第6話 帰還

 目を開けるとキメラの死体はもう消滅していた。


 モンスターを討伐したら? もちろん報酬の確認である。

 俺を中心に同心円状に広がる焼け焦げた下草の間に報酬はあった。


「ボス的なやつ倒したときと言えばやっぱり武器落ちるよねー!」


 爆風に吹き飛ばされたかのように斜めに突き刺さる一振りの片手剣。

 鏡面のような光沢があり武骨でスタイリッシュな雰囲気をまとっている。


 一応、俺の身体に異変がないか確認して、剣を引き抜く。

 以外にも剣は抵抗なくスッと抜け、手になじんだ。


『魔剣デュランダルだそうだ。』

「お前もう普通に出てくんだな」


 お前のやり方で強くなれとか言ってたくせに。

 身体の残留思念ってそんなに自由なんすかね?


『無理やりやらされている。ありがたく思え』


 まあ実際、『根性』のクールタイムとか自分で数えてなくていいから楽ではある。

 戦闘に集中できるのはいい。


 報酬も手に入れたことだし帰るか、と思い立ったのだが──


「帰り道どっち?」


 前後左右どこを向いてもうっそうとした森ばかり。


 俺はここでようやく『迷いの森』の本質を味わうこととなった。




「ただい……ま……」

「坊ちゃまぁぁぁ!! ご無事でしたかぁぁ!!」


 身体を持たれかけるようにして屋敷のドアを開けると半ば四つん這いになりながらデュネブが駆け寄ってきた。


 キメラ討伐、もといガニメデスの裏切りから2日、俺は何とか屋敷まで帰ることができた。


 キメラより森の方が恐ろしいんだけど……。

 コウモリに追いかけまわされるし、ゴブリンにはデュランダル盗まれそうになるし挙句の果てにはスライムの小規模大量発生etc。


「死ぬかと思ったぁ~」

「ゆっくり休んでくださいませ。あとのことは私にお任せください」


 気力と共に足の力が抜け前に倒れこんだ俺を抱えデュネブは俺のベッドへと向かった。




 ぽふっ、とベッドの上に大の字になる。


「生き返ったぁー」

「申し訳ございませんでしたぁ!!!」


 頭、両肘、両膝を地面に打ち付けた五点投地。

 見事なまでのジャンピング土下座である。


 ベッドでごろごろしながら事の状況を報告してこの有様。


「身内に不届き物をのさばらせのうのうと仕事していたとは何たる失態!! 今こそ私の命を犠牲にして──」

「いやいやいや!! いいから!! なんでそうすぐ死のうとするかなあ!? なんなのどっかからリスポーンでもできんの!?」


 ミス発覚イコール切腹とか武士なの!? 


 情けなく目を腫らした顔でこちらを見上げるデュネブを椅子に座らせ落ち着かせる。


 ただでさえ少なくなった協力者側をこれ以上減らしたくない。特にデュネブは屋敷襲撃の件もあるし最優先で引き留めておきたくはある。


 俺はがばっと上体を起こし尋ねる。


「一つ聞きたいんだけどさ、ガニメデスに裏切る兆候とかあった?」

「この屋敷で雇う際に身元や職歴などを調べてはいたのですが何一つ怪しい点はなく、ましてや最近は特に坊ちゃまと仲がよろしかったようで不満などを漏らしていたということもありませんでした」


 ただ気になるのは彼が俺に訓練をしていたのも、俺をキメラに殺させようとしたのも依頼だと言っていたこと。


 じゃあ金のために動いた? 違う。デュネブによれば警備隊長の給料は平民の10倍はあるみたいだし本人も物欲が薄いみたいだからありえない。


 俺を訓練するための嘘? いやその線はない。だったら俺の足が切断されたときに駆け寄ってくるだろうし、この屋敷に帰っていないこととも矛盾する。


 弱みを握られている? 可能性はあるけど俺を置いていくガニメデスの顔に後悔は見えなかった気がする。


 結論──


「何もわかんねえや。 未来の自分よ。託した」


 分かんないなら放っておいてまた情報が入り次第考えればいい。

 鍛錬を積まなくてはいけない俺に無駄に考えて足踏みする余裕はないのだ。


 再びベッドの上に大の字になった俺に、デュネブが口を開く。


「お休みする前にこの二日間についてご報告してもよろしいでしょうか」

「まあ、いいけど?」


 もう一度上体を起こして聞く体勢に入る。


「手短に言いますと賊の正体の手掛かりをつかみました。フォーマルハウト家の元奴隷のようです」


 フォーマルハウト家は聞いたことがある。

『魔剣学園メルトダウン』の一つのルートにフォーマルハウトが苗字のヒロインがいた。

 名前はシュヴァリエ・フォーマルハウト。メインヒロインである。


 ちなみにこのルートだとレグルスはシュヴァリエを襲って返り討ちにあって死んでます。


 この家もクレイモア家と同じく伯爵の位にいる貴族だ。


「あれ、俺貴族間の闘争に巻き込まれた感じ?」

「その可能性が高いですね。今当主様がフォーマルハウト家との会談へ向かっていますのでその結果次第ではこの屋敷を離れることもあるかと」


 当主仕事が早いな。まだ直接会ったことないけど有能な人であることには間違いなさそうだ。


 まあ当主間の話し合いで解決してもしがらみは残る。俺も転生直後に命を狙われて、すぐに切り替えることはできないし。


「当主様からは、『お前の許嫁を獲ってくる』とのことです」


 数秒、沈黙が絡みつき、ほどけていった。


「──はぁ?」


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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