第23話 彼女との日々(18)



 放課後。

 雅人が教室へ戻ろうとすると、詩織が教室にいた。


 詩織と――もう一人。

 教室には詩織と少し髪を茶色に染めた小柄な少女がいた。

 その少女は京介の今の彼女だった。


 教室へと進む足を止める。

 慌てて廊下の壁に背を向け、雅人は耳を傾けた。


 珍しい光景。

 この二人が会話するのを見たことが無かった。

 彼女たちはクラスの中でも派閥が違う。

 雅人は会話の内容に興味があった。


 少女は相談する様に詩織に話し始める。

 次第に泣いている様な声質へと変わった。


 少女は甘えた様な口調をしている。

 アニメキャラの様な可愛らしい小柄な容姿と相まって、男子からは人気があった。

 だが、男子に媚びを売る様な態度は、女子からの評判は悪かった。


 距離のせいか、はっきりとした言葉が聞こえない。

 少女の口から、京介と言う単語が聞こえた。

 柏木が何かしたのだろうか。

 まあ、驚きはしないけど。


 断片的に聞こえてくる単語。


 妊娠、中絶、結婚。


 相談の内容は予想がついた。

 雅人は先ほどの京介の言葉を思い出す。


 しかしながら、断定の話。

 確信には至らなかった。


 数分間。

 詩織は少女の話を聞き続けた。


 宥める中、詩織がはっきりと告げる。


『生きるのを決めるのは、あなた自身』


 はっきりと聞こえた彼女の言葉。


 そう言って少女を励ます彼女は、自分の意思で死のうとしているのだ。


 そして、会話が終わると少女はゆっくりと教室を出て行く。


 慌てて雅人は廊下を歩く生徒になった。

 雅人から見えた少女の雰囲気は、まるで不幸を具現化した様な雰囲気だった。


「――でも」


 あくまでも外部に見える雰囲気の話。

 励ます側の詩織だって、幸福では無い。


 むしろ、彼女は死にたくなるほどの不幸に近い状況であった。

 だから、彼女は死ぬことを選ぶ。


 詩織にとって自身の不幸と比べれば、少女の悩みは小さく見えたのかもしれない。


 価値観は人それぞれ。

 詩織みたいに表に出せない人もいた。


 少女の様に相談出来る相手もおらず、今まで彼女は一人悩み続けていたのだ。


「――僕は」


 零れた単語。

 僕はそんな彼女の悩みを聞き、手助けすることが出来るのだろうか。


 建前の恋人では無く、今を生きる一人の人として――。


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