その20。「ウサギがこんなに強いとか聞いてない!」

「———ぷはぁっ!?」


 え、今……俺殺された……?


 俺は自分の掌や体を確認して困惑する。

 これでも大分強くなったはずだ。

 幾らステータスが数倍離れていたとしても、フレイアの分身と戦った時ほどではない。


「キュキュ!」


 兎がコクリと首を傾げながら瞬きせず此方に視線を向けていた。

 その姿は普通の人が見れば可愛いだろうが、俺にとっては不気味でしかない。


 俺は……どうやって死んだんだ?


 今目の前にある、《死亡しました。固有スキル———【死に戻り】が発動します。物理攻撃で死んだため、体力・攻撃・防御・敏捷ステータスが1上昇します》と言う半透明のボードを見れば分かる通り、物理技で殺された筈だ。

 しかしステータスが上がった俺ですら認識する前に殺されてしまっていた。


「……これは、マズいな……」


 俺は、兎に対して可笑しな話だが、【身体強化:Ⅵ】【付与:硬化】【風の鎧】【水の保護】【炎昇】を発動。

 【炎昇】は体温を上げて身体能力を無理に高める魔法だ。

 兎のステータスを見る限り、遠距離系の魔法は持っていないので、ひたすらに防御力を上げてみたが……。


「……ぐっ……やっぱりキツいな……」

 

 俺は急激な体温変化と身体変化に伴い身体のあちこちから痛みを感じるが、どうせ死んでもやり直せるので歯を食いしばって耐える。


 あー、一体何でこんなことになったんだろう。

 うん、公爵家の使用人のせいだ。


 俺が話したのは3人くらいしかいないが、見た感じ俺と同じ貴族家の様だった。

 多分俺の方が邪魔だったのだろう。

 俺がシンシア様の専属執事になる予定だから。 

 まぁ未来を知っている俺からすれば是非とも譲ってやりたいが。

 

「……帰ったら絶対にアイツらに1発食らわせてやる」


 そう決めて、俺は力の限り地面を踏み締め———


「———疾ッッ!!」


 一直線に、最短最速で兎に接近する。

 

 エンシェントだか古代だか知るか!

 お前が始めたんだからな、絶対に俺が勝ってやる!


 その意思を込めて懐にしまっておいた短剣を取り出して兎目掛けて突き出す。


「キュキュッ!? ———キュー!」

「ッッ〜〜〜!!」


 しかしエンシェントの兎は多少驚いたものの、余裕そうに避け、そのまま俺の背中に飛び蹴りをかましてきた。

 俺は声にならない叫び声をあげて逆くの字で吹き飛ばされる。

 轟音を立てながら木々を薙ぎ倒して俺はやっと止まった。


「うっ……ん"ッ……痛ってぇ……」


 俺はステータスをチラ見してみると、体力が『3753/15370』となっており、一気に6、7割程の体力を持っていかれてしまった様だ。

 通りで痛いわけだよ……だって普通の人なら即死だもん。


 俺は太い木の根本からゆっくりと起き上がると、吹き飛ばされた衝撃で外れた肩をゴキッと無理やり元に戻す。

 痛みには大分慣れたが、流石に痛くないと言えるほど浅い怪我ではなかった様で、既に魔法とスキルは全解除、更には全身からボタボタと血が滴り落ちていた。


「キュキュ! キューキュー!」

「何だって? なんて言ってるか分からんぞこのやろー!」


 俺はそう言いながら秘技を発動!


「あっ———あんな所に炎竜王が!」

「キュ? キューキュー———!?」


 兎が俺を嘲笑いながら(想像)後ろを向くと———


「妾の契約者に随分とやってくれた様だな兎。貴様の様な雑魚は木っ端微塵だ」 


 そこには銀色の髪を靡かせた超絶美女の姿があり、その言葉と同時にフレイアの手から俺とは比べ物にならない圧倒的な炎が吐き出される。


 ボォォォオオオオオオオ!!


「キュキュ———き、きゅ……」


 兎は逃げる間も無く、辺り数キロを吹き飛ばす灼熱の炎に跡形もなく焼かれた。


 そのすぐ後。


「…………さて、どうしてこうなったのか説明してもらおう」

「あ、あー……えっと……」


 俺は死ぬほどフレイアに問い詰められ、怒られた。


 ……全部あの3人の使用人のせいだ……。

 

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