その30。「何とか終わったけど……何故かシンシア様に懐かれた」


 最初はシンシア視点。

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 わたくしは突然力を失った様に崩れ落ちるセーヤをギリギリの所で受け止める。

 初めて私が話した同じ歳の男の子セーヤは、私と違って物凄く重かった。


「うぅぅぅ……重たい、わ……」


 僅か数メートルしか離れていないベッドの上に運ぶだけなのに、まるで何周も家の周りを走ったかの様な疲れが私を襲う。

 普段体は鍛えていないから、たったこれだけでもう腕がパンパン。

 それでも頑張って運ぼうとしたが、私は限界を迎えたので絨毯の上に座って、セーヤの頭を私の太ももに上に乗せる。


 そこでふと思った。


「……昔の私なら絶対にそのままにしてたわね」


 当たり前だ。

 だって昔の私は本気で世界中の同じ年齢の子が自分よりも下だと思っていたのだから。

 実際私に魔法で敵う者も居なかったし、剣士であっても近づく前に魔法を撃てばすぐに終わった。

 勉強だって、私は既に学園卒業レベルまで達している。

 正直言って周りの同い年の奴らが馬鹿にしか見えなかったわ。

 

 私は選ばれた人間。

 世界の誰もが羨む天才。

 

 まだ幼いながらに私はそう心の中で自負していた。

 今私の太ももで死んだ様に意識を失っている(死んでいます)、黒髪黒目の男の子———セーヤに出会うまでは。


 セーヤは私よりも何もかもが出来ていた。

 言葉遣いも所作も頭の良さも魔法も身体能力も何もかもだ。

 当然私よりも凄いことに腹が立ったけど、セーヤと話していると不思議とその苛立ちは収まっていったわ。


 それと同時にセーヤになら私の本当の姿を見せれると思った。

 だから見せてみたけど……案の定セーヤは受け入れてくれたわ。


 正直とっても嬉しかったわね。

 人生で初めてのお友達……だからなるべく頻繁に会いに行ったわ。

 何故か最後ら辺は頬がピクピクしていたけど。


 そしてさっきの私を庇う様に敵に立ち向かうセーヤの姿。

 まるで本で読んだ王子様みたいだった。

 

『———いいからシンシアは黙って俺の側に居ろッッ!!』


 って言われた時は、何故かはよく分からないけど、胸が熱くなって心臓がドキドキしてたわ。

 一体アレは何だったのかしら?

 突然のことだったからセーヤの言葉にも合槌を打つくらいしか出来なかったわ。

 でも初めてセーヤの敬語以外の声が聞けて嬉しかったわね。


「……セーヤならこの症状も分かるのかしら?」


 私はそんなことを口に出して、そっとセーヤの頭を撫でた。








「———はっ!!」

「あっ、起きた。おはようセーヤ! 私が膝枕をしてあげていたのだから感謝しなさい!」

「え、あ、はい、ありがとうございます?」


 ぼんやりする意識の中で、俺の視界に広がるシンシア様の顔を見ながら、取り敢えず言われた通りに感謝しておく。

 しかし段々と意識が覚醒してくると、今の自分の現状を理解した。

  

 自分がヤバいことをしていると言うことも。


 俺はバッとシンシア様の太ももから頭を退かすと、速攻で土下座に移る。


「主のお膝を使わせてしまい申し訳ありませんでした。今から当主様の下へ行き罰を受けて来ます」


 俺はそう言って逃げようとするも、シンシア様に腕を掴まれてしまい逃げることが出来なかった。


「だ、ダメよ! もしこれをお父様に言えばセーヤが殺されるわ!」

「なら何でやってしまったのですか!?」

「……地面だったら頭が痛そうだなぁ……って」


 そう言って少し恥ずかしそうに耳を赤くしてふいっと目を逸らした。

 しかし俺にはそんなシンシア様の挙動など全く目に入っていなかった。


「…………」


 俺はシンシア様の言葉に、青天の霹靂と言うのはまさにこう言うことを言うのだろうと感じた。

 まさかあの性格悪いシンシア様からそんな気遣いMAXの言葉が聞けるなんて……!

 まぁそのせいで俺の死亡フラグが立ったみたいだけど。


「……とても嬉しかったですが、今度からはご遠慮ください」

「嫌よ」

「……ご、御冗談を……」


 震える声で言う俺に、シンシア様は今まで俺が見たことない、パッと花火が咲いた様な、全てを魅了する様な笑みを浮かべた。



「———ふふっ、嘘よ。これからもよろしくね? セーヤ」

 


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