第5話〜民家

 また村の方に戻る。


 じっくりと辺りを見渡すと、都会のちんけな小屋のような家ではなく、木造の横に広い家が何件も並んでいる。


「家デカいなぁ。羨ましいよ、俺のマンションと取り替えて欲しいぜ」

「人が少ないのに家が大きすぎる。中年しか居ないのに」

「昔は大量に人が居たんじゃないか?」


 家の件数と人が反比例している。家は老朽はしていないのに、若者は見当たらない。


「まぁここも少子高齢化の波が来てるんだろ」

「保育士の第六感が告げてる。子供は別の所に居るよ」

「どういう能力者だよ。まだ夏休み入ってないだろうし、学校だろ」


 楽観的ではあるが、他に理由が思いつかない。この島の少子高齢化の原因を思いついたとしても部外者には関係の無い話である。


「案の定、職員達は居ないとして…真昼だから出てこないのか?うーん、まだまだ調査しなきゃなのだ」


 薫田あるじは少し離れた所を歩いていた。家の窓から覗いてみるが、カーテンが閉められており中は見えない。


 ここら一体の家の窓の中には全部カーテンが閉められているようだ。


「あるじちゃま、何の調査だ?」

「えっ、あっ!この家の耐久性なのだほら耳を当てるとこの脆さが分かるのだ」


 その独り言は針口にも聞こえており、彼女は咄嗟に嘘をついた。体を壁に密着させてコンコンと、こついている。


「耳を当てて?古典的だな」

「手伝うね」


 何を思ったのか、ヴェニアミンは壁に向かって鋭い蹴りを二発入れた。風が髪を浮かせる。


「何してんだお前!弁償だぞ弁償!」


 バシバシと彼を叩いてやめさせた。これ以上やると本当に崩壊してしまいそうだったからだ。


「誰もいなくて良かった…やめてくれよ」

「脆い?ニアミンは痛いと思う」

「痛いなら尚更やめろよ」


 小学生でもその感想はないだろう。


「何か呻き声が聞こえるのだ」

「建物の柱が響いてんだろ」


 耳を建物の近くで潜ませていると、人か動物かよく分からない音がする。微かにしか聞こえないので、断定が出来ない。


 そして、保育士は道を歩いていた夫婦に突撃して行った。


「ちょ、どこ行くんだよ。あるじたん置いていかれるぞ」

「待ってくれなのだー!」


 そう言いつつ、彼についていった。


「噂は本当かも…なのだ」


 その独り言は誰にも聞こえなかった。

 夫婦は突然来た外国人に驚いているが、それ以上の反応はなかった。


「家田さんですか」

「何だ?知り合いか?」

「え、あぁ、はい。そうですが」

「僕達に何か用ですか?」


 困惑している、当たり前だ。知らない人間にいきなり名前を言われるなんて困惑以外ないだろう。


「ニアミンは保育士です」

「はぁ、それは大変ですね」

「実は君達の親族に捜索依頼を出されて、ここまで来たよ。元気?」

「わ、私達は元気ですよ。そう伝えて下さい」


 貼り付けた笑顔で答えた。夫婦がチラチラと向かいの家の方を見る、そこに何か用事でもあるのか。


「子供はどこにいる?丸夫くんはどこ?」

「それは…」

「まぁまぁ!家田さんったら、早くお米を運んでくれないかしら?」

「まだ仕事はあるんだぜ?なぁ」


 すると、向かいの家から中年の夫婦が扉を開けてやってきた。半端、無理矢理に会話は途切れ、四人は扉の向こうへと行ってしまった。


「行っちゃったのだ」

「何かやつれていたな。不自然に割り込んできた人達も知り合いか?」

「知らない。この村はきな臭い」

「…少し否めないな」


 ずっとこの旅行を楽しみにしていた彼でさえも、この島を疑い始めた。


「熊の嘘、蝉の消失、さっきの夫婦の怯え。この島は変だ。俺、ここが海鮮が美味しい島って聞いたんだけど。俺、指名全う出来そう?」


 そう、彼の目的。つまり命令はただ一つ、【この島でバカンスを楽しむ事】である。

 ただその使命が達成されるかどうかは今後次第ではある。


「はーりーぐーちぃ?」

「楽観主義者め、赤く染めてやろう」


 彼と比べて二人は人探しという重用な命令を与えられているので、尚更、その緊張感のなさに呆れている。


「これすら失言扱いかよ」


 口をすぼめて言った。

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