悪役令嬢、女帝になる

神楽泰平

第1話

 私にとっての失敗は結婚だった。私の旦那は財務省の役員を務めている。

 時代は2つの大きな革命によって発展を遂げていた。

 ひとつは周波電池革命。簡単に説明すると周波によって電気が自動的に電池に貯まるというとんでもない代物が発明された。それは人間の脳が発する周波でも充電が可能となったため、AIを脳の中に入れる手術によってAIが脳と連動しながら、人間の補助ができるようになったのである。AIを人類が扱えるかどうかは別にして、とにかく人類皆、人類がもつ叡智、感情を全て取得し、どんな難しい計算処理もできるようになった。

 もう一つの革命がベーシックインカム制度革命。AIが脳に埋め込まれてしまったわけなので、殆どの人間は大抵のことは、難なくこなせる存在となってしまった。そのため、人間は生まれ持った身体的、技術的な才能内容で的確な職業に就くことを生まれた時から決められており、それに従って生きることとなった。

 この2つの革命によって人々は大きく発展、するわけもなくより貧富の差は拡大した。なにせ、大抵の人間はAI以下の素質しかないため、そのまま不労所得者ルートにまっしぐらである。最初のうちは職業選択の自由もあったが、そういったものは逆にその職業の生産性を下げる「デバフ人間」を生み出す元になると結論付けられ、排除されたのである。ただ、選ばれた人間については「働かない」ということも「働く」ということもいつでも自由に与えられた。結果として、より上を目指そうと皆人々から物を奪おうとする「賊」集団が急上昇し、治安も悪化の一途を辿っている。ただ、生まれ持って「強盗」という素質を出された人もおり、その人は他国で多くのものを盗んで自国の利益を上げる立場になっているとか。結局、才能のない「強盗」は「警護」の才能のある人には絶対に勝てないので捕まりまくっているので、悪化の意図だがギリギリバランスは保てているのである。

 そんな私の才能は「主婦」。ただし、「旦那のステータスの上乗せ用としての主婦」ということだった。つまり、家事も子育ても旦那の夜の営みも全く才能なし。ただ、「主婦」としてあるだけの存在に才能がある、ということだ。しかも主婦でも「役員クラス」の主婦に限定されている。内容としては皆に平等に配られる不労所得に加えて、「主婦」になれるだけでお金をもらえる。さらには夫の稼ぎも妻の稼ぎになるのである。そんなおいしい役職はないので、快くその道を歩むことを決めたのである。

 そして、結果が今の旦那である。旦那の才能は「国家財務」とされたため、そのまま国の裏を操る立場のコースを現在歩んでいる。私との間のこども、これも別に私がお腹を痛めて産む必要はなくて赤ちゃん製造機で子どもを作ることで安全に確実に子どもをもうけられるようになった(だから夜の営みは性欲処理以外の役割がなくなっている)。子どもについての才能はなんと「全能」。ありとあらゆる職業に就くことが許され、また特定の才能者よりも超える成果を上げる才能である。全世界に貢献できるように現在は選ばれた人だけが通える特別な施設で過ごしている。

 そんなあまりにも恵まれた人生を歩んでいるように思えるが、私は・・・旦那から精神的にも身体的にもDVを受けている。理由は簡単。私が想像していた「旦那のステータスの上乗せ用としての主婦」の素質とは、旦那の捌け口になることで旦那の仕事の効率が上がる才能だったからである。要は人間にしかありえない特有のサンドバックの才能である。そもそも旦那は不倫しているため、めったに帰ってくることはない。帰って来る時はなんの連絡もなく、突然帰ってきて、無言で顔も含めて「暴力、暴力、暴力」である。その後は。「なぜお前のような人間のために私は世の中の大切なお金を支出しないといけないんだ」やらなんやらを吠え立てる。さすがにつらすぎるので主婦の「放棄」をお願いしに、相談所に行ったこともあるが、ある問題が生じた。それは他人のステータスを上乗せしている以上はやめた瞬間に、AIが「デバフを受けた人間」ラインまで旦那のステータスが下がってしまうのだそうだ。そうなると私は「デバフ人間」とAIに判定され、即刻一切のお金の流れが禁止されるのである。人を邪魔する人は即座に社会的抹殺をされるようになったのもこの革命以降の倫理感の特徴である。当然、相談する人もそれがわかっているのに許可を出したら共謀罪で同じ道である。つまりは、職業放棄ができない人間になってしまったのである。私は泣きながら、昔のゲームでやった皇帝の不倫相手の立場の主人公が皇帝の妻が悪役令嬢としてクーデターを起こしたため、それを都市ごと艦隊の大砲で沈めてしまう最期を想像した。正直、今の浮気相手の女性がそうやって私を開放してくれないかと願ってしまう。

 転機は突然訪れる。旦那が事故にあったのである。不倫相手と遊んだ帰りに、旦那が一番キライな不労所得で満足せずに強盗をする人に車でひき逃げされたのである。犯人は車を乗り捨てたが、すぐに捕まった。だが、旦那の方は半身麻痺となり、財務省のエリートコースから外れ、働けなくなったのである。私は即座に「主婦」を放棄しようとしたが、旦那が一言。

 「お前が代わりに事故に合った状態になって、お前の身体を俺に渡せばいいんだよ!」

 ・・・AIでそれは理論上できてしまう。旦那のAIに旦那の脳の周波と脳の記憶、行動パターンを保存して、私のAIも同様のことをすればよいのである。そうすればAI同士を交換すれば晴れて入れ替わりの成功である。私のAIが「主婦」としての役割を担うため、私の脳の周波と脳の記憶を開始した。身体も強制的に動けなくしようとする。しかし、私には「自由になりたい」という意思が働いたのか、即座に病院から火事場の馬鹿力で逃走をしていた。もう意識が殆ど失われつつある中で、私は道路に飛び出していた。そして、

 トラックに跳ねられて、私の意識はそこで完全に遮断されたのである。

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