第13話 彼女との日々(8)


 土曜日。

 雅人たちは学校の最寄り駅で待ち合わせをして、遊園地に来ていた。


 夏の季節に似合う白いワンピース。

 輝かしいよりも、透き通るが正しい様なその雰囲気。

 純白の天使が目の前にいた。


 透き通る雰囲気。

 咄嗟に雅人は詩織の身体のことを思い出した。


 慌てて服装の材質を確認する。

 どうやら、見たところ透けないタイプのワンピースの様だ。


 一安心。

 雅人は大きく息を吐いた。


 彼女の身体を他人に見られる訳にはいかない。

 不思議とそんな警戒心があった。


 僕だけしか知らない彼女の秘密。

 この秘密は僕が墓場まで持って行こう。


「願いって――遊園地?」

 出入口へ向かう中、雅人は遊園地内にある観覧車を眺めていた。

「うん。そう」

 出入口を眺める様に見つめ、詩織は小さく頷いた。

「遊園地、好きなの?」

 アトラクションが好きそうにはとても見えないけど。

「好き――と言う訳では無いけど」

「そうなの?」

 ならどうして僕らはここにいるのか。

「来たことが無かったから。だから、行ってみたいと思った」

 興味がある様な眼差しを詩織は観覧車へと向けた。

「そうなのか」

 僕も来たことが無い。


 両親は遠出が嫌いだった。

 父に関しては、そもそも家にいることが少なかった。

 幼い頃からは旅行へ行ったとしても、日帰りばかり。

 友達から聞く、旅館での一泊二日の旅行は一度も経験したことが無かった。

 まあ、そんな長い時間、家族三人で過ごせるほどの仲の良さでは無いと思うけど。


 両親なんかよりも、僕は詩織と旅行をしてみたい。

 彼女に浴衣が似合うのは間違いなかった。

 そんな下心もあったのは間違いないけど、理由はそれだけでは無い気がする。


「さすがに一人で来ようとも思わなかったし。その――ありがとう」

「ありがとう?」

「私の願いを叶えてくれて」

 来ただけだ。まだ何も叶えていないだろうに。

 悔いが無い顔をしないでくれ。

「まあ、僕も願いを叶えて貰ったからね」

 それに先に叶えてもらったのは僕の方だ。


 強引な行いにより、願いを叶えただけ。 

 今の僕には、彼女の願いを叶える責任があるだろう。

 不思議と無責任な気持ちは無かった。


「……私とえっちする願い?」

 まじまじと雅人を見つめ、不思議そうな顔で首を傾げる。


 清楚を漂わせる綺麗な顔。

 そんな顔がえっちと言う単語を放つ。


 雅人は呆然と見つめていた。

 ――正直、もう一度言って欲しい。


「うーん。本人に言われると、グサリと来るね」

 眉間にしわを寄せ、苦痛に耐える顔をする。


 客観的。

 僕は彼女にいったい何を言わせているのか。


「良いわよ。それでも私はあなたの誘いに応じたんだもの」

「――え?」

 それでも、とは。その言葉の真意とは。

「それが私のもう一つの願いに近いものだったから」

「もう一つの願い?」

「最期に――」

 思いつめた顔で詩織は雅人の前を進む。


 最期に。

 彼女が最期に叶えたいものとは。


 自然と雅人は息を飲んだ――。

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