詩集 MIRGLIP

薬莢人形 或いは二つのシュール

凍てつく時間（とき）の弾丸が

私の五感を嫋（たお）やかに撃ち抜いていく……

嘗（かつ）て天翔（あまが）けた歓喜の髑髏（しゃれこうべ）

沫（あわ）を噴いては須臾（しゅゆ）にして腐り

大地を穿（うが）つ悲哀の踵骨（しょうこつ）は

墜ちた月に凭（もた）れる詩人の首頚（くび）を刎（は）ねる

屈辱に餓（う）えた煙突に

ブラリと下がる薬莢人形（プーペ・カルトゥーシュ）

空虚な壁を這う焼身の蜘蛛に

意識という名の糸をプツリと断たれ ────

鳳凰の肢体を望む獅子の群れ

精神界の小童（こわらわ）を圧して曰（いわ）く

（この時　彼らは

　大輪の燄（ほのお）を咲かせる太陽の台座（ピエドゥーシュ）を

　存分に喰らい続けていた）

　　お前は今宵　月の光（クレール・ドゥ・ルーヌ）の柱となって

　　早速　朝を惹き寄せる詩人を此処（ここ）に呼べ

　　人間界の五音（ごいん）を手早く身に付け

　　彼（か）の詩人の首頚を斬り落とせ

──── 嗚呼！

頬を伝う全き闇に

心がズブリと溺れながらも

我らの小童は確（しか）と踏んだ……

良識の稲妻（エクレール）の荒れ狂う洞窟を抜け

「絶望」の通り名にて知られる大地

行先不明の時間（とき）の氷面の上を　確と！

足の自由を盗られる極寒の氷床に

おお　小童は今

たった独り　夢を見始めたらしい

紅々として黒々しい駱駝（らくだ）の夢を

未知という鈍色（にびいろ）の道程（みち）に誘（いざな）われつつ

爆撃の足跡みたような灰色の舌先を

恰（あたか）も　愛する花を刻むが如く

細やかに　恐々と震わせて

そして

　　　　　　　　　　　　　　　　　さあ

　　　　　　　　　　　　親愛なる読者よ（Chère lectrice, cher lecteur）　

　　　　　　　全ては　あなたの心なのだ

　　　　　きっと（sûrement）　きっと　ここから先は

（詩情に餓（う）えた罪のブランコ（バランソワール・ドゥ・ペシェ）

　ブラリと揺れる薬莢人形（プーペ・カルトゥーシュ）

　虚空会（こくうえ）の宝塔を喰（は）む焼身の蜘蛛に

　意識という名の糸をプツリと断たれ ────）