第30話 ちょっと今から『十二座』ボコしてくる

「テミス・アンドロメダは死んだわ」

「嘘、だよな……?」


 リーナもリノも視線も合わさず黙っている。


 空間のざわめきだけがしつこく耳の奥に入り込んでくる。


「殺されたのよ。『十二座』にね」

「なんでっ……!」


 テミスは主人公の先輩として学園内でサポートしてくれるキャラで、『十二座』との戦いに巻き込まれるエピソードなんてなかった。


 それでも現実では彼女は殺されてしまっている。


 さて、驚きが落ち着いてきたところで、


 なんでなんだよぉぉぉ!!!!!!

 なんで! なんで俺の推しに限って死んでるんですかねぇ!?


『落ち着け雑魚。俺との約束──』


 ンなこたぁいいんだよ!! 俺の! 推しが! 俺が出会う前に! 死んでるの!!

 この重要性わかるかなぁ!?


「『十二座』……『十二座』ねえ」

「何? あなたテミスと関係があるの?」

「えっ? いや……」


 そうだ。まだこの時点でレグルスはテミスを知らない。

 ここで知っていることを明かしてシナリオ改変の可能性にかけてもいいけど無謀すぎるか。


「いや、ね? 学園の生徒が殺されたってだけで同情するというか同じ『十二座』被害者として悲しいというか……」

「……え?」


 瞬間、時が止まる。

 リーナもリノもただでさえ大きな目をさらに大きく見開いて固まっていた。


 うん。察した。だから言わない。自分が何をしたかわからない人にはならない。


「レグルス、自分が何したか分かってる?」


 聞いてくるのはダメでしょ。


「『十二座』に襲われるのってそんなにまずい?」

「まずいってもんじゃないですよぉ? よく生き残ってますぅ。えらいえらい~」


 リノの小さな手が俺の頭を丁寧になでる。


 なでられるのも悪くなぁい。じゃなくて


「『十二座』は世界最大の犯罪組織よ。基本的に狙われた被害者は殺害されてる。この国でも他でもね。どこの国でも実態がつかめない、けど名前だけ知れ渡ってる。そんな危ない集団。お分かり?」


 そんな集団をゲーム中では勇者がバッタバッタと倒していったわけだ。

 主人公補正えげつないな。


「最近だと、この学園でも噂みたいなのが流れ始めていますねぇ」

「噂?」

「この学園にも『十二座』の幹部がいるっていう話ですねぇ。まあ根拠のない話ですけどぉ」


 不穏な話でも普段のおっとりとした口調が崩れないリノの言葉にフン、とリーナは鼻を鳴らす。


「ありえないわ。この学園は王家が運営しているの。その組織に害虫が紛れ込んだのなら速攻始末するわ」


 でも油断はできない。シナリオ中でもどうってことのない村人や役人、王国軍の将にまで化けていた奴もいる。


 それに『十二座』だけが脅威ではない。


 あの勇者も女の逆恨みで俺を殺そうとしてくるかもしれない。


 ──なにこの過去一死亡フラグが立っている状況。


 まあでも『根性』があるだけまだ戦える状況だな。


「テミスを殺した『十二座』は誰?」

「確か……『傍観者』って名前だったはずよ。私も報告書でしか見てないから確証はないけど」

「私も名前までは……」


『傍観者』か……。

 ゲームの記憶を遡っても俺の記憶にその名前はない。


 忘れた? いや何十回と周回したゲームだ。忘れるはずがない。


 新しいキャラ? だとしたら早めに情報仕入れて対策したい。


 あれそうだよな? まだ家の地下牢に『エコー』いるよな? ダメもとで話聞いてみるか。


「そんなに深刻な顔しなくてもいいわよ。安全は王家が保障してるんだから」

「でも気を付けてくださいねぇ。これからダンジョン実習も始まるんですからあ、事故に見せかけてまた生徒に危害が加えられるかもしれません」


 この学園は広大な敷地内の中に一つダンジョンを所有している。

 自然発生したダンジョンのコアに手を加え初心者用に改造したそのダンジョンで生徒は魔物との戦い方の基礎を学ぶのだ。

 つまりはチュートリアル用のダンジョンである。


「またここに来るようなことにならないように願ってますよぉ」


 俺の手に包帯を巻き終わるとリノはそう言って寮まで送ってくれた。

 なぜか隣にリーナもいたけど。ここ一応男子寮なんだよね。


「ありがとうございました。『十二座』のことは家の捕虜に聴いてみるね」


 再び時間が止まる。


 事の経緯を丁寧に説明してようやく二人が解凍された。


「「『十二座』が捕虜!?」」


 開口一番揃うんかい。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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