第20話 彼女との日々(15)


「でも――」

 詩織は言葉を詰まらせ、俯いた。


「でも?」


「もう少し待って。もう少しだけ」

 宥める様な顔で彼女は懇願する。


 もう少し。

 果たして、どれくらいの期間か。


 きっと、数日のことだろう。


「まだ叶えたいことがあるの?」


 遊園地に行きたい。

 恋人が欲しい。

 それらが今までの彼女の願い。


 それ以外の彼女の願いとは何か。

 純粋に気になった。


「ううん」

 両方の手の平をベッドに触れると、彼女は仰向けの姿勢で首を振る。

「ならどうして?」


「まだ私は――恋人との日々を過ごしていたい」


 死ぬのに少しだけまだ生きていたい。

 詩織は不思議な感覚だった。


 僕もまだ君との日々を過ごしたい。

 僕らの思いは一緒なのだ。


「それは僕もだよ」

「それなら良かった。それと……これからもえっちしたい?」

 そう言う詩織の顔は少し赤かった。

「うーん。まあ」


 これからも。明日も明後日も。

 きっと、数日間の僕らが死ぬまでの話だろう。


 気がつけば、僕は彼女に依存していた。

 彼女の身体なのか、彼女の存在なのかはわからないけど。


 大人の恋人関係は、肉体関係もあるらしいけどこう言うことなのだろうか。


「なら、もう少し――生きましょう?」

「そうだね」


 もう少しだけ、君との日々を。

 君と生きる最期の日々を。


「それとまだ続ける……?」

 焦らす様な眼差しを雅人に向けた。

 気がつけば、さっきまで息が荒かった詩織の息が落ち着いている。

「うん」


 体力は戻った。

 それにさっきよりも君への思いが込み上げている。

 感情も相まってか、雅人は強く頷いた。


「……わかった」

 詩織は静かに目を閉じ、ゆっくりと仰向けになった。


 可笑しい。彼女に触れる。

 その度に不思議と生きていると実感出来る。


 今までの日々に生を感じていなかった。

 そんな僕が生を感じている。



 まさか、僕は彼女に生かされているのだろうか――。



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