その22。「公爵家って意外に立場危ういの?」

 怖い笑顔をして此方を見ている当主様。

 そしてだらだらと冷や汗をかきながら固まる俺。


 なんてカオスな空間なんだろうか。

 

「え、えっとですね……あ、あれは緊張していたからでして……決してシンシア様に恋愛感情を持っていると言うわけではなく……」

「そんなことは先程の反応を見れば分かる。ただ少しジョークを言って緊張をほぐしてやろうと思っただけだ」


 それのせいでもっと緊張したよ。

 当主様はその顔でジョークなんて言ったらダメだよ、本気だと思うから。


「まぁもし持っていたら即刻処刑だったが」

「…………ははっ」


 俺は今物凄く引き攣った様な笑みを浮かべているだろう。

 その証拠に頬がピクピクと痙攣している感覚を鮮明に感じる。


 なんつぅこと言うんだよこの人。

 悪役令嬢の親が言うと怖すぎるんだよな。


「そ、それで私に何の御用でしょうか……?」

「いや、将来我が娘の専属執事になってもらう君には話しておこうと思ってな」

「? 一体何をでしょうか?」


 俺がよく分からず首を傾げていると、当主様は笑みを引っ込める。


「正直言って———我がシルフレア公爵家は現在非常に危うい立場なのだ」

「危うい……ですか……」

「そうだ。元サークレッド子爵家のアリアと言う者を知っているか?」

「は、はい……一応は……」


 と言うかそもそも没落したサークレッド子爵家のアリアってこの乙女ゲー世界の主人公だから知らないわけがない。

 しかしそれがどうしたと言うのだろうか。


「そのアリアとか言う没落貴族が世にも珍しい回復魔法の才能があるらしくてな。是非第1王子殿下の婚約者にと言う話が上がっている」

「え……ですが第1王子殿下の婚約者はシンシア様のはず……」

「そうだ。何とか公爵家の権力とシンシアの才能を推して婚約者にしたが……反対も多い。だからシンシアには完璧である事を求めた」


 ……成程な。

 てっきり第1王子に惚れているからアリアを虐めていたのかと思った———勿論それもあるだろうし、そもそもシンシア様の性格があまりよろしくないのも事実———が、意外と色々な思惑があってやっていたのかもしれない。

 しかしそれだけで公爵家の立場が危うくなる事などあるのだろうか?


「勿論その程度で揺らぐほど我が家は軟弱ではない。しかし———その子爵家を他の公爵家が援助しているのだ」

「…………ブリーズ公爵家ですか……」

「ああ。よく分かったなセーヤ。アリアとゾーラが自慢するだけのことはある」


 やはりそうか。

 女神から聞いた話だと、アリアはブリーズ公爵家のイリスと言う女と親友らしい。

 きっとシンシア様を断罪する時や婚約破棄の時に簡単に公爵家が没落したのにはイリスとか言う女と公爵家が根回しをしたのだろう。


 公爵家は王家の血筋。

 王家ですら簡単には手を出せないのが公爵家であり、国の柱の一つでもある。

 おいそれとなくしてはならない存在のはずだ。

 

「……私にどの様なご命令を?」


 今日俺を呼んでこんな事を話したと言うことは、きっと俺に何かしらして欲しい事があるのだろう。

 

 どうやら俺の考えは当たっていたらしく、当主様は再び笑みを浮かべる。


「ははっ。頼もしいな君は。セーヤにはシンシアがやらかさない様に近くで見守っている事と、シンシアの命を狙う者から守る護衛を兼任して欲しい」

「かしこまりました。必ず成し遂げて見せます」


 俺は本当はものすごく嫌だが、そんな事を言える様な立場ではないので、そんな素振りなど見せず頭を下げる。


 はぁ……クソ女神め……面倒な所に転生させやがって……。

 いつか1発殴りたいものだ。

 

 俺は礼をしながらそんな事を考えていた。

 


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