キャラクターその③『のんびりした切れ者おっさん』

「日頃の言動や行動だけで人を判断してはいけません……」


 天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。


「……人の心や知性というものは、巧妙に隠れている、隠されていることも多いのです」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。


「ひねくれた知性の持ち主というのは、無能者や道化を演じながら、いつも鋭くあなたを観察し、弱みを探っているのですよ」


 確かにうわべだけで人を判断することはできない。

 それは分かっているつもりでも、つい忘れてしまうものだ。

 明るくふるまう人が実は暗い心を持っている、暗い人の中身が実は明るい心にあふれている。


 外面に惑わされることなく、その人の本質を見極める。

 これもまた回収人にとっては大事な資質なのだろう。


 しかし。これから取立にいく顧客もそうなのだろうか? 

 いつもぼんやりとした雰囲気の、くたびれきって何事にも適当な中年男性なのだ。

 とてもなんか隠しているようには見えない能天気な人なのだ。

   

 はたして今回のアドバイスは役に立つんだろうか?

 さすがに考えすぎのような気がするのだ、彼に関しては。

 いつでも適当にはぐらかされるばかりで、なんだか一生懸命になっている自分がむなしくなるのだ。


 多分、今回もそんなことになる気がしてならない。


 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。



 →→→ コメント欄へ続く!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る