第28話 七星はかく光る

「あれが、クレイモア家の……」

「勇者レイトにケンカ売ってあっけなく負けたって……」

「ちがうわよ。寝取りの常習犯よ。近づかないようにしなきゃ」


 悪口はもういい。聞き飽きた。

 だけど、寝取りはないだろ!? そんなことできる魅力と胆力あったら悪役貴族してねえって!!


 そもそも俺NTR展開は寝取られた側が不憫に思えてくるから守備範囲外なんだよ!!


 なるべく目を合わせないように、近くを歩かないように廊下の中央をそそくさと歩いていく。


「まじでなんでこんなに保健室遠いんかな……」


 魔術の教室からかれこれ5分は学園内をさまよっている。


 実際には広大な学園内に複数保健室があるらしいが俺の負傷を直せるのは寮に近い保健室しかないらしい。


 これでまた他の保健室に飛ばされるようだったら市役所って呼んでやる。


 内心で不満を垂らしながら歩いていると突然寮の方から人が飛び出してきた。


「うおっ!?」

「いってぇ、てめぇレグルスか!? なにしやがる!」

「えぇ……」


 思わず一歩下がってしまった。


 角を曲がってから俺の方向に突っ込んできたよな? 


「お前、レイトの取り巻きか」

「なんだ? レイト様の威光に今更怖気づいたか? だったら謝れよ!」

「ごめん」

「ちっがーう!!」


 なんでよ。謝ったじゃん。


「なんで謝ってんだよ! じゃなくてそんな軽い謝罪じゃ心がこもっていない!!」


 ぶつかってきた取り巻きは意味の分からないことをわめくばかりで俺の前から動こうとしない。


 本音を言うとさっさと無視して保健室に行きたい。だが興奮状態のこいつを無視したら余計に時間がかかる結果になるのが目に見えている。


「レグルスのくせに生意気なことしてんじゃねえよ!!」


 うーん、このなんともいえぬ言いがかり。レグルスだったらぶん殴られてたな。

 騒ぐ取り巻きを前にどう面倒なことを回避するか頭を悩ませていると、また寮の方から人影が現れた。


「ジュノ? 何やってんだよ?」

「げっ……」


 そこに現れたのは特にレイトへの信仰心が強い奴ら。ちなみに俺の足元に魔法を放った奴もいた。


「レグルスだ!! レグルスがやったんだ!」

「おい待てって!? ぶつかってきたのはあんただろ!?」


 俺の反論もむなしく取り巻き連中全員の憎悪の目がこちらに向く。


 まあ、最初から俺の話なんて聞きやしないってわかってたけどさ、ここまで目の敵にされるとさすがにむかつくよね。


「あ? やるならきていいぞ。お前らくらい、人数不利ぐらいがちょうどいいだろ。なあ烏合の衆」


 わざとらしく向かって来いと挑発してみたり。

 ここまで単純だとちょっと楽しくなるな。いかん。


「てめぇ、この野郎っ!!」


 案の定挑発に乗った取り巻き連中が一斉にとびかかってきた。


 左右と前からの同時攻撃。


 俺が今いる位置の一点だけを狙っているため、避けるのは難しくない。


 さて、どうやって完膚なきまでに反撃して二度と俺に因縁付けさせないかだよなあ。


 後ろに飛びずさった俺の影を追うように取り巻きたちが顔から地面と激突した。

 それくらい受け身獲れよ。


 じゃなくて、反撃するにしても暴力は使っちゃいけない

 喧嘩両成敗って処理される可能性もあるしケガさせてかたき討ちに来られても困るなぁ。


 立ち上がった奴らからばらばらと殴りかかってくるが俺のステップの前では空振りにしかならない。


 剣も自爆魔法も使えないだけでここまで手も足も出せなくなるなんて思ってもみなかった。


「ねえ、俺謝ったんだけど」

「知るか!! うわっ!?」


 みぞおちに拳を突き刺そうとしていた奴の真横に回り足を引っかけて転ばせる。

 すると今度は転んだ奴の身体に引っかかって別の奴も倒れていった。


「ねえもうあきらめてくんない?」

「テメエから仕掛けて来たんだろうが!!」

「いやだから俺はなんもしてないって」


 背後に回ってきた奴を半身で受け流し、前にいた取り巻きに衝突させる。


 もう避け続けるのにも飽きてきた。


 っていうか俺早く保健室に行かなきゃなんだって!!


 もう怒られるの覚悟で殴り返すかあ。


「ハアハア……ちょこまかしやがって……!! 男なら逃げるなァ!!」

「はいはいもう逃げないからさ」


 ファイティングポーズをとり力強く足を踏み出した。


 その勢いのまま俺の拳が取り巻きの一人の顔面に向かっていこうとした瞬間、あたりが真っ白になった。


「ぐっ……!」


 反射的に閉じた目を恐る恐る開くと俺の目の前に純白に光るヒグマが仁王立ちしていた。


「──!!!」


 魂まで震える咆哮は光を伴い再び視界を白く染めていく。


「こっちよ!!」


 取り巻きたちの怒号の嵐を介せず凛と響く声に連れられて引きずられていった。


「ここなら大丈夫ね」


 徐々に視界に輪郭が戻ってきた。

 目の前にあったのは上品なブラウスの上からでもわかる豊かな双丘と滝のように流れ落ちている黄金の髪。


「リーナ!?」


 俺を覗き込むように首をかしげたリーナが誇らしげに笑う。


「私の魔法で助けてあげたわ。感謝してもいいのよ?」


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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