第2話

 目を開けると、周りは透き通った海水で満たされていた。でも、不思議なことに、息が普通にできる。驚きながらも、海の底を見渡すと、美しい珊瑚礁や魚たちが泳いでいた。


「これは一体、どういうことなんだろう……」


不思議な状況に戸惑いながらも、美紗は周りを見回していく。すると、突然目の前に現れた鮮やかな光が彼女の目を眩ませた。光が消えると、そこには謎の女性が立っていた。


女性は、深い青色の海の中でも、ひときわ輝くような銀髪と透き通った肌を持ち、水中でも美しさを失わない容姿だった。女性は優雅に笑みを浮かべる。その顔は、見覚えがあった。

「菜穂子さん……」

 女性は首を振った。


「ようこそ、あなたは海の神秘の世界へと迷い込んだのです。私は海の守り手、ネレアと申します。」


 彼女の言葉に、美紗はますます戸惑いを感じた。しかし、事情を察した。

(そういうことになっているのか……)

 ネレアは彼女を連れていき、海の世界の不思議な生き物たちや、珍しい海底の地形を案内してくれた。


 周囲は透き通った青色で、深海に光が届く領域の限界を超えた場所にいるかのようだった。海中には黄色やピンク、オレンジなどの鮮やかな色彩の珊瑚や海藻、岩肌には星のような模様の生物たちが張り付いていた。小さな魚たちが群れをなして泳ぎ、時折巨大な影が見え隠れする。その海の底には、まだ人類が知らない、謎に満ちた生物たちが生きているのだろうと思わせる、異世界のような光景が広がっていた。


 階梯に長く伸びる大きな裂け目。その奥はどこまでも続く深淵である。沈んだ船にはいちめんにサンゴや貝殻、フジツボがついている。


 美紗はいつしかネレアと海の世界に魅了されていく。


 そのとき、不意に異様な気配を感じる。

 あたりがみるみるうちに暗くなる。


 巨大なウツボのような下半身を持った、筋骨隆々の男。その太い腕には巨大なハンマーを持っている。

「ふふふ……ついにみつけたぞ」

「なに、あなたがたは?」


 そのときネレアはいった。

「こいつは海を支配しようとしている悪の組織の一味」 


「わたしにまかせて……ヴォクス・マーレ!」

 ネレアが叫ぶと、彼女は光に包まれる。そして戦闘美少女のコスチュームに身を包まれた。


「な……なに?」

「これがわたしのもうひとつの姿。海の女王、マーニャを守る戦士! いくわよ!」

 そうして、ネレアはマイクを取り出した。


「聞きなさい! 海の命たちが奏でる聖なるハーモニーを!」

 音楽が流れ、彼女は歌い始めた。


遠い空に 翼を伸ばして

深い海の底 澄みわたる静けさ

闇夜に 瞬く星の輝き


海の守り神 私たちを守る

あなたの歌 導いてくれる

力を 与えてくれる

信じる心を 守ってくれる


風は運ぶ 歌声の響き

魂を呼び覚ます 祈りのように

流れる水の音 耳を澄ますと

あなたの声 心に響く


海の守り神 私たちを守る

あなたの歌 導いてくれる

力を 与えてくれる

|信じる心を 守ってくれる


「うっ……」

 怪物はもだえ苦しみ始めた。


海の恵み 守るために

私たちが行う 祈りの儀式

海の守り神 感謝を込めて

永遠に 輝き続ける


海の守り神 私たちを守る

あなたの歌 導いてくれる

力を 与えてくれる

信じる心を 守ってくれる


「ちくしょう……覚えてろ!」

 怪物はさっていった。


「すごい……」

 ネレアは元の姿に戻り、ウインクした。

 そしていった。

「さあ、マーニャ様のところに行きましょう」


 マーニャとは、彼女が読んでいた本に登場するキャラクターである。


 美紗は、見たこともない美しい水晶の洞窟に連れて行かれた。


 様々な色で輝く水晶で作られた玉座には、美しい人魚の女性が腰を掛けていた。

「はじめまして。わたしがマーニャです。ようこそいらっしゃいました」


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