第45話 私の最強

 闘技場は今炎の壁によって真っ二つに割れていた。


「ラナ、メテット……」


 シズルは闘技場に上がっていたラナとメテットを見つめる。


「「シズル!」」


 メテットが窓を展開し、ラナとメテットはあっという間にシズルの前へとたどり着く。


「すいません! 炎の壁を作るつもりではありましたが、思いの外大きく……!」


 炎の壁はシズルの身長の10倍くらいの高さにまで上り、今尚勢いよく燃え続けている。


「すごい火力……ラナは平気なの?」


「はい。また耐性がついたみたいで……それよりもシズルは大丈夫ですか?」


「ええ。少し痛むけど、大丈夫よ」


「そうですか。……いつもありがとうございます。戦ってくれて」


「ラナ? 別にいいわよ。戦闘は私の出番でしょう?」


 シズルは当然のようにさらりと言った。


(シズルのその強さについ甘えたくなってしまう。でも、だからといって頼りきりになってしまうのは違いますよね)


 ラナは意を決したようにシズルの顔を見て、


「シズル。ワタシたちも戦います。大切な存在が戦っているのにワタシたちは見ているだけなんて、あってはならなかったのです」


「! 大切な……存在……私が……」


 シズルは目を見開いて、ただじっとラナを見つめる。


「はい。……あの時は『助けてください』なんて初めから頼ってしまって、ごめんなさい。いくらシズルが強いといっても――」


「大切な存在なのね。私は」


「はい? そうですけど……」


「シズル? カオが……」


「フフフ。フフフフ……」


 ラナとメテットは笑うシズルを見て困惑する。

 当のシズルは何か納得したように、目を閉じながら三回頷き、そして、ラナとメテットに目を向ける。


「うん。ラナ、メテット。一緒に戦いましょう。頼りにしているわ」


「! ッはい!」


「リョウカイ」


 こうしてラナとメテットはシズルの横に並び立つ。

 そして、その時を見計らっていたかのように、


 鬼が空から落ちてくる。


ドォン!

 

 ダイコクがラナの炎の壁を、着地する。


「中々派手な演出だ。嫌いじゃないぜラナちゃん。むしろ好きだ。よくやった」


「……あの高さの炎の壁を……軽々と」


 ダイコクは炎の壁を背に腕を組み、ニッと笑う。


「……いいな。やっと理想どおりになってきたぜ」


「リソウ……これをノゾんでいたのか」


「勿論。お前らは3体そろってこそその真価を発揮するんだと一目見たときそう思った。だからずっとお前らとやりたかったんだよ」


「戦うのがお好きなんですね。ダイコクさん。……お仲間の方々は……」


「私達ならここよ」


 ラナは声のする方向に振り向くと闘技場に上がってきていたはずのアイナ達がいつの間にか闘技場を降りていた。


「うわ!? いつの間に降りていたんですか!?」


「ここから先はダイコク様と貴女達との戦いよ! 頑張んなさいよ! 」


 闘技場の外から激励を送るアイナ。

 応援してくれているが、アイナ達はあくまでもダイコクが勝つ前提で観戦している。


「……どうだ? いい仲間たちだろ?」


「そうね。見ている奴らは全員、ダイコクあんたが勝つと信じてる。信頼されてるのね」


「まぁな。これでも常識をひっくり返してきたもんだから」


 そう言いながら、ダイコクは戦闘体勢をとる。


「そろそろ始めようか」


 ダイコクはシズル達に向かって走る。


「マドよ、“ヒラけ”」


 メテットは即座に窓を展開する。その窓は入口から出口までの距離が極めて短く、輪のようになっていた。いつものような移動用の窓ではない。


 それはシズルを加速させるためだけの窓。

 シズルは輪の窓に入り、今出せる最高速度でダイコクに肉薄する。


(速——)


 急に接近してきたシズルに対応できず、ダイコクは右肩に大釘の突きを喰らう。


「速い、だが!」


 ダイコクはすぐに体勢を立て直して、右の拳で殴りかかる。ダイコクの右拳がシズルに迫るが、シズルはその攻撃を回転して受け流した。


「おお!?」


 シズルはそのまま、自分の足の一部を釘に変えてダイコクに回し蹴りを喰らわせる。


 ダイコクの胴に蹴りが直撃するも、ダイコクにはまるで効いていない。しかし、シズルは焦ることもなく、ダイコクに攻撃を続ける。

 ダイコクはシズルの怒涛のの攻撃を捌きながら、シズルの動きに今までの戦闘でなかったキレを感じ取っていた。


「っ! はは! 動きが全然違うじゃねぇか! それがお前の最強かぁ!?」


「……いや。まだよ」


「! まだ?」


 ダイコクの攻撃とシズルの攻撃がぶつかり合い、ダイコクとシズルは吹き飛ばされるように距離を取る。


 その時、初めてダイコクは背後にあった筈の炎の壁が消えていることに気がついた。


(炎の壁が……どこいった? 勝手に消えたのか?)


 前方のシズルに警戒しつつダイコクは後ろを見る。すると、そこにはメテットと、左半身が発火しているラナがいた。


(! まさかラナちゃんがあの炎の壁を!?)


「炎よ! “届け”!」


 ラナは遠く離れたダイコクに向けて、左拳を突き出す。ラナの左半身の炎は熱線となって、左拳から発射される。


「ふっ!」


 ダイコクは紙一重で、ラナから飛んできた熱線を躱わす。


「意外とやるなぁラナちゃん! 危ないところ——」


「そう。貴方あの炎の壁を飛び越えてきたんだものね。つまり貴方にも」


 ダイコクはハッとする。ラナからの熱線をダイコクは躱した。ならばその熱線はどこに行くのか。

 ラナから見て、自分の背後に誰がいたのか。


「ラナの炎は有効ってことよね」


 ラナの炎を自分の大釘に纏わせたシズルはその釘を横に振るった。ダイコクは咄嗟にシズルの攻撃を右手で受け止めたが——


バキィィン!


 ダイコクの腕の破片が宙を舞う。

 この決闘で初めて、ダイコクが傷を負った。

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