第5話

病気も無事に完治し、貴族の生活にも慣れてきたところで自分が牢獄にいるのだということに気づく。確かに一通りの行事には参加させていただけているし、外出も許可さえ出れば、ハヤンシジャクから遠くない場所まで行きたい放題である。しかし、舞踏も演劇も食事もそう何回も何回も毎日のように経験すればパターン化して飽きてしまう。社交会での会話だって悪役令嬢扱いだからか、ただの挨拶程度で終わってしまう。ソアは「この人たち、全く知識がない。同じような色恋沙汰しか話してない。だから、エリスを悪役令嬢扱いとか以前の問題よ」という風に厳しく評価している。キョウルナラ国は言っては何だが雪が降れば何もできなくなる田舎である。たまにロストテクノロジーの遺跡を見る目的で出かけるが、どこをいっても田舎の伝風景か屋台しかない有様である。ロストテクノロジーの遺跡はあくまでAI機能が侵入できるほど生きていれば技術を手に入れられるが、下手すると時間の無駄である。それ以外は家庭教師の教育、その後の大公との部屋での軟禁で過ごさせられるだけである。

 そういった日常「しか」体験できない中の唯一の楽しみは読書か、ロストテクノロジーで発見した機械を修理することである。しかし、本は宮殿内に全く用意されてなく、注文してもいつ届くかわからない始末である。機械もソアが監視カメラや盗聴器の残骸がついたままだったのでそれを人の目を盗んで勝手に持ち去り、修理して直す。を繰り返して最初は楽しんだが、それも一通り済んでしまった。遺跡からのものもそう毎回毎回あるわけではない。家庭教師との勉強は新しい世界が広がるのでいつも楽しいが。

 宮殿内では本来、政治、裁判、会議が山のように行われている。しかし、それに参加する権利は皇太子妃期間で一度も許可が降りない誓約で結婚している(一応、商業と医学は専任になれたが)。私の本業は大公と子供を作ること一点であり、そのための豪華な牢屋に現在入れられている。しかし、私は心の準備ができているが、大公の精神年齢が「幼すぎるのである」。私と二人っきりの時そういった雰囲気になることもなく、最近は大公の好きなおもちゃの兵隊で遊び、それに夜中までつきあわされる。ソアのバイタルチェックでさえ

「彼、本当に関心ないよ」、とのこと。心では魅力がないのかと泣いてしまっている状態である。

 そんな退屈で悲しい日々を過ごしていると、ある日二人の青年が、宮廷の庭に現れた。スターとソユル、という私と同じ歳くらいの青年である。スターはいろいろな女性に声をかけまくる女遊び好きな青年で、ソユルは商店街に行って、変なパーツを買ったらそれをいじっている青年である。近くを見回すと特に誰もいない。彼らとは会話しても良さそうだ。

 「私はスターと申します。実は神話時代から国家の危機の際に、その対応を秘匿でする家系の出身でございます。今回はその内容の件でお伺いしました。隣にいるのはソユル。今回の計画を提案してくれた私のパートナーです」

 国家の危機? 計画? ソアも脳内で『?』マークを浮かべている。

 「誰かに聞かれるとよろしくないので。ある場所に案内しますね。大丈夫、脅迫とか閉じ込めるとかそういった事が目的ではないです。私の家系における仕事です」

 警戒はしなくていいということだが、それでも怪しくてしょうがないのである。ただ、普段の退屈な日常のせいで好奇心のほうが勝ってしまい、誘いにのった。

 庭園の噴水の円筒がちょうど屋敷の影で隠れるところをスターが足で踏むと突然、床に空洞の入り口ができた。地下なんてあったんだ、この宮廷。地下はかなり長い階段が続いている。中は暗いため、ソユルが光を照らす。剣の持ち手みたいな形のもので光が出ている。『懐中電灯だね、ソユルさんはきっと他のロストテクノロジーも持っているのかも』とソアが言う。階段を全て降りきり、これまた蝋燭でなく、壁についている変なボタンみたいなのを押すと明かりがつきだした。ソアが『この世界は、どこかに電力があるのか・・・それでもLEDがそんなに老朽化してないのも奇跡』と驚いている。よっぽどすごいテクノロジーなのか。光が照らされ中を見ると、昔の本や絵本なんかで出てくる実験場そっくりの施設が出てきた。

 「すごいでしょ、これ全部ソユルが作ってるんですよ」

 スターは自分のように喜んで言う。ソユルくんは本当にすごいのかもしれない。ソユルくん自身は少し顔を赤らめていた。彼とは、今後も関係を築いていくべきだな。

 「我がスター家は皇帝の後継者がお生まれにならない時に皇帝含め正体を隠して種役を務めることを任された家系なんです。どうしても内容が内容のため、時が来るまで素性を隠しますが。また、家系的に『ストック』があると何かしら便利なためどうしても男癖、女癖を悪く演じて、多くの子孫を残すように教えられてるんです。まことに恥ずかしい限りで。そして、今回ソユル君も私と同じ家系ではあるのですが、かなり遠い親戚でね。それでもロストテクノロジーの扱いに注目されてウヌが特別推薦貴族で採用されたのです。彼は研究と調査を行っていて、ある日宮廷内の現地調査を彼一人でしたところ、ここが見つかりました」

 スターさんは女好きのふりをしていなければならない家系も大変ねぇ。

 「で、この実験場と今回の後継者問題はどう関わってくるのかしら?」

 状況は理解したが、ここが何かが全く理解できないので問うてしまった。

 「ここは赤ちゃん製造所です」

ソユルはここの修理をしながら、この施設に赤ん坊のマークがあったり、ミルクの説明があったことから施設の正体を知ったという。これは、他の人にバレたら大問題になるのでは、と想像し親戚のスターに相談したという。スターは家系上。こういった施設があることを知っていたので、ここを自分たち一族の管理下にすることにしたという。そして、今回は大公とエリスとの間に子どもがいつまで立ってもできないので、そろそろ自分も役割を全うしなければならないと感じていた。そこで、今回は信頼のできない大公(評価下がってるのかあいつ)ではなく、優秀で嫉妬されてる悪役令嬢、皇太子妃に施設を利用して、子どもを作ってもらおう、とソユルと計画したそうだ。これがうまく行けば、今後の家系の発展にもつながるのでスター側はメリットしかない。

 ソアは『施設は始めて見たけどAIも赤ちゃん製造施設である、と結論付けてる。私の時代も子どもは製造機で産むのが普通だったから問題ないよ』、と。エリス箱の言葉を聞いて、安心し、そして自分にある新しいもの好きに火がついて、試してみることにしたのである。

****************************************

「私のミルクの準備はできているのでそれを使用してほしい。女性に失礼を行って申し訳ないが、月の出る日に出たものをそのまま回収して使えば、卵子を自動的に復元して再生する。そして、ミルクにある精子を受精させれば後は、待つだけです」

スターはこれが終われば成果を終えたとして、故郷に帰り、目的を果たしたことをある人に報告すると成果がもらえる、という。この国にはまだ不思議なことが多過ぎて不気味でしかない。ソユルについては、宮殿内にとどまるそうで、さらに出世して色々なところに出かけられるようになるらしい。私は今後のことも考慮して、エリスにはソユルとロストテクノロジーの再興を目指す同盟を結んでもらった。ちなみに新しい重要な情報も教えてくれた。それは『イジュン様は種無し』だ。

 「皇太子妃がご懐妊しました」

 国中では一大ニュースとして盛り上がっている。イジュンは子どもがどうやってできるか本当にわかってないらしく、一緒に祝っている有様である。女帝も大喜びをしてそれを祝福した。・・・お腹にはボールを入れて、ごまかしながら。

 施設の赤ちゃんが完成した頃合いをもって、とはいえだいたい、普通の出産と同じ期間なのだが、ソユルとスターがエリスのもとにそっと赤ちゃんを届け、部屋で助産師無しで産んだことにした。今赤ちゃんを洗ってる、桶の水も赤い液でごまかす。様子を見にきた助産師が慌て、驚いている。

 「すみません、産み方は本で学んだもので。ただ、一切苦しまずに産めてしまいました」

 と伝えると助産師は走り去り、その後女帝を連れて現れた。女帝は毛布を用意して、産まれた赤ちゃんをそのまま抱きかかえてどこかに行ってしまった。エリスはただ、ひとり置き去りにされている状態である。『ほんとうにエリスに興味なかったんだね、この組織は』、とソユルが愚痴る。出産をして体力を消耗しているのが普通なのに、一切気にかけてもらえない現状にエリスは悲しくなって一人でベットで泣いていた。

 産まれた子どもは元気な男の子だそうだ。

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