ゆび焼き(ホラー)
駐車場を出て右に右折すると、道路の左側には広い駐車場のある喫茶店がある。いつの頃からか、喫茶店の横にたこ焼きの屋台ができた。割と繁盛している様で、通りかかる度、常に数名の客が店の前に集っている。
同僚が言うのには、喫茶店の店主がたこ焼き好きなためにできたらしい。
そして今日も屋台の前には数名の客が並んでおり、繁盛ぶりが窺える。
しかし屋台の上の看板を見て、思わずブレーキを踏んでしまった。幸い後ろに車は無く、衝突事故は免れた。
見間違いか?そう思って強く瞬きし、もう一度見たが間違い無い。
看板には「ゆび焼き」と書かれていた。
ハンドルを切り、喫茶店の駐車場に車を入れると屋台の方へ歩いて行った。
もう一度看板を見上げるが、やはり「ゆび焼き」と書かれている。
どういう事だ、これは。ゆび焼きって何だ?「ゆび焼き」という店名のたこ焼き屋という事なのか?つまりこれはただの名前に過ぎないのか?
店の前は、丁度一組の客がテイクアウトの箱を持って立ち去るところだった。
屋台を覗くと、店員が二人いて一人がたこ焼きをひっくり返している。目を凝らしたが、生地の中に入っているのが何なのかは見えない。仕方がないので、購入した。
車に戻ると、たこ焼きテイクアウトの箱を開けた。丸々としたたこ焼きが10個入っている。
恐る恐る爪楊枝で割ると、中から生白いタラコの様なものが現れ「ヒッ」と思わず声をあげた。
それは確かに、人間の指だった。爪と骨は取り除かれ第二関節で切断されたであろう人間の指、加熱され生白くなっているが爪の在った跡や第一関節の皺などがはっきりと残っている。
吐き気を催し顔を背け、容器に蓋をした。
気分が少し良くなったので、車から出てフラフラと屋台へ行くと丁度客が立ち去るところだったので店員に声をかけた。
「お忙しいところすみません、ちょっとお尋ねしたい事があるのですが。」
「はい、何でしょう」
店員は愛想良く返事をした。
「ゆび焼きって、変わった料理ですよね。どうやって思いついたんですか?」
「最初はたこ焼き屋だったんですよ。でも原油高でタコの物価が上がっちゃって…」
「それで代わりに指を?でも、指の方が高くつくんじゃないですか?」
「そうでもないんですよ。」
店員は手を振って言った。
「工場の事故なんかで指を切断しちゃう奴がけっこう居てね。どんくさい奴だと四本くらい一気に切っちゃったりすんの。
これが勿体ないって話になりましてね、じゃあ丁度良いやタコの代わりにしよう、って。
そしたらこれが大当たり、たこ焼きの時より売れ行き良くなりましてね。工場の方も、指が売れるもんだからわざとどんくさい奴雇って危険な仕事に回したりして。」
「従業員皆、指無い人ばかりになりますね。」
「指が無くなった奴から解雇して、新しく雇うってのを続けているよ。まあ、不景気だし代わりはいくらでもいるからね。」
店員は何でもない事の様に言うと、屈託なく笑った。
車に戻り再び容器を開け中を見ると、一度目で慣れたのか、もう吐き気は感じなかった。数分、容器を前にしていたが爪楊枝で一つ突き刺し、口に放り込んだ。
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