おまけ②【再会】









希死念慮

おまけ②【再会】



 おまけ②【再会】




























 「なんとか逃げ切ったか?」


 「多分・・・」


 2人の男が、息を切らせながら草陰に隠れていた。


 1人は青く長い髪を後ろで1つに縛っており、女性のような綺麗な顔立ちをしている。


 もう1人は茶色の癖毛で、目は細く、どちらかというと男らしい顔つきだ。


 ただ、2人とも両腕がなく、義手などといった部類のものも身につけていない。


 アンバランスな感じもするが、2人は両腕がないのに慣れているのか、特に転ぶこともなく走りだした。


 「どっかで水飲もう」


 「そうだな」


 腕がない2人は、片方ずつ水を飲むのだが、片方が足で胴体を下から支え、タイミングを見て身体を起こす。


 それを交互にすると、今度はご飯を探しに歩き出した。


 人目につかないように、人が通らないような道を歩いていると、丁度、ゴミ集積場があった。


 「よし、あっちが生ごみか?」


 「おい、先客がいるぞ」


 2人の前に、小さな子供が2人いた。


 どうやら兄弟か何かなのだろうが、弟の方は目が見えないらしく、兄が手を握っていた。


 「手伝ってやるか」


 「俺達、腕がないのにか?」


 「気持ちの問題だろ」


 「・・・そうだな」


 2人が兄弟のもとへ行こうとしたとき、複数の人影が見えた。


 思わず身を隠した2人が目にしたのは、今は見たくもない、警察の制服を着た男たちだった。


 「なんだ、このガキは」


 「不法侵入だな。捕まえよう」


 「こんな汚ねぇところで何してんだ?」


 「此処で殺してもバレねんじゃねえか?」


 「確かに。最近ストレス溜まってんだよな」


 男たちは腰から剣や銃を取り出して、小さな子供たちに向ける。


 兄が逃げようとしたのだが、弟は転んでしまい、兄を探しているが見つけられない。


 兄は兄で捕まってしまい、弟が目が見えないことに気付いた男たちは、まるでその様子を楽しむかのようにして見学している。


 弟の行く先で、膝を曲げて銃を構え、弟が銃口に触れるのを待っている者までいる。


 「おい!助けねぇと!」


 「静かに。分かってる!・・・でも、あれだけの人数、俺達でなんとか出来ると思うか!?俺達だって逃げてきてるんだ」


 「わかってるけど・・・!!」


 どうすれば良いのかわからないままの2人だったが、そのとき、別の男が現れた。


 男は黒い髪に黒いシャツ、白い手袋をしていて、赤いネクタイが目立つ。


 口には身体に悪そうな煙草を咥え、なんとも気だるげな様子で男たちに近づいて行く。


 「あ?なんだてめぇ」


 「・・・・・・」


 「おい、誰だっつってんだよ」


 「・・・・・・」


 「おい!!!何か言えよこの野郎!!」


 男の1人が、後から来た男に向かって行くと、煙草を咥えた男は、咥えていた煙草を口からプッ、と男に向けて吐き出した。


 「あっち!!!この野郎!!」


 男たちがたった1人に向かっていく。


 そして、簡単に倒れて行く。


 多勢に無勢などと、誰が言ったのだろうか。


 平然と新しい煙草に火をつけた男は、まずは近くにいた弟をひょいっと片手で抱っこすると、兄の方へ近づいて行く。


 怯えた状態の兄は、ただ目の前の男を見て震えていた。


 「・・・・・・」


 男は両膝を曲げて弟を下ろすと、弟と兄の手を握らせる。


 そして、ポケットから潰れた何かを取り出して兄弟に渡した。


 「悪いな。さっきので潰れちまった。でもまだ喰えるはずだ」


 兄がなかなか受け取らないため、男は自らその中身を取り出すと、それは魚の形をした和菓子だった。


 買ったばかりなのか、白いものがたち上っている。


 「・・・たい焼き嫌いか」


 そこじゃないだろうと、物影から見ていた2人は思ったが、それと同時に、なんだか懐かしい感じもした。


 男はどうしていいのかわからないのか、煙草を吹かしながら、後頭部をかいた。


 仕方ないので、男は弟の手にたい焼きを持たせると、兄弟の保護を求める電話をかける。


 電話を切ると、何やら目の辺りをおさえていた。


 「いて。ちゃんと目ぇ洗うやつしなきゃダメだな。いてぇ」


 そう言うと、男は目をいじりだした。


 「「!!!」」


 男の目の色は、あの日見たときと同じように、黄金に輝いていた。


 「おい!あいつだ!声かけ・・・」


 「だめだ」


 「なんでだよ!」


 「・・・・・・」


 懐かしい。懐かしい。会いたい。


 会って、沢山謝りたい。


 でも、それは出来ない。


 「あいつが生きててくれた。それがわかっただけで、俺達は逃げ出した意味も甲斐もあった」


 「そうだけど・・・」


 「見ろ。今のあいつは、正義を背負ってる。今俺達があいつに会ったら、迷惑をかける」


 「・・・・・・あいつは迷惑だと思わないと思うけど」


 「あいつが変わったなんて思ってないよ。これは、あいつがどう思うかじゃなくて、俺達の問題だ。あのとき、俺達はあいつに逃げるよう言ったんだ。あいつに沢山背負わせたままだ」


 「・・・・・・」


 「行こう。あいつならきっと、正しい正義を導いてくれる」


 「・・・だな」


 2人は、誰にも気付かれないように、そっとその場を後にした。








 「なあ、橆令」


 「なんだ、悠都」


 「あいつ、俺達のこと憶えてっかな」


 「憶えてくれてるさ、必ず」


 呼吸がしにくくなった。


 多分、傷口から悪い何かが入ったんだ。


 医者に診せる金もないし、頼れる大人もいなかった。


 「あいつが憶えててくれるなら、俺達、生きてた意味、あったよな」


 「ああ。あったさ」


 「いつか、あいつら捕まるよな」


 「ああ。あいつが捕まえてくれるさ」


 「あいつが死なねえぇように、見守ってやらねえとな」


 「そうだな。今度は俺達が、あいつを助けよう」


 身体は徐々に冷たくなり、声を出すのも辛くなってきた。


 それでも、最期まであいつの話をしていたかった。


 「ごめんな」


 助けようとしてくれたのに。


 「ごめんな」


 その手を振り払うような真似をして。


 「ごめんな」


 気付いていたのに、目も合わせなかった。


 「ごめんな」


 二度と戻れないと諦めたんだ。


 「ごめんな」


 心が弱くて、すぐに壊れた。


 「ごめんな」


 絶望させたのは、俺達だ。


 「ごめんな」


 それでも、お前は生きててくれた。


 「ありがとう」


 それだけで、俺達は希望が見えた。


 「ありがとう」


 お前はお前の道を、生きてほしい。


 「ありがとう」


 お前に出会えて、俺達は救われた。


 「ありがとう」


 いつかまた、会おう。


 「将烈」








 「・・・・・・」


 どこからか、懐かしい匂いがした。


 「・・・・・・」


 いや、気のせいだったのかもしれない。


 「・・・・・・」


 声も聞こえた気がした。


 「・・・・・・」


 耳に心地よく残る、いつかの声たち。






 「・・・眠ィ」





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希死念慮 maria159357 @maria159753

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