第5話


「起きろ」

「…何」

「動きが見えた」


窓の外を見れば月が静かな街を照らしているような時間だった。

猫はその長い尾をゆらゆらと揺らしている。


「…暗くてよく見えない」


窓を小さく開けて顔を覗かせれば、人影は見えるものの、何が行われているのかまではよく見えない。


「ねぇ、力を貸して」

「分かった」


猫は私が何を言いたいのか察して、私の影に飛び込んだ。

目を閉じて意識を集中させ、再び目を開けると外は真昼間のように明るかった。


「見えるか?」

「うん、ありがとう」


これは『猫目』と呼ばれる猫特有の目である。

網膜の視神経に微かな光を反射させて、暗闇でも鮮明に景色を捉えることができる。

猫が私の影に入ると何故か私もこの猫目を使えるようになるのだ。


「…あれは、馬車?」


極力小さな音がしないように動かしているが、大きな木造の馬車が国境に近づいていた。

門番は見慣れているのか、何かを受け取ると馬車を通した。


「わぁ…この国真っ黒じゃない」

「明らかに何かを受け渡していたな」


猫はずるりと影から出てきた。

すると私の目は再び暗闇しか見えなくなる。


「これからどうするんだ?」

「とりあえず、パーティー好きの貴族の家でメイドとして働こうかしら。どこかのお偉いさんたちの噂話を聞きたいわ」

「もっと手っ取り早い方法を取らないのか?」

「ここで慎重に動かないと後で困るのよ」


猫はつまらなそうにため息をついた。

そろそろ暗闇に目が慣れてきたようだ。


「今回は長丁場かい?」

「稼ぎ時なの」

「つまらん」


それだけ言うと猫はまた私の影の中に潜っていった。

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