第52話 鬼さんこちら

 焼却する。

 焼却する。

 名もなき火は少女の体を借りて、少女の敵を殲滅するため炎をぶつけていた。


『かなり焼けてきた』


(あの熱さんがいないからわかりやすい)


 今の火にとって、シズルがいない今少女の敵を見分けるのは簡単だった。少女に仇なす存在——つまり、自分の熱を感じるものを攻撃対象にすれば良いのだ。


『後はただただ、焼けば良いだけ』


 そう言って目の前に飛んできた騎士を目からの熱線で貫く。騎士は炎上しながら落ちていく。

 そして蝋燭の基地にべしゃりと音を立てて潰れた。すぐに蠟燭の基地は燃えながら潰れている騎士を取り込んでいく。


 火は段々と何かがおかしいことに気付き始める。


(……? わたしの熱がずっと下の方で大きくなっている?)


 火は自分ではない蠟燭の基地の中別の場所で自分の熱が高まっていくのを感じ取った。


『わたしの火で燃やした騎士から取り込んでいたのか? どちらにせよやることは変わら――』


ぼこぼこッ


 ひときわ大きな湧き出るような音が鳴るとそこからシズルが戦った時と同じ、巨大なロウソク騎士が生みだされた。


『……! これは、強い……』


(それと同時に下の方にあった熱が弱くなっている。もしかして熱があればあるほど強いのができるの?)


 巨人のロウソク騎士は火を捕らえようとする。


『なら熱が回収できないように一瞬で蒸発させる』


 そう言って火は巨人のロウソク騎士に狙いを定めたところで、


ズキン


『~~!?』


 初めて感じた鋭い痛みに火は悶絶した。急に全身が悲鳴を上げるように傷みだしたのだ。その痛みに耐えきれず、ラナの体を操っていた火は飛行のために両足から噴出させていた炎を消して落下していく。幸いにも重力に任せて落ちていったおかげで巨大なロウソク騎士の手に捕まることはなかったが、落下していく地面も蠟でできている。

 下ではラナの体の中にある火を取り込もうと蠟燭でできた触手がうねうねとうごめいていた。


(まずい。復帰を――)


「オラァ!」


 大釘が振るわれると同時に蠟燭の触手が引きちぎられる。


『この、熱は。なんで?』


「ちょっと。墜落してるんじゃないわよ。その体ラナのなんだから」


 シズルはそのまま落下してきたラナの体を受けとめる。シズルのその受け止めた箇所からジューという音が鳴った。


『焼けている。離して』


「離さないわよ。友達見捨てれる程軽くはないの」


『……??』


「……聞こえないのは、まぁいいわ。とにかくあんた今弱ってんでしょ。おとなしくしときなさい」


 巨人のロウソク騎士の手がシズル達に迫る。


「こっからはがやるから」


パチ、パチ


「鬼さんこちら。手のなる方へ」


 手を叩く音と小さな子供の声が聞こえる。


ドォン!!!


 巨大なロウソク騎士の体がはじけ飛び、宙に舞う。上半身が無くなったロウソク騎士はグズグズになって崩れていった。

 そして、シズル達の目の前にダイコクが着地した。


「よう。元気そうだな」


『悪魔の熱。焼却』


「お?」


「待ちなさい」


 反射的に熱線を吐こうとする火を手で制止するシズル。ダイコクもいきなりの事態に少し戸惑ったが、すぐに落ち着いて状況を把握することにした。


「……あぁ成程。今のラナの体はラナを燃やしてた炎が動かしてんのか。で俺様の悪魔の力を感じたから反射的に燃やそうと、納得だ」


「……納得なの? 結構理不尽な判定だと思うんだけど」


「確かに理不尽だがこいつから俺のダチの魔力を感じるからなぁ。あいつが悪魔を許すわけない。こいつにもその感情が移ってるんだろ」


「だが、そうなると堕転してたシズルを攻撃せんのが不思議だなぁ。というかラナを守ってないかこいつ。なんでなんだ?」


 ダイコクは火の方を向いて聞いた。


『何故か体を止められたみたい。なんでだ』


「あこいつ会話成立しない系か。まいったな」


「どうも、視覚と聴覚ないみたいで、熱で敵かどうか判断してるみたい」


「何? ……それ、結構やばくないか?」


「まぁ見境がないから確かに――」


「ちげぇ、だ」


「——なんですって?」


 会話はそこで中断させられた。蠟燭の基地が揺れだしたためだ。


「ダイコク様ぁ! なんかすごい揺れてる!」


 おかっぱ頭の和服人形のような魔物がダイコクに近づいてくる。先程の子供の声はこの魔物の声だったらしい。

 しばらくして、揺れは収まった。


「おお。どうやら相手も本気みたいだな」


 ダイコクがそういうと、後ろを振り向いた。


どちゃ。どちゃ。


 零れるような音とともにもはや騎士とも呼べない、ぐちゃぐちゃの蠟燭の塊が遠くから迫ってきていた。


「さっきぶちのめした騎士よりもでけえな。形も最早山だ」


『何故……! 何故動かしてくれない……! あれを倒せばラナの敵が……!』


「だからあなた弱っているんでしょ? おとなしくしときなさい」


「……ふーむ。どうもあれで色々決着がつくようだな? こいつの反応を見る限りだと」


「そうみたいね。そうと決まれば――」


「おっと、待ちな。シズルはここに残れ」


「なっなんでよ!?」


 シズルは目を見開く。


「今そいつを止めれんのはシズルしかいねぇからな。それに……そいつは今近くにシズルがいないとまずい気がする。何、締めはくれてやる」


「私がいないとって……」


「やばそうなら魔力を渡してやれってことよ」


 ダイコクが話し終えるのと同じタイミングでシズル達の近くに大きな窓が開かれる。


「これは……メテット!」


「シズル! ラナもブジで……ってなんかラナのメすごいことになってないか!?」


 窓から出てきたのはメテットだけではない。後から続々と


「あれちょっと止まんないこれ!?」


「おわぁああ吹っ飛ぶーー!!?」


「ダイコク様ー受け止めてッ!!」


 三怪を始めとした百鬼魔盗団の仲間たちが続々と悲鳴をあげながら


「……なぁメテット、お前の移送方法少し難があるんじゃないか?」


「いや、カソクをオサえるホウホウはオシえたはずなんだが!?」


 ダイコクは仲間たちがゴロゴロ転がっている様を見て怪訝そうにメテット見つつもすぐに切り替え、ダイコクは仲間たちに指示を出す。


「まぁいいか。オラお前ら立て! 暴れるぞ!」


 ダイコクの声を聞いてダイコクの仲間達は皆一斉に立ち上がる。ダイコクはうごめく巨大な蠟燭の塊を指差した。


「今回の狙いはあの蠟の山だ! 土木建築、解体作業が俺様達の十八番オハコ、うっかり地盤までも解体した俺様達の実力をラナ達に見せてやれ!」


「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」


 ダイコクの声に当てられたダイコクの仲間たちは一斉に蠟燭の塊に向かっていった。

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