第11話

 「故郷に帰りたい要望」を示す大芝居後のエリスは社交場には堂々と出席し、多くの情報を得るようになった。私も晴れやかな気持ちでダンスに臨めたりする。そこで得られる情報はロジャ王国との一進一退の戦況状況。そして、イジュンの評判である。形はどうあれ、血族上どうしてもイジュンが皇帝になるにふさわしいと考えている。しかし、蓋を開ければ、軍の指揮を間接的に低めているのが彼という事実なのだそうだ。情報漏洩のルートは、ロジャ国王に内通を送っていることも判明した。そのため作戦はことごとく失敗しており、オース国になんとか補ってもらって戦況のバランスが崩れないようにしているのである。この情報は軍のトップには伝わっているため大層、腹を立てているようである。・・・エリスが対応しなかった下手するとキョウルナラ国が滅ぶやん。

 そんな情報を手に入れた後、エリスはある企みを私に相談した。

 「ローフ4兄弟を仲間にできないかしら」

 ローフとは、初代皇帝に反旗を翻した際に、捕まり死刑になる予定だった家系である。ところが、仲間の血だらけの首を平然と足で押しのけて首斬台に進んだ姿が初代皇帝に気に入られ、特赦を与えられた。それ以降、その家系は皇帝に忠誠を誓い、将校に上り詰める者が生まれるほど軍人として貢献してきた家系である。その現在の子孫達がローフ4兄弟。彼らは硬い結束で結ばれた兄弟として有名でキョウルナラ国のため、そして一族の繁栄のために兄弟の誰かが恩籠にあずかれば、誇りに思い、互いに称え、助け合っている。

 確かに味方に出来ればこれでもないくらいの戦力ではある。なにせ、兄弟はそれぞれに軍隊のリーダーをしているし、軍での信頼も厚い。とはいえ、いくら皇太子がキョウルナラ国に反旗を翻すような行為をし、軍から顰蹙を買う行為をしていることを踏まえても、うまくいくものだろうか。

 エリスに依頼を受けて、機械人形で軍事演習に行く。その際は、ウヌも共に来てくれた。もうこの頃は女帝が自ら何かを見にいくことは困難になってきているため、ウヌが代わりに見に来るようにしていた。ウヌには私のことは「現在開発中の新しい高度機械です。女帝陛下と皇太子妃、そしてソユルによって開発されました。本日は今後の開発に活かすため軍事演習などの様子を記録に取ろうと思い、連れてきました」と紹介してくれた。私はそれに続いて「よろしくお願いします」と恐らく、エリスよりも上手に母国語で挨拶をした。

 さて、軍事演習は前座で実際はローフ4兄弟をどうやって懐中させるか、なわけだがせっかくなので軍事演習を真面目に見ることにした。長男シウの部隊は切り込み隊長。生真面目な部隊であり、徹底的に門を破壊したりする訓練を行っている。次男ソジュンの部隊は銃撃隊であり、火薬の管理や銃の射撃訓練を行っている。みんな命中率がいい。三男ジホは海軍隊であり、艦の整備や海での軍事演習、非常事態対応など多岐にわたっている。四男イェジュンはなんと潜水部隊(何故に飛行技術が衰退して、潜水技術が残ったのか分からないが)。物静かに対応しながら、潜水艦での訓練を行っている。

 ありがたいことに、機械の内容の説明などもしてくれたのと武器全てにAI[の残滓が確認できたので、コピーを忍ばせることができたのはまず最低限の良い収穫だ。後は、エリスと接触する方法を模索する。ウヌから4人の情報を教えてもらうと、4兄弟の中で、よく話題に上がるのは次男と三男だそうだ。次男は女癖が悪く、三男は頭がいい。しかし、喧嘩早い性格だそう。・・・接触させたくないな、エリスと。一通り演習が終わり、最後の挨拶のところで次男がウヌに声をかけた。

 「この女性は本当に人形なのですか。本当に素晴らしく美しく、ぜひとも一体ほしいのですが?」

 こいつ、私に欲情したのか? ただ、これはチャンスだ。まとめて兄弟を食事に誘える可能性ができた。ウヌに小声で対応をお願いする。

「興味をお持ちいただき、何よりです。ぜひともこの後食事を一緒になりましてさらに親交を深めませんか?」

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 「で、今夜夕食ができると?」

 ソアはすごく嬉しそうに私に報告をしてくれている。ローフ4兄弟が教鞭となって、皇太子妃に軍事について教える会とすれば何ら問題なく部屋が用意された。皇太子が軍に好かれてないのと、女帝がもうあまり関与しなくなったのが幸いしたのだろう。

 早速、部屋までの廊下では、女中たちがチラチラ羨ましそうに、そして妬ましそうにまさに悪役令嬢のごとく、見ている。ローフ4兄弟は全員イケメンであり、特に次男の女癖の悪さの内容は直接の上司の妻を寝取ってそのまま愛人にしてしまった、ということでその勇気を称えて英雄視されている。この国の感性はやっぱり理解できない。

 「皇太子妃に直接お目にかかれて光栄です」

 部屋に入るなり、4人が全員立ち上がって挨拶をする。うわ、イケメン達にこれされたら確かに経歴無視して惚れるかもな。

 ただ、会話的には退屈だったように感じる。そもそも大公の兵隊ごっこに無理矢理つきあわされて軍事的な作戦にはあまり興味を示せなくなったからである。とはいえ、ソアは軍事的な能力や扱い、作戦等は重要なデータになることも理解しているのでデータを入手するのに必死になっている。私の役割は軍側に大きな味方をつけることこそが今回の目的である。しっかりとつまらなそうな顔は一度もせずに真剣な眼差しとビジネス顔で聞いていた。そして同時にこちら側の機械系の情報は一切出さないようにも成功した。バイタルチェックをしたら、4人全員がエリスに惚れているのである。私の機械人形の姿なども忘れて。とはいえ友だちである私も含めてエリスそのものの顔は喋らずとも美人、喋れば聡明なさらなる美人、なのである。だからこそ、周りの貴族女からは嫌われる。

 4人の男の必死な自己アピールがある程度済んだところで本題に入ることとした。あえて、ドストレートに。

 「あなた方は、次期は大公に従いますか? それとも私に従いますか?」

 その言葉に一番賢い三男が「当然、ロジャ王国に堕ちているイジュン様より、キョウルナラ国を第一に考えるエリス様に従いますよ」と答え、それに倣い、3人も忠誠を誓った。

 あっさり、ローフ兄弟を陥落させたのである。

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 その日の夜、恐らく次男が夜這いに来るだろうと想定し、機械人形の状態で待機した。同時にエリスも起きている。

 「前と同じ算段で子供を作るのね」

 ただ今回は前回とちょっと事情が異なる。前回までは跡継ぎの都合上があるため妊娠しなければならず、また子供を産まなければならなかった。結果として一人は女の子だからもう一人産めれば理想的なためソジュンとの間の子どもを造ってもいいが、今回はイジュンが浮気をしており、エリスまで浮気をしているとなると世論の評価を落としかねない。

 今回、妊娠の必要性等、一切ないのである。エリスは「一度は快楽くらい体験したいものだけど」と言っているが、こんな危険な国でリスクおって子どもを腹から産もうとか、死に急ぐようなものだ。せっかく、完全体外受精で赤ちゃんを創れる施設が宮廷地下で発見されたのだから安全に繁栄を行っていくべきだ。

 エリスは納得しつつも寂しい思いをしている中で、部屋の扉が静かに開く。やはり、次男のソジュンが現れた。ただ、警戒反応でもう一人いる。三男ジホか。

 「エリス様、起きておりましたか・・・うわ!」

 ソジュンに挨拶を許さず、即座に人形で捕らえる。それと同時に部屋外で控えていたジホも入ってきたが、胴のあたりに収納された鎖を開放して縛り上げた。

 「なっ、夜這いは許さぬということか」

 三男ジホが縛られながら言う。

 「すみませんね。もうすでに跡継ぎはできているので今ここで妊娠してしまうとクーデターのタイミングを逃してしまうかもしれませんので」

 エリスはベットの上で謝罪する。

 「しかし、この人形は強い! 確かに欲望に溺れるよりも興味をもてる面白いものだ、軍の兵器としても実装予定なのでしょう? 次期女帝」

 ソジュンは抑えを開放しようと抵抗を試みたが、無理と悟り、むしろ私たちにとって有意義な話を持ちかける。

 「そのとおりです。私が革命で勝利した折には、軍人たちとともに戦ってくれる良きパートナーとなるでしょう」

 それを聞いて、次男と三男は「なるほど、あなたに従わなければ間違いなくローフ家は壊滅ですな」とつぶやいた。

 「ただ、私との契約の証としてミルクは頂きます。それがあれば、妊娠せずに子どもを作れるので」

 今回は次男だけ、私が付け足してお願いした。二人は目をまんまるにしているが、私は抑えているソジュンに対して、ミルクの出るツボを強制的に刺激して、試験管に即座に回収した。一瞬で果てたソジュンを持ち上げ部屋の外に出す、ついでに鎖で繋がれたジホも外に。

 「そ、それは神の冒涜では?」

 とジホは聞いてきたが、エリスがそこで一言。

 「歴史を知る努力をしなさい。ロストテクノロジーで今の私たちがいるために使われていたシステムを再利用してるまでよ。もし、今の神が許さないというのなら、なぜ許さなくなったのか探るべきです。」

 その言葉を聞いた二人は「悪魔と契約してしまったかもしれない」と笑っているのであった。

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