ヤマタノオロチに殺された龍神。現代でキメラに転生す。

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第1話 これは、とある龍神の物語

 ザバサァァァァァァァァァァァァ。


 外では、雨がひたすらに洞窟を攻撃している。僕は洞窟内で体を丸めていた。

 最近体が大きくなってきたせいか、体を丸めていてもギチギチで窮屈になってきた。龍の体ってのも、そんなに便利なものじゃんないな。


 僕は普段人間達に龍神と崇められ、週一の頻度でお供え物をされる。悪い気はこれっぽっちもしないのだが、崇められ続けるのもさすがに疲れてきた。そろそろ新しいことでも始めてみようかなぁ。


 ドジャバガァァァァァン!!!


 そんなことを考えていると、洞窟の入り口からとんでもない轟音が響いてきた。なんだなんだと様子を確認しに行くと、そこには八首の怪物が立っていた。


「我の名はヤマタノオロチ!! そこのお前!! この住処を明け渡せ!!! ついでに命もだ!!!」


 なんだぁこいつはぁ。いきなり入り口を破壊したと思ったら住処を差し出せだぁ? 熱でも出てんのかな。


「急になんだよおん前。よさげな住処はこの世にたくさんあるんだ。だから他をあたってくれ。じゃぁな」


 適当にあしらって中に戻ろうとした時、尻目にやつの首の一つから雷のようなものが発射される光景が飛び込んできた。

 攻撃方向は明らかに僕の首だったので、咄嗟に体を曲げて避けた。洞窟の奥から爆音が耳に響いてくる。


「ッ!! あぶねぇなこの野郎!!」


「なぜ避けた!! おん前のせいで洞窟にダメージが入ったじゃないか!! いいから早く殺されろ!!!」


「嫌なこった。何で突然来たやつに殺されなきゃいけないんだよ。さっさと帰れボケナス。炎川えんがわ!!」


 僕は、口から火を噴いて応戦する。


「ゆうことを聞かない駄龍めがぁ!! 雷怒雨らいどう!!!」


 それにやつは口から雷を轟かせて相殺してきた。


 こうして僕とヤマタノオロチは戦争を開始した。

 戦争は三日三晩続き、周辺の環境は破壊の限りを尽くし、跡形もなく消え去った。僕は戦いに敗れ、胴体は真っ二つに分かれた状態で地に伏していた。

 一方で戦いに勝利したヤマタノオロチは、戦争で洞窟が破壊されているのを見て、愚痴を言いながらどこかへと消え去っていった。


 僕はというと、意識が消えかけていた。二百八十三万年生きた魂が、今消えようとしていた。この世に未練は特になかった。


 次の瞬間、龍神の心の目は完全に閉ざされた。


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 2023年。僕は、汚水と大陸の割合が6対4の木星で、魚と鳥と兎の合成動物として転生した。

 転生してから早20年ばかしが経ち、この世界にうまく順応しながら生きてきた。


 転生後の世界を、皆は現代と呼んでおり、人類と伝説が共存して生きている社会であった。

 道を歩けばおじさんがケロべロスを連れて歩いていたり、カエサルやルシファーなんかといった天使達が配達をしていたりという光景が広がっている。


 僕はというと、前世で散々見た真っ青な水を求めて世界中を旅している。中学校を卒業して以来ずっと探し続けているのだが、なかなか見つからない。

 正直何度も諦めそうになった。でも、まだ始まったばかりだと心に言い聞かせてここまでやってきた。


 未来について考えながら歩いていると、向こうから髪の毛が燃える種族。イフリート族の男がやってきた。

 彼の名はイフ郎。何カ月か前に知り合って意気投合した人だ。イフ郎も僕に気付いたようで、手を振りながらこちらに近づいてきた。


「お久しぶりです。龍助さん。偶然ですね」


「あぁ、本当だな。これからどこに向かうんだ?」


「僕はこれから仕事のために銀行に行く予定です。龍助さんはどこに向かわれるんですか?」


「僕は今から飛行機でアラスカ州に行く予定だ。二日前に、北極の氷を研究する調査団が新たな事実を発見したそうだ。もしかしたらそれは、真っ青な水を見るための大きな一歩となるかもしれない」


「おぉ……それはすごいですねぇ。いつか僕にもその話を聞かせてください」


「あぁ、もちろんだ。それじゃぁそろそろ行くよ。また会おうな」


「はい。またいつか」


 こうして僕は、空港に向かって再び歩き始めた。いつか、青き世界を見るために。

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