第8話 剣は口ほどにものを言い

「坊ちゃま。当主様がお帰りになりました。許嫁の方もいらっしゃいますが面会されますか?」


 いつものように裏庭で朝の素振りで汗を流しているとデュネブから声がかかる。

 木剣を下ろし息を整える。


「応接間に通しておいてくれ。身支度してから行くから」

「その必要はありません。ここで十分でしょう」


 デュネブの背後から少し低いが凛と透き通った声が響く。


「そうはいかないだろ。許嫁に会うのに汗だくというのは格好がつかない」

「だからその必要はないと言っているのです」


 攻撃的なニュアンスを隠すつもりのない強い口調で反応が返ってきた。


 さすがに雰囲気悪いか。

 望まない婚約に加えて相手は自分の家の攻撃対象だ。

 俺だったらすぐ婚約破棄したいところだな。


「それを優しく言ってくれたら好感度爆上がりしたんだけど」

「初対面の相手に何を期待してるんですか。私たちにはこの場所がふさわしいという意味で言ったんですけど」


 近づいてくる足音に振り向く。


「初めまして。シュヴァリエ・フォーマルハウトと申します。今日から許嫁となりますが一定の距離はわきまえますのでよろしくお願いします」


 堅苦しい挨拶とともにクジャクの羽のように長い金髪をなびかせシュヴァリエは優雅に礼をした。


 自分が距離をとるからお前からも近寄ってくるなよってことか。


 シュヴァリエは『魔剣学園メルトダウン』のメインヒロインであり、主人公の相棒的存在として他のルートにも出てくるキャラクターだ。

 バトルシーンでもメインアタッカーとして活躍し、ついた二つ名は『戦姫』。


「一戦どう? 手合わせしない?」

「私の話聞いてましたか? ご遠慮させていただきます」

「聞いてたよ? 手合わせなら最低でも剣一本分の距離を保ちながら話せると思ったんだけど」


 シュヴァリエの服装も動きやすそうだしちょうどいいと思うんだけど。

 言葉ではわかりづらいことも剣を交えることでわかりやすくなる、かもしれないし。


 いや、違う。シュヴァリエは許嫁として初めてこの屋敷に来た。


「ごめん。そうだよな。何時間もかけておしゃれしてきた服装で動きたくなかったよな」

「いえ、そうではなく……!」


 うちに女物の運動用の服ってあったっけ、なんてのんきに思案していると呆れ100パーセント配合のため息が聞こえた。


「はぁ……わかりました。その代わり、私が勝ったら二度とこのような要求をしてこないでください」

「じゃあ俺が勝ったら……まあ、なんか考えとくから」


 納屋から出した予備の木剣を手渡し向かい合う。

 久しぶりの実戦に身体が緊張しているのがわかる。


 あくまで冷静に。観察しながら動くことには慣れた。

 毎日の素振りで体力もついた。


 自信を無くす要素はない。


「じゃあ始めようか」

「剣術の鍛錬はいつごろから?」

「3か月前くらいかなっ!!」


 地面を強く蹴り、土埃が舞った。

 足元からの切り上げ。


 木剣同士がぶつかる。

 カァンン!! と乾いた音が裏庭に響いた。


「あなたには負けません。歴も矜持も違うのですから」


 身を引いた俺に対してシュヴァリエはすかさず距離を詰める。


 切り上げ、切り下げ、薙ぎ払いからまた切り上げる。

 小刻みにステップを踏みながら流れるように剣技を繰り出す彼女は美しくも厳かな舞を踊っているようにも見えた。


「初心者には優しくしろよ新規参入が減ってオワコン化するだろうが!」

「何を言ってるんですか!? 私のスキルは『剣舞』です! 一度後手に回ったあなたに勝つ可能性は億が一にもありません!!」

「ねえ、スキルって開示したほうが強化される仕様でもあんの?」


 彼女の攻撃を受け流し、防御しながら純粋な疑問を口にする。


「それは……」


 シュヴァリエが言い淀んだ瞬間、剣筋が鈍くなる。


 その一瞬を逃さずに俺は再び地面を踏み込み低い姿勢から切り上げる。

 最初の一撃と同じ動き。


「せっかくできた隙を生かせませんでしたね。これじゃあさっきと変わりませんよ」

「いいや? そうとも限らないんだなこれが」


 シュヴァリエのゲーム内の二つ名は『剣姫』だが、プレイヤーからつけられたあだ名は『防御力ゼロ女』。


 つまり、押したらいける。


 再び木剣同士がぶつかるが、俺は引かなかった。

 剣先に力を籠めシュヴァリエの身体ごと弾き、体勢が崩れた隙に首筋に木剣を当てる。


 シュヴァリエは尻餅をつくとうつむいて黙ってしまった。


「俺の勝ちだね」

「なんで……ですか」

「うん?」


 勢いよく俺を見上げた彼女の眼は目尻が赤く腫れていた。


「なんで私が負けるんですか!? もう一回ですもう一回やりましょう!! うううううう~~!!!」


 まさかの悔し涙を流しての再選希望。


 まあ、なぜ勝ったの答えは原作知識とFPSの動体視力と毎日の筋トレを舐めるなとしか言えないんですけど。


『貴様、嫌われるためにわざと戦っただろ』


 いや、そんなことはないって!? なんで自分から死亡フラグ建設を早めようとすんの!?


 脳内喧嘩が勃発しそうになっていると様子をうかがっていたデュネブから声がかかる。


「坊ちゃま。女性を泣かせたまま放置というのはさすがに失礼かと……」

「ええ……わかったから。もう一回試合しよう。それより俺が勝ったから何か一つ要求通せるんだよね?」

「フォーマルハウト家の者に二言はありません。と言いたいところですが、一つだけ。あなたとなれ合うつもりはありませんのでお間違いなきよう」


 そう言うとシュヴァリエは木剣を構えなおす。


「じゃあ、デートしようか」

「だから話聞いてました!?」


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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