キャラクターその②『やたらドラマチックなお婆さん』

「お客様にだっていろいろな事情がありますからね……」


 天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。


「……大事なことは彼らの声に真摯に耳を傾けること」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。


「そして右から左に聞き流してください。同情は心を抉る鋭利な刃物、引きずり込まれると抜け出せなくなりますよ」


 同情。この商売の大敵は確かにそれだ。

 ある時は涙を浮かべ、ある時は袖に縋りつき、自分がいかに大変なのかを訴えてくる。 

 それは悪魔のささやきも似て、巧みに私の心の中に入り込み、ともすれば涙を誘ってくる。


「いいんです。そういうことなら返済を待ちましょう、ええ、大丈夫ですよ」

 なんて言いたくもなってくる。


 だがそんな時に限って、見てしまうのだ。

 にやりとした狡猾な笑みを。唇からチロリと除く蛇の舌先を。

 

 特に今回は気を付けないといけない。

 今回のお客様はお婆さん。

 巧みな話術と迫真の演技で、いつの間にか自分の劇場に引きずりこむモンスター……もといお客様なのだ。

 手の内が分かっていてもなお、気づくと彼女に同情してしまいそうになる。

 

 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。


 →→→ コメント欄へ続く!

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