突然変異④

 師人相手にさきの打撃を連発するのは不可能。その人外じみた身体は本人が言う通り、五体を木っ端微塵にしない限り再生し続けるだろう。


 だがしかし、あのもやに自分の能力は通用していた。と相良は手に持っていた刀を一振りして見せる。


「……しゃーない。その事務所ぶっ飛ばすわ」

「いいね、修繕費はお前宛に送るよ」

「アホ、入院費の間違いやろ」


 会話を終えると静寂が二人を包み込む。ゆっくりと近づくお互いの無機質な音だけが耳に入る。刃の届くギリギリの距離で足を止める。スーーーっと小さな息を吐き、身体を少しだけ斜めに構える。


 真剣勝負の決着はいつも"一瞬"。


 先手を獲ったのは師人。切っ先を相良に向けると同時、その刀はライフル状に変形し、火薬も無しにそれを放った。

 音もなく直線を描く銃弾は目の前のひたいへと命中する。が、骨に達する直前に相良は体をズラし、血を流しながら黒刀ごと師人の腕を切り落とした。


「ワイの勝ち……ではないか」

 肩から先の腕が地面に落ちると同時、相良は口を開いた。師人の顔にまったく敗色が見えない。


 その感覚は正解だった。


 人間は四肢欠損を自己再生出来ない。しかし、カルトと融合した師人はその限りでは無い。

 鈍い落下音と同時、肩の切断面から霧と共に一瞬で生えたその腕が、その力を物語っている。


「ほぼ不死身。そんでも辛そうに見えるで師人ぉ。一回休憩入れとこか?」

「あ? 人の心配をする暇があんなら、足元に気をつけろ」

 その警告に視線を下げる。


 派手な色をした蛇が数匹……地面から突き抜け、相良の足に巻き付いている。───ッ! しかし、気がついた時には遅い。致死性の毒を持つ牙が布越しにその皮膚を貫く。


 針を刺すような鋭い痛みが全身に巡る。と同時、相良はその口角を上げた。


「最高や………」

「やっと気がついたか。遅ぇよバーカ」

「やっぱり最高やでお前は!!」


 足元の畜生を蹴り飛ばし、一気に距離を詰める相良。それに呼応するように死地へと飛び込む師人。そして興奮は一気に最高潮───────。


「はーーーい!! 終了〜〜〜〜!!!」

 決着の間際まぎわ、鶴の一声と共に巨大な樹木が両者の行手ゆくてを阻む。


「ちょ待ッ────」

「ふぁッ!? なんやコ───ッ」

 突然現れた壁に二人は勢い止まらず、顔面から激突。反動そのままに地面に転倒。


「痛ッッッッッ! てぇええええええ!!!」

「鼻がァ!! 鼻がァあああああ!!!!」

 顔を両手で覆い、床に伏せ右往左往する男二人。


 その様子を見てイヒヒww、と爆笑する勝敗請負うけおい人。そんな三人を前に唖然あぜんとする清水。とその横に微笑ましく眺める一人の少女。


「いやぁ……みなさん元気ですねぇ」

「うおッ!? ビックリしたぁ!!」

「あーーっ! イヴ先生!! 相変わらず小さくて可愛いね〜〜〜!!」

「お久しぶりです柊さん。出張ご苦労様でしたぁ」


 のたうち回る二人を横目に少女イヴに抱きつく柊。ワシャワシャされる小さな上司。


「先生、お疲れ様っす。どうしてここに……?」

「次の任務をお伝えしようかと思いましてぇ」


 女三人が再会に花を咲かせる中、男達も回復。顔面を少し抑えつつ会話に加わる。

 

「清水騙されるな」

「そうや、アレな見た目にほだされたらアカン」

「何の話ですかぁ?」


 本人を目の前に忠告を続ける二人。


「姿は幼女、しかし実年齢はとんでもねぇ老女」 

「ん〜〜? もしかして私のことですかぁ?」

「ここだけの話、ワイら裏では"マジカルババア"言うてんねん」 

「……………………」


 原型も残らないほどに腫らした顔面。有らぬ方向に曲がった体をビクビクと痙攣させ、地に伏す馬鹿が二人。大量の血飛沫が噴水のようにぴゅーーっと噴き出し、赤色の水溜りが床一面に広がる。


「……アホっすね」

「ウヒヒww 二人共おバカでいいねーー!ww」


 絶えず笑顔のイヴと頭を抱える清水。 そしてお気に入りの後輩二人に対し、親指を向けて爆笑する柊の姿がそこにはあった。

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