第7話 七度目の正直

「結局青髭の旦那はどう思ってるのよ」

昼間から回転寿司店のカウンターでビールをあおる男が二人。一人はロビンでビールジャッキ一杯を一気飲みすると次のビールを頼んでいる。

「どう、と言われてもな。私はあくまでお前がいう青髭だ。元があろうと私は私だ。……日本のビールは泡が多くないか?」

「日本人は泡も含めてビールを楽しむんだよ、そこは慣れな。なんだっけな、郷に入れば郷に従えだったか。まあそういうワケなんで」

ロビンはまた一口ビールを口にする。口の周りに泡が付いているのを見つつ青髭の旦那と呼ばれた人物もビールを飲み、口髭を泡まみれにした。


この青髭の旦那と呼ばれる男はヨーロッパ各地に伝わる、シャルル・ペローが執筆した童話青髭に出てくる青髭その人だ。

青髭のモデルとなったとされる実在の人物がいる。聖女ジャンヌ・ダルクの戦友であったジル・ド・レとイングランド王のヘンリー8世である。青髭の物語からモデルはジル・ド・レであるという声が多いが、それははっきりとはしていない。



「かっぱとは日本の伝説の生き物と聞いていたが、まさかこんなに簡単に食べられるとは……」

しみじみとかっぱ巻きを食べながら使われきったボケを素直に繰り出す青髭にロビンはびっくりした。

「そうきたか……青髭の旦那、実は純粋……」

「イングランドでは妻を惨殺する男を純粋というのか」

「俺が間違えてたわ」

期間限定の蟹握りを頬張りながらロビンは眉間に皺を寄せて自分の言葉を撤回した。

「そもそもだ。私のモデルがジル・ド・レであろうがヘンリー8世であろうが何だというのだ。私の物語が変わるわけではあるまいに」

たまごを食べながら青髭が言う。

「そんなに強気で言わなくてもよくない?ただ俺は純粋に気になっただけで。あ、マグロ頼むか」

現代機器である端末をロビンは器用に操り寿司を頼んでいく。

「確かに黒魔術という点ではジル・ド・レと同じと感じるものはあるだろう。ただ、それだけだ。作者はいようと私は私の意思で行ったと言える」

「そこに懺悔や後悔の念は」

「無いな。あったらやっておらん」

「あははーあったらできないわな、あんな所業」

届いたマグロを頬張りながら、最早笑うことしかできなくなったロビンは笑う。その隣でハンバーグ寿司という回転寿司にしかない変わり種を食べる青髭。

彼らの近くで業務を行っている店員は彼らの話していることも気になっていたが、何より青髭の寿司のチョイスが気になって仕方なかった。見た目は渋いイケおじなのにチョイスがどうみても子ども。

「なんなのこの客……!」

店員は新たな扉を開こうとしていた。


「でも私はここに来て良かったと思うぞ」

「へえ、それは何で?」

「それはほれ、そこの窓の外を見るが良い」

「あー……なるほどねえ」

ロビンが青髭に示された窓を見ると、こわい顔をした美女、いや美少女がこちらを見ていた。ロビンがおもむろに手を振ると美少女は走ってしまい窓から見えなくなった。そして彼らが食事を楽しむ回転寿司店の出入り口から声が聞こえてきた。

「あなた、こんなところにいらっしゃったの?!こんな時間からお酒など飲んで……今晩はお酒抜きです!ロビン様もですよ!」

「ええ、俺まで?セーパちゃんそりゃないよ」

「旦那様をこんな時間からお酒に誘った罰です!」

「すまない、セーパ」

「あなたは悪くないですわ……いえ、この時間からお酒を飲んだのは悪いことでした。あとできちんと懺悔するのですよ」

「わかった」

「それで良いのです!ではロビン様、ここのお会計はお任せしましたわ。あなた、少しお散歩してから帰りましょう。ここの道は綺麗で歩いているだけで楽しいのです」

もうロビンはおろか周りなど見えなくなった二人に無駄と思いつつ、ロビンは了解と手を振って送り出す。



セーパは青髭に出てくる七人目の花嫁本人だ。童話だと開けてはいけない扉を開け、青髭に閉じ込められ今までの花嫁に続く身であった。はずだがそうはならなかったのはこの世界に来たからだった。

その過程を見ていた一人であるロビンはこう思っている。日本のサブカルチャー、ヤバイ。


まずこの二人が来た時の童話の時間軸はセーパが閉じ込められたところであった。そこで青髭と共にこの世界に来たのである。

そして出会ったハーツに青髭はまず懲らしめられた。それはもうコテンパンであった。そしてボロボロになった彼にマーリンが日本のサブカルチャーを進めたのだ。マーリンからすればおもしろ九割同情一割の完全に面白半分の行動だった。

その間セーパは女性住人たちに慰められたり鍛えてもらったりと至れり尽くせりであった。

セーパがセラピーを受けている間、青髭はひたすらサブカルチャーに触れていた。そしてあらゆる扉を開きあらゆる世界を知った。


暫く、青髭からセーパに会いたいという申し出があった。セーパはそれを受け入れたが条件を付けた。二人きりでは会わない。それにより、二人はハーツとマーリンその他興味がある面々が集う場で会うことになった。


セーパの緊張にリレが気を利かせてホットココアを持ってきたりしていたところに青髭はやってきた。

その威厳ある風貌にリレは怯えたし、セーパの震えも酷くなった。これは止めるべきかと何人かが判断しようとしたところで、青髭がセーパに跪いた。

「セーパ、私を許してほしい」

そう言うとポンッという音と共に花束を出してみせた。

何人かは思った。これ、某名作怪盗映画で観たな……。

そこからはもう青髭の独壇場。どこかで聞いた懺悔から始まり、どこかで聞いた甘ったるい言葉でひたすら責める。


途中からブラックコーヒーを飲んでいたロビンは思っていた。

これ、俺大体知ってるわ。日本のアニメ映画や漫画で知ってる。すごく知ってる。

そう砂糖を吐きそうになっていると肉食女子と化した清姫もうんうんと頷いていた。周りを見てみると他にも何人か砂糖を吐きそうになったりしていて、ロビンは察した。

わかっていないものも最初はキラキラと二人を見ていたが、そのうちそれはドン引きに変わっていった。


「私の罪は消えない。だが私と共に歩んでくれないだろうか?」

何事にも終わりがある。言いたいことを言い尽くしたのであろう青髭はそう締めくくり、セーパに問いかけた。


これにおちる女いるの?

てか帰りたい。自室戻りたい。

これ、頭っから否定されて青髭の旦那トチ狂うやつだろ。

肉体言語得意なやつの出番だな。


シンと静まり返る部屋。次に聞こえる音に皆集中していた。


「す」

す?聞こえてきたのは女の子の声。

「素敵です!ここまで私のことを考え改めてくださるなんて……私で良ければぜひ!」

「セーパ……!」

抱き合う青髭とセーパに周りはついていけなかった。


「はああああ?!」

「砂糖吐きそう。この馬鹿どもに砂糖吐きたい」

「そうだね、俺たちどっか狂ってるよね知ってたよ!」

「黙るが良い!これは二人の問題。お互いが納得して良しとしたならそれで良いだろう。他のものが口に出すことではないぞ。しかし迷惑をかけたのは確かなのだからそこはしっかり謝罪をするが良い」

収拾がつかなくなった場を収めたのはハーツであった。

青髭とセーパはそこで二人揃って謝ると、それからは仲良し夫婦として知られるようになった。かなりセーパの尻に敷かれているが、青髭が気にしていないので誰もツッコまない。



ちなみにセーパ14歳。青髭30歳。

仲良し歳の差二次元大好き夫婦である。


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現代御伽ふぁんたじあ 永遠 @WhichTowa

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