1-2 勘違いとVtuberと
11 宅配を受けるピンク髪の女性?
「みおとくっーん!」ガラッと扉を開き、背中を向けて「ん!」
「肩もみですね。分かりました」
「おっ、もう分かってきたか。それじゃあこのまま私の部屋にレッツゴー!」
蒼央さんに連れられ……というか、肩をもみながら部屋移動。
二人してのっそのっそと移動して、床にぺたと座ったので膝立ちで後ろに立った。
4月から始まった大学生活にもなんとなく慣れてきたころ、世の中はGWとやらに突入しそうな時頃。
多くの大学生は課題をやったり、バイトに追われたりするって聞いたが、ぼくはいつもと変わらない。
冷房の効いた部屋で、蒼央さんのお手伝いである。
肩が露出した薄い服を真上から見下ろし、小さな肩にグイグイと加える。
「んっ……ぅぁっ……イっ! ひっ……ふぅ……は〜……たまんねぇ〜……」
「……」
「んんっ〜! そこっ……ダメッ、ぐ、うぅ……お”っ”!」
……この人は、肩に性感帯でも詰まってるのか……?
「喘ぐの辞めてもらっていいです?」
「んぃ……? なぁにぃ〜? 男の子には刺激が強すぎるかい?」
「下品だと思いますよ」
「お高い存在より、下品な方がコミュニケーションは取りやすいだろう? とくに、女
「……まぁ、そう、かもです」
「だろう」
絡みやすいのはたしかにそういう女性のほうだ。
萌え袖とかまじでそれ。アレなんなんだよ。袖の裏にナイフでも隠し持ってるんじゃないかって思ってるけど。
姉は上裸で風呂から出てきて歩き回るし、ボディタッチは兄妹だから当然のこと。一緒にお風呂に入っていた時期もあるし、女性用の下着なんてものも見慣れてる。洗濯とかするとどうしても畳む機会があって、女性用の服も当然のように着させられる。
そんな環境で育てば、こんな感じになる。女々しいとか、女に下手にでる腰抜けとか女男とか。あ、涙出てきた。
──ピンポーン。
「ん。おっ、頼んでた
「わかりました」
マンションのモニターから見えたのは運送業者さん。エントランスの入り口を開けて待っていると、玄関口に荷物が届いた。
お、割と大きい。
「ここにハンコか名前をお願いします。お姉さん」
「はいはい。えーと……」
木下ではなく……、なんだっけ…………って。
「お姉さん……?」
「あ、いや、いつもとは違う女性だったので」
「そー……ですか」
この格好なら仕方ないか。今日も今日とて、蒼央さんが買ってきた服を着てるからなぁ。
受け取りは蒼央さんの下の名前は『しらはま』なので、ひらがなで書いておいた。大丈夫だろう。濱の方がいまいちわからんのだ。
「すみません。通ります」
「おぉ、すみません」
「……」
配達員さんの後ろを通っていったのはお隣さんだった。
目が合うと、ぷいっと視線を反らしてガチャと扉を開けていった。
ゴミ出しとかする時にたまにすれ違ったりしてたからよく覚えてる。
見た目は高校生くらいの子ども。小さいのに一人暮らしをしてるっぽい。えらいなぁ。
「はい。荷物届きましたよ」
「ィやった〜! 届くのに時間がかかったなぁ〜」
座っていた蒼央さんに荷物を渡しておく。
「何買ったんですか?」
「心音くんへの贈り物さ」
「お、贈り物……なんだろ」
ビリビリとダンボールを破くと、その中から……
「じゃじゃーん! 牛さんのコスプレ衣装〜!! ハロウィンとかにも着ていける奴だよ」
「へぇー…………」
なんで、牛のコスプレ衣装なんだ?
グイと押し付けられ、早速着てみることに。結構ぶかぶかだ。フード付きで、律儀に乳搾り用の
「似合うっ、似合ってる!」
「でも、なんで牛なんです?」
「これがあれば、授乳プレイも問題なくできるでしょ?」
「蒼央さんって変態ですよね〜」
脱いでベッドの上に投げておいた。
蒼央さんが物寂しそうな顔をしてたが、今日はそういうテンションではないのだ。あの日の一件があるし。
「……そういえば、そろそろ18時ですよ。いつものアレが始まるんじゃないですか?」
「ン。あ、そっか!! じゃあ、仕事も始めちゃうかな」
今日は平日の午後6時。その時間帯になったら、蒼央さんは動画配信サイトのある配信者の動画を見るのだという。
蒼央さんのパソコンの画面上で、配信待機中の画面がカチカチと動く。そろそろ配信が始まるの合図だ。
始まった瞬間、アニメのようなOPが始まって……画面の右下に現れたのは、二次元のキャラクター。
白髪で目が少し鋭く、ツンッとした雰囲気を感じさせるその顔立ち。男性のようだけど、女性にもみえる中性的な雰囲気。
「キター!! ましろんの生放送〜!!」
彼は俗に言うところの「バーチャルライバー」という奴である。
これが始まると、蒼央さんは仕事を始める。
前に「何を聞きながら作業してるんですか?」と聞いたら「生放送」と言われた。人の声を聞きながらの方が作業が捗るのだと。
『おまたせー、みんな! 今日も、元気に生放送はじめていっくよ〜!』
「いぇーーーい!!!!」
「今日は何するんですかね」
「今日は雑談配信なんだって。雑談が苦手だから、頑張ってみるってつぶやいてた」
「雑談か。……女性のかたですよね」
「いいや、ましろんは男の娘だよ」
「あー、おとこのむすめ、のほうですか」
「そそ。分かってきたじゃん。ま、どう聞いても女の子なのに、頑なに男だよって言ってるのが可愛いんだ〜」
蒼央さんが気に入ってるのはそういうところか。
「それじゃあ、ぼくもGW中の課題があるのでそっちやりますね」
「うぃ」
これでしばらくは蒼央さんからの要請は出てこないだろう。
自分用の部屋に戻って、教材を広げる。経済学部なのに提出物があるのは、共通科目の講義が多い。ちゃちゃっと終わらせておこう。
「っと……そのまえに……」
スマホとイヤホンを接続し、チャンネルを探す。あったあった。
「せっかくオススメされたんだから、お試しで聞いてみるか」
小説家っていう職業のことはよくわからないけど、集中してるときはずっと集中してるお仕事だ。そんな職業の人が「これをきいたら集中できる」って言うんだから、聞いて見る価値はあるはず。
『ましろん』は愛称で、名前は『ましろ』か。
個人バーチャルライバー。いつからしてる……あ、三年前からやってるのか。
『コンビニ袋が有料になったからさぁ〜』
イヤホン越しに聞こえるのは、やっぱり女の子の声だ。
若い。声変わりも迎えてないんじゃないかと思う。
まぁ、ちょっと課題をやりながら続けてみるか。
『今日あったことで一番ビックリしたことなんだけど〜』
「…………」
『あ、誰だよっ、いま女の子って言ったやつ! 男だって言ってるだろ!?』
「え、こわ。ブチギレじゃん」
『うんうん。みんなもようやくぼくがオトコだって分かってくれたみたいだなっ。つぎ変なこと言ってみろ、ブロックするからな』
「いや、会話に集中力もっていかれないか……? それにしても過激だな」
これで集中できるって人はなんだ? バケモノか?
いや、会話をそもそも聞いてるのか……? 友達と一緒に勉強してる感じになって、ちょいちょい集中力が途切れる。
「…………ぼくには向いてなかったな」
『あ、あとね。今日、家に帰ろうとしたらお隣さんがね荷物受け取ってたんだけど。めっちゃかわいい女の人がいたの。すごく可愛くてさ〜。ピンクの髪色だった──』
『♪』
いつもの音楽に変えてっと。
「じゃあ……切り替えて、課題やっていくかぁ……」
それにしても、荷物受取るピンク髪の女の人って世の中には不思議な人も居るもんだよなぁ……。
童顔で陰キャでぼっちなボクが、変態女性小説家に飼われそうなワケ 久遠ノト @effenote
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