童顔で陰キャでぼっちなボクが、変態女性小説家に飼われそうなワケ
久遠ノト
第一章:小説家とVtuberと友達と
1-1 変態小説家と女装と
01 女子枠で合コンに誘われたんだが
「人生一回きりなんだから、楽しまないと」
って贅沢な言葉を、液晶越しに聞く機会が度々ある。
その言葉を実際に会う人間に言われたことは今までにない。そんな日常を送っていた。
(……あ、お姉ちゃんは「わたしは好きに生きる!」とは言ってたか)
ごめんなさい。同じようなことを言う人がいました。嘘ついた。
まぁ、そんな感じです。身内にいたので、この話は無しで。
(でも『楽しむ』と『好きなこと』をする……っていうのはちょっと違う気がする、から、そうか……嘘ではないか)
鳥が泣いて、太陽がコンクリートを突き刺し、遠くの風景が歪んで見える。夏が来たんだなと感じる今日このごろ。
相変わらず自動販売機は赤いし、木陰は涼しいし、雲の無い晴天を恨めしく見上げた回数は覚えてない。
大学の校内では仲良しグループが肩を小突きあって歩いてるし、掲示板にある張り紙も期限が過ぎてる。上から見る飯屋の行列は外にまで続いてる。
(好きなことをしても楽しくないこともある。楽しいは……別に好きじゃないことでも感じることもある、か)
リュックに入れた教材を揺らし、廊下を歩いて、扉を開け、後ろの窓際に座る。
講義を聞いて、ルーズリーフにメモをして、ファイルに綴る。
(じゃあ、楽しんで生きるって……わりと、いろんな人が出来てるんじゃないだろうか)
視線を縦長の窓の外へ投げるようにして外の様子を眺めた。
大学の先生が歩いてたり、掃除のおばちゃんが歩いてたり、中庭の木をキレイに切ってる人がいる。
内側では、遠いところで教授が騒がしい学生を注意して、途中参加の遅刻組に雷を落としている。彼らは後ろの方に座って、先に居た友達のレジュメを見ながら、授業に参加。
(楽しむっていうよりかは、ストレスがない生活を望んでるんじゃないのかな)
そんな変わらない環境で変わらない日々を送りながらの自問自答。
なんてことのない日常だ。これが毎日つづいている。
ペンを手先で遊ばせて、はぁ、とため息をついた。
(友達がいる人は盛り上がれていいですね)
みっともない『ひがみ』である。
ぼくの名前は、
いや、違うか。一般大学生以下の大学生だ。
なぁなぁで高校生活を送り「人生の夏休みを楽しめ」と言われて、大学に入った。新歓祭という謎行事は無事に終わり、サークルの勧誘も控えめになり、同級生の「友人づくり」の熱が冷めてきたと感じる。
まぁ、ぼくは見ての通り「友人」と呼べる人間はいない。
大学生って華々しいイメージがあった。友達いっぱいで、サークル活動して、バイトして、後半は真面目に就活して──とかなんとか。それが、一年生の夏に崩れ去るとは思っても見なかった。
(サークルに入らないと友達できないって知ってたら……頑張ってサークルの新歓祭に行ってたかなあ)
いや、家でゆっくりしたかったから、行ってなかったかも。
どうやら大学生の「友人づくりの場」は「サークル」か「バイト」か「ゼミ」らしい。それか授業が始まる前の『友達作りのオリエンテーション』みたいなヤツ。
高校生までは「ホームルーム」があったから、クラスってのがあった。でも、大学はそんなのがない。その期間になにもしてなかった自分は……この通り。
周りがグループで講義を取ってる中、一人で講義を受けているのである。
昔に友達に言われた言葉が、今でもしっくり来てる。
『オマエは、カロリー低めだな』
要するに『陰キャ』とやらを丁寧に言った言葉なのだろうと思うが、その時はなんか褒められた気がした。ありがとうって言ったら、変な顔されたから多分褒められてはなかったんだろうけど。
そんなボッチ生活してたら、自問自答もするようになる。
(……でも、そうか。ストレスって好きなことしてたり楽しんでても感じるか。えーと、つまりはー……どこまで考えたっけ)
天井を見上げた。さっきまで壇上にスライドを投影していたプロジェクターが天井に飲み込まれていった。
自分の桃色髪が視界に映る。目に入りそうだ。長くなったなあ。髪切るの地味に高いんだよなぁ。
(あ……『どうせストレスを感じるんだから、楽しく生きよう』ってことか……)
ふむ。自問自答に片がついた。
リュックにファイルを入れて、チャックを閉めた。講義も終わった。ぞろぞろと学生たちが出ていっている。小テストは今回はないらしい。毎回ある小テストを三回すっぽかしたら単位不認定。いわゆる、落単ってやつだ。
いつも参加してる人にとっては「小テストがないからラッキー」で、たまにしか来ない人にとっては「え、ないのか。来た意味ねぇ〜」って感じかな。
(結局は『ストレスを感じにくい』ことで『楽しい』と思えることが最強ってことか。……そんなのあるのか?)
なんでこんなこと考えてたんだっけ。
……まぁ、いいか。次のコマはどこの教室だろう。
「あ、
「…………」
同じ学部の少しだけ会話したことがある女子にお願いされた。
名前は覚えてないけど、最初のオリエンテーションで目立ってたのを覚えてる。絶対にぼくが相容れない存在──「陽キャ」という奴だ。
鋭い目つきに赤い瞳。淡い金色の髪を短く切り揃えているボーイッシュな髪型。極めつけは革ジャンを羽織って、ギターでも入りそうなバックをいつも持ち歩いている。
にしても、えーと……。
「……ボク?」
こくと頷かれた。家族以外の人と喋ったのなんか久しぶりだ。最近でいうと三日前のバイト先のおばさんくらいか。
「いい、けど」
「やった!!」
飛び跳ねて喜ぶ陽キャを見て、スマホに目を落とした。次は大教室の二階。近いな。
(あ。いる。衣食住が与えられて、将来の不安もない。猫とか犬だ。たしかにアレは理想とする生き方かも……)
猫になれるならいいなぁ。将来の不安がない生活って最高じゃないか? でも、ぼくにあんな愛嬌はないしなぁ……。
「じゃあ、今日の夜! 集合場所は後で送る! くれぐれもかわいくなりすぎないように注意だからな?」
「あ、うん……」スマホに落とした目をゆっくりと上げた。「え?」
聞き間違いだろうか。あまり関係性がないこの女学生に、ボクはいま、なんて言われた? かわいくなりすぎないように注意……って。
「その、足りないのって」
「ン? 女の子枠!」
うわわわわ。
「サークルの先輩に言われて声かけて回ってんだけど、みんな乗り気じゃなくてさ。でも、良かった! 心音くんは顔がいいじゃん? 童顔だし。ぶっちゃけ、女の子枠でいけんじゃね? ってなってさ。話しかけてみたんだ」
ね〜? と隣の女子に同意を求め、頷いていた。
ボク、その子と面識ないけど。……そもそもあなたともちょっと話したくらいだよね。いつに話したかすら覚えてないけど……あーーー、学生証を忘れて教室に入れなかった子だ。
なんか、連絡先を交換してたな。一回も話してなかったから忘れてた。
「大学生になったんだし、そういうのやらないとじゃん!?」
そんな目をキラキラさせられて言われても……。
「これで人が足りたよ〜、ありがと〜! じゃあまた送るね〜!」
手をひらひらとさせて、彼女たちは消えていった。
上げていた視線をスマホに再び降ろす。
「……女子枠で、合コン」
ポロンッと通知がきた。さっきの女学生だ。名前は……こんな名前だっけ。伊尾って名前なんだ。……で、場所は?
「しかも居酒屋……」
ボクたち、まだ未成年だけど。あれ、18歳からお酒って飲めたっけ。違うよね。
「次、この教室は他の学部が使うからな。早めに出とけよ〜」
黒板を消し終えた教授が出ていった。
なに考えてたかも忘れたし、変な用事が入ってきたけど。
「…………お姉ちゃんに連絡しとくか」
とりあえずリュックを背負って講義室を出た。
困った時に頼れるのは勝ち気な性格の姉である。
『心音)今日、合コンに来いって言われてさ』
『姉)は?』
『心音)女子枠で来いっ言われたんだけど』
『姉)あー(納得)りょ。用意しとく』
『心音)ありがと。頼りになります』
『姉)とびっきり可愛くしたててやる』
『心音)それはちょっと』
一瞬で既読がついたし、服も用意してくれるらしい。さすが姉だ。
さっきのイオって人が言っていたように、僕は童顔らしい。
そのこともあってか、ファッション業界で働いている姉にぼくと妹はよく着せ替え人形にさせられていたワケだ。
(女装をするのも久しぶりだな)
なんだか、今日は楽しいことがあるかもしれない。
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