第4話


宿の受付では若い男性が1人、何かの作業をしていた。


「すみません」

「はい、どうかされましたか?」

「えっと、今日、泊まれますか?」

「お1人で?」

「うん」

「申し訳ないのですが、未成年のお子様1人での宿泊は…」


またこれだ。

そういえば前の国の宿でも同じことを言われた。


「……私の祖国、内乱で…無くなっちゃったの。パパも…、ママも…」

「あ、もしかして西の…」


店主は何かを察したように言葉を詰まらせた。

それから少し考える素振りを見せた後、カウンターを回って来て私と目を合わせるように屈んだ。


「この国には何をしに来たの?」

「お仕事を探しに来たの。お金ないから…他の宿は高くて泊まれなかった…」

「そっか、大変だったね。…じゃあお仕事見つかるまではここの宿に泊まっていいよ」

「本当!?」

「うん、宿代もいらない。その代わりお手伝いしてもらえるかな?」

「うん!頑張る!」


男性は私の手を引いて部屋に連れて行ってくれた。


「ここでいいかな?」


その部屋からは偶然にも国境辺りが見えた。

問題はなさそうだ。

私は男性に向けて精一杯の笑顔を向ける。


「うん、このお部屋好き!」

「気に入ってくれてよかった。じゃあお手伝いは明日からでいいから今日はゆっくり休んでね」

「ありがとう!」


扉が閉まったのを確認してからため息を吐く。



「何度見てもお前の演技は面白いな」

「馬鹿言わないで。この演技のおかげで情を誘えて宿代も浮いたのよ」

「それを差し引いても、あんな無知な子どもを演ずるなんて」

「背が低いせいで実年齢よりも幼く見られるの。むしろ運が良かったわ」


猫は私の影からずるりと出てきた。

毛を逆撫でされるような不快感に身を震わせる。


「あの祖国でも何でもない国の内乱を起こしたきっかけを作ったのは他でもないお前だというのによくもまぁ、あんな嘘を平気でつけるものだ」

「…褒め言葉として受け取っておくわ」


ベッドに仰向けに倒れれば、部屋を散策していた猫が不思議そうな顔をする。


「おや、もう寝るのか?」

「うん。今寝ておかないと夜に起きていられないでしょ?夜が本番なんだから」

「夜が本番とは。まるで我々のようなことを言う」

「化け猫と一緒にしないで。おやすみ」


本格的に寝る準備をすれば、猫もベッドに乗ってきて丸くなった。

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