第25話 油断しなくても足元はすくわれる

「両者、得物を持て!」


 先生の掛け声で木剣を構える。

 いつもの木剣よりは刀身が少し長いが、質の悪い木材を使っているせいで軽い。


 違和感につい顔をしかめてしまった。


 考えても仕方ないと前を見るとへらへらと人を馬鹿にしたようにレイトが笑っていた。


「今更負けるのが怖いのか?」

「いやまさか。一度勝っているからな。負ける気はしない」


 ただし油断は敗北の入り口だ。


 歯茎は! 出さない!


 身を引き締めるように柄をより一層強く握りこんだ。


「一回勝っただけでこいつ粋がってるぞ!! お前ら見とけよ! ボコボコにしてくるわ!!」


 闘技場の端に移動した生徒たちに向かってレイトが叫ぶと、


「そんな奴瞬殺しろ!」

「レイトなら余裕だろ!」

「下劣なレグルスにレイトが負けるわけない!」


 などと早速できていたレイト親衛隊らしき生徒から罵声のような声援が届く。


「オリオンさんに鍛えられたレグルスさんなら負けません!」

「いい試合を期待してるわ。負けたらあなたの貞操はなくなると思いなさい」


 一人怖すぎだろ。普通にNTR案件じゃん。


 シュヴァリエとリーナの声援でいくらか余分な力が抜けた気がする。


「魔法は『身体強化』のみ! 降参の申し出か首に剣を当てた状態で敗北となる! では試合開始っ!」


 号令と共に迫ってきたレイトの剣を軽くステップを踏み、躱す。


『身体強化』の出力を最大まで上げているのだろう、入学試験の時よりも速く、重い。


「オラオラオラどうしたぁ!! また逃げるのかぁ!?」


 俺を挑発しながら放った上段切りを刃先でいなし、受け流す。

 動きのパターンは変わっていない。自分の能力を信じ切った力任せのがむしゃらな太刀筋。


 大丈夫。まだ見えている。


 防御に徹して攻め疲れたところを突く今までの戦術でいけるはず。


 行動方針を固めながら馬鹿正直に突っ込んできたレイトの剣を受け流す。

 しかし相手も一筋縄でいく相手ではなかったようだ。


「チッ、また避けんのかよ。だったらぁ!!」


 悪態をつき、跳びあがったレイトの身体が視界から消える。


「もらったぁ!」

「あっぶねっ……!」


 真横からの攻撃を何とか剣で受け距離をとる。


 こいつ、空中で2段ジャンプしやがった……。


『身体強化』は単にスピードや攻撃力を補強する魔法ではない。

 文字通り身体を強化し内側から防御を高めることもできる。


 レイトはその応用として、限界まで身体を補強し、空中ジャンプができるほどの蹴りに耐えられる身体を作り、アクロバットよろしく空中で方向を変えたのだ。


「さすがに今のは疲れたんじゃないの? スピードが落ちてる気がするけど?」

「うるっせえぇ……!」


 身体の補強に、空中蹴りのためのスピードの増強。大量の魔力を消費したのに違いはない。

 実際、レイトの攻撃はより単調により遅くなっていっている。


「これで終わりだぁ!!」


 覇気のこもった叫びと共にレイトは大きく木剣を振りかぶる。


 何回も防いだ攻撃だ今更通じるわけが──


 俺に肉迫しレイトがにやりと口角を上げた。


 瞬間、俺の視界が斜めにゆがんだ。


 違う!! 足元が、沈んでっ!!


 体勢を崩した俺の剣はむなしく空を切った。


「ふんっ、俺の勝ちだ」

「──っ!」


 レイトが勝ち誇ったように告げた通り、彼の剣先は俺の首に触れていた。


「勝者、レイト・タレス!!」


 高らかな勝者の宣言と共にレイトへの賛辞と俺への嘲笑が雨あられと降り注いだ。


「おかしいでしょ!? 地面見てみろよ! 魔法が使われた形跡があるだろうが!!」


 明らかにへこんでいる地面を指さし、先生も生徒全員もにらみつける。


 いた! あいつか!!


 レイト親衛隊、その中で一人俺から顔を背けた奴がいた。


「魔法? 俺が見た限り使われていない! そもそもなんだその戦い方は!? 男らしく攻めろ臆病者が!」


 あーあーなんで俺が叱られてるんですかねぇ!?


 その後も俺の話には取り合ってくれず、レイトの思うがままになっていってしまった。


 ☆


 そして全員の一騎打ちが終わり、グループ分け。


 俺は不正の虚偽申告と防御重視の意欲のない態度だとして一番下のグループに入れられた。


 グループの発表は試合を行った順だ。


「シュヴァリエ・フォーマルハウト。お前は……一番上のグループだ」

「拒否します」

「──いま何と言ったんだ!?」

「拒否します」


 静まり返った闘技場にシュヴァリエの凛とした声が響く。


「最下グループに志願します。私は攻撃的なスタイルなのでレグルスさんの防御重視のスタイルと戦うことが上達の近道だと思います」

「ダメだ! なぜ自ら下に行こうとする!?」


 先生が訳が分からないといった風にうめく。


 まあ脳筋そうだしわからなそうだな。


「先生もおっしゃっていたように切磋琢磨しあうのがこの授業です。レグルスさんと私の上達スピードを合理的に分析した結果、私は志願したのです」

「ダメだ!! ダメと言ったらダメだ!」

「わたしも最下に行くわ」

「なにぃ!?」


 心底楽しそうにほほ笑みながらリーナも手を挙げる。


 あれはただ面白がっているだけだな。言い訳もこじつけもないだろうな。


 先生はその頭をぶんぶんと横に振り相当混乱しているようだ。


 よく先生が務まるな。


「ああもういい!! 勝手にしろ!! その代わり俺も指導しない!! 以上!!!」


 そう言うと先生は他の生徒のグループ分けをイラつきながらも再開した。


 俺の元に最下グループに志願してきた二人がやってくる。


「無理に来なくてもよかったんだよ?」

「いえ、さっき言ったことは事実ですし、あの勇者とか名乗っていた男、どうも信用できないのでこちらに来ただけです」

「悪評まみれの貴族対勇者の称号を持つ男。こんな面白いものに加担しないわけがないじゃない」


 うへぇと顔をゆがませるシュヴァリエと楽しそうにほくそ笑むリーナの顔を見比べて深くため息をついた。


 これ……絶対トラブルからの死亡フラグルート出てくるじゃん……。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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