第33話 決まる最期の日(2)


 深夜二時。

 雅人の部屋。


 雅人は一人、ベッドの天井を見上げていた。


「彼女は本当に死ぬつもりなのか――」

 右手を天井へかざし、小さくため息をつく。


 僕らの最終目的、終着点。

 それは死ぬこと。自らの命を絶つこと。

 それまで僕らは約束の元、過ごしてきた。


 彼女からの提案。

 それは浮かれていた僕に現実を突きつけた。


『その一、二人で海へ飛び込む』

 潮の流れが急なところとは言え、互いに確実に死ねる保障は無い。

 僕だけが生きるかもしれない。

 却下する僕に、少し不満げな顔を向ける彼女の姿を今でも覚えている。


『その二、二人で首を吊る』

 同時に吊ること、それが条件。

 多少の懸念は残るが仮決定とした。


 その他にも焼身など、様々な提案を受ける。

 間違いなく彼女は死のうとしていた。

 提案する彼女の姿を見て、雅人は素直に驚いていた。


 学校で爽やかな顔をして、彼女はこれを考えていたのだろうか。

 本当に人とはわからない生き物だ。

 僕も君も、わからない生き物だ。


「後、三日か」

 今日を含めば、四日。

 これが僕らの余命だった。


 彼女は三日後に死のうと言った。

 一緒に山へ登り、死のうと。


 平日。学校を無断欠勤して、僕らは山へ行く。


 ――死ぬために。


 この世の中、死ぬために山へ登る者などいるのか。

 僕ら以外にいないことを祈りたかった。


 ロープは雅人が買うことにした。

 男子高校生の方が、女子高生よりかは買っても怪しまれないからだ。

 明日、日曜大工の道具と一緒に買うことにしよう。



 三日後、僕は最愛の彼女と――死ぬ。

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