第14話

エリスは今回の私の作戦では難しいと判断し、「好機を待つしかない」と諦め、皇后の勲章をスンアに渡した。正直、ゲームのルート通りではあるが、あくまで「女帝」となるエリスにとって皇后の称号は必要ではない。あの、腹立つ糞女に権利を渡すのが尺に触るだけだ! ただ、この行動は民衆から涙をもらうことに成功している。すでに印刷業者もエリス側についている。・・・お金をつぎ込んだだけでなく、イジュン側にとって都合のいい情報が出るときには壊れるようにしているしね。(ついでに、エリス側の記事を書き出すと決めたときには勝手に直る超便利機能)

 ちなみにソジュンとの間の子供も、無事に誕生した。それをエリスに報告すると、「アザラシの皮に巻いて、親戚の女性に育てることをお願いして」とのこと。男の子だから皇位継承としては申し分ないだろうけど、まだ目の前の問題が解決してない、ということなんだろうな。彼女は今度は生まれた子どもをわずかに垣間見ることなく、終わってしまったのである。

 その後もゲームの設定上通り、スンアによる仕打ちが繰り返される。徹底的にエリスを幽閉し、イジュンの必ず側にいて、酒に溺れる様を貴族に映し続ける。ゲームだとうまくいくでしょうが、リアルでそんな様では革命が起きることが彼女には理解できないのだろうな、と監視カメラの映像で理解する。と思えば、人々の前でエリスが醜態を晒すことを目的として盃の場に出席させたりもする。皇族を祝う会で来客は一斉に立ち上がる。しかし、エリスは立たない。私だって座ったままを指示する。そうすれば、「なぜ立ち上がらないのか聞いてこい!」という命令に従い、ウヌが聞きに行く。エリスは「自分は他ならぬ皇族の一人なのだから立ち上がる必要はありません」と答えた。その返答を伝えに行くと、イジュンが直接大声で「馬鹿者! 皇族は我とその血筋のものだけだ!!」と怒鳴り散らすのである。スンアは座りながら、くすくす笑う。こんなことが毎日のように繰り返される。ただ、この侮辱は周りからの親愛の情を寄せ集めていることに二人は気づかないのである。

 ウヌは、女帝死後以降も今までの協力に加え、裏で政治的協力をしてもらう様お願いした。エリスの思想を伝えると瞬く間に協力してくれた。そもそも彼は旧女帝エリザが政治を放棄してから必死に政治を代理で受け持っていた人物である。その手腕はイジュンにも伝わっていたのかそのまま立場は維持されたので、その立場を利用してもらって多くのことを早い段階で改革してもらった・・・顰蹙買うけど、必要な改革ぜんぶ、をね。

 イジュンとスンアの行いが裏目に出て、エリスの株が上がり続けている中で、段々ときな臭い方向で話が進み始めている。次々と、「エリスと関わった」というだけで、多くの人が捕らえられ出したのだ。今のところ盃や宴、ダンスパーティーで踊った、という関係ない人物だけだったがその中で、「エリスを幽閉する!」という情報をイジュンが周りに言いだしたことをウヌから聞いた。

 急いで、エリスに報告すると「もっとも効率の良いクーデターのチャンスはいつですか?」と聞かれた。「エリス個人の場所はウヌの一言で自由にできる。後はデイ国に向けた戦争のときに都市を離れるか、だけだよ」。正直、このまま待ち続けても大砲ブッパの前に牢獄の可能性のほうが出てくる。そして、ゲームでは日程等の記載がないうえ、わかってるトリガーは「クーデターに失敗するのは砲撃を打たれるから」なのだ。クーデターを起こすタイミングまではわからないのである。一か八かにかける日は近づいている。

 ウヌには「エリスをデイ国の軍事演習の近くの屋敷に幽閉させるようにして。軍事演習の日程は問わないけど、必ず幽閉の日はその前日であり、軍事演習は必ずイジュンが出るようにして」とお願いした。ウヌがちゃんと伝えるか、監視カメラに忍び込みチェックする。

 「皇帝、デイ国との戦いに向けて、いつ軍事演習をなさいますか?」

 その言葉を聞いて、イジュンは大喜びしている。

 「いままで、渋っていたあなたがついに私の考えを理解したのか!」

 そのまま、軍事演習の日取りが進んでいき、その日はイジュンも出席し、様子を見ることとなった。しかし、問題はエリスのことだった。

 「エリスは私が都市を離れる間、サードンに幽閉する」

 サードン。前前皇帝ハジュンが幽閉されている場所だ。それはもう極寒の地にして何も生まれない場所。そして、都市からも圧倒的に遠い。そんなところに幽閉されたら、まず脱出不可能で情報は伝わらず、永遠に牢獄暮らしだ。

 ウヌはそんな極端な措置は思いとどまるようにと伝える。

 「そんなことをしたら、軍隊と貴族の一部が黙っているわけがない。間違いなく波乱が起きます」

 ウヌはどうにかこうにか説得してくれたようで結果は軍事演習近くにある館、モンジール館に滞在させることで話がまとまった。

 エリスのモンジール館の移動は軍事演習前々日の午後に行われることとなった。エリスには『準備のための条件を整えてきたよ』と伝えた。ただ、周りは罠なのでは? と疑問に持つ。それでもエリスは私を信じて移動をしてくれたのである。私の方はいつでも動けるようにAIを通して全ての物を最終チェックしている。

 モンジール館には5時間後到着し、手紙を持って到着の報せが届いたので実質1日を要した。それを聞いたイジュンは計画通りと軍事演習の会場へと出発をしたのである。しかし、それと同時に、「ウヌ、君は捕らえさせてもらう。なぜ、エリスを近くにおいたのか後でちゃんと説明してもらうよ」の一言でウヌが捕らえられてしまったのである。

これですべて話されてしまえば、いよいよエリスの命が危ない。ウヌが捕まった情報をAI搭載の秘密の機器を使用し、買収した軍隊の隊長に報告し、「即座に準備するように」と伝えた。彼らの反応は「ついに来た!」と歓喜を現している。私自身も機械兵たちに都市に潜伏するよう命じた。今は皇帝不在。しかも警察は、一人を捕まえるのにほぼ全勢力をもって動くため、ほとんどがウヌの話題で持ちきりのため手薄となった。(ひとり捕まえるのに本当におおげさな国だよな)。印刷業者にも情報を伝え、ただちにイジュン皇帝の廃位とエリスの即位を布告するように指示を出すよう使者を送って、印刷させた。全員ビビいてしまったようだったが、「もう知りすぎているほど知っているんだろ! 君の命も僕の命もこのクーデターに賭けるしかないのだ!」と使者からは激励を送られ、奮い立って対応してくれた。対応しないなら印刷機械壊すつもりだったけどこれなら大丈夫そうだ。ただ、エリスへの直接の報告についてはこれ以外に武器の手入れなどもあって、私だけでは無理なためにいつも通りの時間でソジュンが伝えるようにお願いした。

 いよいよ戦いの時がきたのである。

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