは、


 「誓いのせいか?」


 シャルレーヌの生家がグリマルディ家に対して立てた誓いは、その命に変えても主家たるグリマルディ家を守るというものだった。


 「それもそうだけど、そうじゃなくて……」


 シャルレーヌは何かを言い淀む。


 「そうじゃなくて?」


 恋のいろはも知らないアンドレアは続きを促した。


 「なっ……なんでもないわよ!!こんな主君、やっぱり守ってやれないわ!!」


 あまりの無神経さにシャルレーヌは、憤慨するとへそを曲げてしまった。

 でもアンドレアはそれを満足そうな表情で見つめた。


 「それくらいでいいんだよ。代々誓約は続いて来たかもしれない。でもそれに縛られる必要は無いと思うんだ」

 

 そう言ったアンドレアはどこか遠い目で故郷の街並みを見つめた。

 

 「ご歓談中、失礼します」


 二人の会話の終わりを見計らって入って来たのは壮年の騎士。


 「おぉ、セヴランか」


 壮年の騎士の顔を嬉しそうに見つめたアンドレアにセヴランと呼ばれた騎士は


 「手筈整いました」


 その場に片膝立ちになるとそう報告した。


 「手筈ってなんのこと?何も聞かされてないんだけど?」

 

 それに驚いたように声を上げたのはシャルレーヌだ。


 「流石に俺も当主になってから手をこまねいていただけじゃないってことだ」


 シャルレーヌに向かって言ったアンドレアの表情は自信ありげなものだった――――。

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弱小国家から始める国盗りデス・ゲーム〜どうしようもない小国の果てしない外交戦争〜 ふぃるめる @aterie3

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