第10話
そして、弾劾裁判で約束された2度目の話し合いが行われようとした。待っている間は「初めて」子どもたちと面会をした。乳母や女家庭教師が見張るなかで全く母性が出てこないことにエリスは諦観をしている。正直、子どもに全く興味が湧かないのも無理がない。そもそも自身の身分を守るために戦略的に造った子どもなのだから。実際、私の世界でも子供は生まれた時から適職があれば、それ専用のプログラムの人生を歩むことになっており、実際の親と一度も会話をしない子だっている。それと同時に子供を全く育てない親もいる。なので、いくら未来で17世紀くらいまでレベルが落ちたとしても、同じようなやり方で子どもを作ったのだから、母としての愛情など生まれるわけがないのである。
『私も子どもがいたけど特に母特有の愛情とかはなかったから、あまり気にするものじゃないよ』とエリスを励ました。
しばらくして、女帝が現れると、子ども、乳母、家庭教師が全て廊下に出る。今回こそ、本当の1対1の会合である。
「今回は表立てを一切しないと約束するから真実だけ答えて」
仕事上の言葉使いではない。ただ、弾劾裁判以降私は緊急用のシステムは解いていないのもまた事実である。
「まず、イジュンとはいつ夫婦関係が破綻したの?」
「明確な破綻は長男の妊娠前です」
「その前からも仲が悪かったの?」
「大公は何も考えてなかったと思いますが、私は夜中に彼の兵隊遊びに明け方まで付き合わされて頭がおかしくなりそうでした」
もう、わずか4つの対話だけで女帝は頭を抱えている。ただ、質問は続いた。
「長男、長女はともにイジュンの子なの?」
「いいえ、長男はスター、長女はスホの子です」
正確には産んでさえないけどね。流石にそこまでいうのはまずいので避けていた。
「二人とは今も関係が続いている?」
「いいえ、全く。スターの行方はわからないですし、スホはオース国の外交官としての責務に戻って以降、やり取りはありません」
そこで、女帝は少しホッとした。浮気は・・・というかこの女帝は政治を放棄して男遊びに夢中でしたもんね。お咎めはできない。
「実際、現在のロジャ王国との戦いで、オース国が同盟を結ぶようになったのはあなたの仕業?」
「はい、であり、いいえでもあります。私はオース国の社会啓蒙を謳う方の本に感銘を受けてファンレターを書きました。それをウヌが手紙を検閲に通さずに送り、その方がオース国の重要な立場の人と知りました。そのため、社会啓蒙の同士として協力してくれる趣旨が返信され、それをウヌが利用して同盟を結び、ロジャ王国と戦うようにした、というのが顛末です。ちなみに、弾劾裁判の時の手紙について、私は全く知る由もありません」
これが真実なのだからしょうがないのである。スホとの手紙のやり取りの手順としてお互いに考えついた結論だ。実際、それで同盟を組むことに成功したのである。女帝はすでに蚊帳の外に置かれているが、現状ロジャ王国との戦況は有利ではある。が、キョウルナラ国の作戦は失敗して、オース国の作戦だけ成功し続けて成り立っている節がある。このあたりの現状はバレたらきっと大変だろう。
「ウヌが色々としてたのね。ウヌとあなたの関係は?」
「ウヌは陛下の体調が優れなくなった時、私の様子を見に来るようになりました。そして、大公がロジャ王国側に誠意をあからさまに見せだした頃、そしてスンア様と親しくなりだした頃から本格的に私の自由を少しずつ与えてきました」
女帝の裏切り行為に当たることをウヌはしているのでここで女帝をバイタルチェックするが、平常だった。エリスを疑ってるわけではなく、ウヌはそういう奴だからなぁ、といった感じである。ウヌは女帝どころか旧皇帝時代から政治面の補助をしていたという話を聞いたことがある。それを踏まえると、正しい道にするために行った行為、なのだろうといった風であり、必要悪と判断している。
「スンア、とは何者か分かりますか?」
「いえ、ロジャ王国出身の捕虜から貴族になった家系の嬢以外は特に」
エリスも答えているが、スンアは本当に「ロジャ王国出身の捕虜から貴族」というゲームの設定以上のものがないのである。ロジャ王国のスパイとか普通は疑われる立場。しかしロジャ王国出身の捕虜の時代も初代皇帝以前のもはや「神話」の時代の時らしく、もう今では立派なキョウルナラ国の一貴族なのだ。身分をただ上げたいという欲望のままに行動している。
「そうでしょうね。どうしてイジュンが国を輝かせようと努力する素晴らしき宝石へと成長した妻帯をもっているにも関わらず、ロジャ王国に浸透しているか理解できる?」
これはエリスを貶しているのか褒めているのかよくわからない。エリスも「いえ、彼自身についてはロジャ王国の近くに住んだ過去があるくらいしか」と質問にだけ答えた。
「そうなのよね」
もうこの後からは、質問は一切聞かれずイジュンに対する罵詈雑言がオンパレードに振ってきた。本当ならエリスがやってるもっと秘密のこと、私のAIを駆使して色々屋敷をいじり尽くしていたり、地下で子どもを創ったり、人形を生産したり、ソユルに実家帰って宇宙関係のロストテクノロジー復活させてもらってたり、山ほど常人には理解し難いことを隠れてやってるのにそれが全くバレてない事実を確認する結果となった。
一通り、女帝は愚痴をこぼすと満足したのか「次回もまた、お話しましょう」とおっしゃる。「ええ、ぜひ」とエリスは返して部屋を後にした。
この後、この密談によって何も起こらなかった。ウヌもスホも追放されない。それどころか、エリスはかなり自由となっていて、手紙も外出もやってよいし、頼めば子どもにも会うことが許されるようになったのである。政治や裁判の傍聴も許可されるし、住民の様子を見に行くことも、軍事演習の見学も許可されることとなった。しかもイジュン抜きでも問題なく、である。イジュンはスンアとともに今までやってきたことであるが、急にエリスが多くのことに出席するようになって、二人は対面すると渋った顔をしていた。
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