第19話

 イジュンとスンアとハジュンを宇宙に飛ばして、ついに国には平穏が訪れました。

 しかし、女帝はまだ戴冠式を終えていないので正式ではありません。ただ、国としての業務が大量にあり、しばらくそれに明け暮れる日々となります。

 そもそも旧女帝エリザは全く政治にも経済にも関与せず、貴族の隆昌だけを行い、前皇帝イジュンは期間が短いので、ほとんどの改革が発表後の準備段階のままだったため、結果的に二代皇帝によって何もかもずさんな状態。もっと早くから私が多くのことに絡んでいれば・・・今更ながらずっと耐え続ける日々を後悔する。とはいえ、私はもう女帝。何にも縛られなくなった。クーデター成功後は、一切休みなく、すべてのことに責任をもつことにした。報告書、陳情書、国庫の会計報告、外交書簡、ありとあらゆるものに必ず私の目を通し、許可するものはサインすることとした。当然、会議にはどんな小さなものでも出席をした。被ったとしても、ソアのコピーが内蔵した人形を出席させて、その記録を確認しているからまず、抜けはないはずである。あったら秘密裏だから私の怒りに触れてもらうことにしている。

 そうやって、女帝としての新たな生活が始まったわけだが、まだ地盤が安定したわけではない。そもそも私はキョウルナラ人ではないのだ。ひたすらにキョウルナラ人であろうと努力を惜しまなかったが、他の人々にとっては「赤の他人」という価値観は拭いきれていないはずである。ソアにも相談をしながら、多くのことを決めていった。

 まず、政治家は全員留任。ここで新たな火種を作ってもしょうがないし、実際クーデターは政治家全員が目論見はどうあれ賛成していたことでもある。昇給についても全員平等に、だ。これらはソアの案である。私は、「なぜ?」と疑問だが、後に理由が明らかになった。

 この発表後すぐに、ソジュンから不満が上がったのである。命がけでクーデターに協力したのだから文句を言うのは理解できる。だからそういうことも考慮して、ソアの提案のようにはせず、人に応じて昇給すべきだと思ったのだ。ソアは『自分からは絶対にその要求を飲まないこと。うまく相手側が欲しているものを答えさせるようにして』とのこと。

 「あなたには、私の協力者として、宮殿を与え、年俸も貴族の中で最高の額としたのにまだ求めると言うのですか?」

 「当然ですよ。あなたはすでに夫がいないのですから。結婚したいのです!!」

 さすがは、ガタイと真っ直ぐな心が取り柄のソジュンである。私は、心を打たれて「では、そうしましょうか」と言いかけた時に、『いや、イジュンたちは火星にいるでしょ。いなくなったことにしたら国民に示しがつかないよ』とソアがブレーキを踏んでくれた。そう、私はもう女帝なので。節操をなくしてはいけないのである。

 私は、心を鬼にしてそのことを伝えると

 「それでは、女帝に最も近い存在である証をいただきたい」

 ここで、ソアの狙いが理解できた。女帝からご褒美を与え続けても人々は満足しないのだ。あくまで自分が望むものを意見できるように人々が成長しなければならない。そうしないと、歯止めも効かなくなってしまう。

 私は彼が求めた証の表現として最も高貴な「伯爵」の位とダイヤモンドで飾ったハート型のメダルに私の肖像を入れて、胸に飾ることを許可した。

 ソジュンだけでなく、スホからも要求があった。彼の場合は、キョウルナラに帰りたい、とのこと。

 ただ、これはオース国のトップとなり、最終的にキョウルナラの支配下におくという重大なミッションの真っ最中だったので、週1回は報告がなくても帰ってきていいよ、ということにした。・・・頑張ってね、スホ。

 私の教育での弟子の一人、というかクーデター計画のために余計な提案ばかりしていたダーコに関しては一切の相談なく、6件ほど陰謀に加担した。ソアもこれには『まあ、女性脳ってそうだよね、うん』と訳分からないエラーを吐く。いや、もう人間としての問題でしょ。彼女の旦那は侍従の責任者、彼女自身も女官の責任者とした。その代わり、その下には元々の責任者に「ちゃんと見張ってください」と頭を下げて、役職も失ったのに実質的に責任対応をしてもらうことにした。「陛下、頭を下げないでください!」とおっしゃってくれただけ、まだ救いがある。

 1週間したらすぐに戴冠式を行う声明を出した。さすがに詳しい日程までは後日だが、世界最大級のものを行うと豪語した。

 諸外国は一旦全部敵対関係を辞める一文を送った。私は敵国については、現状維持で戦争は続行すべきでは? とソアに伝えたが、『地盤を確かにするために今はどこの国とも戦争しないで軍隊を集結させた方がいいよ。全国民に戴冠式で立派な姿を見せよう』という。その後加えて、『それにもう人と人とで争う必要はないよ。私達には人形があるじゃない』とも。軍の人々の処遇はどうするかは別にすれば、確かに一理あった。私もあまり血が流れてほしくはない。

 聖職者については、財産没収はなかったことにした。ただ、今後はソアの以前言った通り、改革としてはお金を少しでも回収しないとならないので、何かしらの規制はどこかで行うと決めた。

 財政状況をソアに伝えたら一言。

「こりゃ、破産国家だわ」

 それでも優しいソア。解決策を導くために色々独り言を言い出す。

 「この国は銀行も財務省も金融庁まであるにはあるけど、貴族で使うだけのもの。お金も下々に回ってないから、物々交換が主流だし。・・・ほんと私が起動するまでの間に地球上では何が起こったのかな」

 実際、この独り言が1日続き、私はちょっとイライラしつつも業務を片付けていた。集中しないといけないし、聞きたいことは他にもあるからソアのコピーに一旦任せてほしんだけどなぁ。

 そして、私が就寝前、というよりは多忙すぎて最近はベットにダイブで死んだように寝るので死のうとした直前に。

 「うん、これしかない」

 急に結論付けた。朝起きてからにする? と気を使われたが、明日は明日で忙しいので眠気を我慢してすべての結論を聞いた。

 そして、私はソアの提案にのり、一つの賭けに出ることにした。それは、とにかく必要なものが出てきたらお金を印刷することにしたのである。ありとあらゆる細かいものに値段を定める勅令の上で。印刷の方法は、最初に修理し、作った印刷機を大量生産して行った。新しい建物を立てるにしろ、ロストテクノロジーの発見のための旅費用にしろ、客をもてなす支出にしろ、資料、材料、水、食料、とにかくありとあらゆるもので必要なものが出てきたらお金を刷りまくった。国民もお金がないから、物を買うにあたって必要なものを提出してもらい、それの必要分のお金を無償で刷って渡した。

 ソアは「普通ならインフレと倒産で国が壊滅するやり方だけど。でも、正直、国民にお金が全くないわけだから、まずは、全ての価値のラインを国民に理解させて、金銭で取引できるようにするためにお金を流通させる。ある程度安定してきたら、税をもって回収しよう」と説明された。

 結果は成功してしまった。このやり方はソアの時代ならお金は「金」という物質に関する信頼だから、路頭に迷う人が続出する愚の骨頂のようなやり方だったそうだ。ただ、もう「金」なんてものは一部の高貴な人を除けば価値なんて一ミリもない。人々にとって、もっと重要なのは、帝の「精神」の信頼なのである。私は、この国のすべてを支えることを全権で託され、それに答えようとしている。だから、国民は、その「精神」を信頼し、政作の一部として、お金を定着させることに成功したのだ。その証拠として、材質は全くバラバラでお札をすることに対応されるほどだ。

 そう、材質がバラバラでもだ。私の手元には何枚か動物の革で作られた皮幣が流れてきてる・・・材質の統一と税の詳細は安定したら考えよう、うん。

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