異世界召還されなかった僕は。―SLASH BLOOD―
NORA介(珠扇キリン)
異世界召還されなかった僕は。
第1話 異世界召還…僕じゃなく!?
僕の名前は茅野築、一人暮らしで大学に通っている。
僕は昔から異世界ものの作品が好きで、バイトもファンタジー系のコスプレ喫茶で働いている。
こんな事言ったらバカにされるだろうが、僕は高校生の頃まで異世界の存在を心の底から信じていた。
そんな僕の前に、僕の人生を変える衝撃の出来事が起きたのは3月27日の事だった。
「今日も疲れたなぁ……」
その日はいつもの様に大学の後にバイトに行ってからの帰りだったのだが、何やら普段より辺りの人達が騒がしくなる。
僕は不思議に思い、その彼等が指差す先を見た。
「あれ…魔法陣だよな?」
そこには建物の上空に浮かぶ魔法陣の様な模様があった。周囲の人間はそれに驚きの表情浮かべ、スマホを構えていた。
遠くに見えるその建物は幸いにも僕の暮らすマンションだった。
「俺ん家の真上に……」
僕は堪らずにマンションに走り出した。今、僕は存在し得ないものを目撃してしまったのだ!
僕はそのマンションのエレベーターに乗り込み、自分の階では止まらずに屋上へと向かった。
屋上に着き上を見上げると、すぐ真上にはあの魔法陣が見えるじゃないか…僕のテンションは最高潮だった。
そう、だって魔法陣だ!異世界はないんだ…行ける事など有り得ないと諦めた僕にとって、それは一筋の希望だったんだ。
しかし、魔法陣は手の届く距離ではなかった。僕がもう少し近付いて魔法陣を見ようとすると……
──突然、魔法陣が輝きだし、空から女の子が振って来たではないか。
僕は「何処のラブコメのヒロインだよ!」と心の中でツッコミながら咄嗟に走り出した。
ギリギリ抱き止めて、何とか支えるが…落下した少女を受け止めた衝撃でそのまま膝を着く。
別に彼女の体重が重いとかではなく、上から降ってきた人間を支えるなんて普通に考えれば出来っこない。
しかし、マンションの屋上という事で、空からあまり高さもなかった事もあり何とか受け止めれたが、僕は体制を崩してしまった。
危ない…何とか落とさないで済んだ。気付くと先程まで空に浮かんでいた魔法陣の様な物は少女の出現と共に消えていた。
僕は腕の中に抱えたメイド服の少女の頭の下に鞄を敷き、彼女をそっと寝かせた。
しかし、どうしたものだろう?息をしているみたいだし、命に別状は無いとは思うけど……
この場合、救急車?警察か? というかこの子、さっき空から…ていうかあの魔法陣から降って来たんだよな?
そもそも国籍とかあるのだろうか?髪の色からして日本人ではない。というか、この子は――などと、状況を整理していると……
「ここは……あれ!?」
凛とした一斉の後に辺りを見回してから、少女から少し間抜けな声が聞こえた。
少女から目を離していた俺はその方向に思わず振り返った。どうやら彼女が起きたらしいが……
「貴方…何者ですか?」
どうやら凄く警戒しているらしい、僕の方をめちゃくちゃ睨んでいた。
「えっと、僕は全然怪しい者ではなく…茅野築って言うんだけど……」
「カヤノ…キズク?…貴方は何者ですか?私を攫った目的は?」
「ちょっと待った!?僕は攫ってない!指1本も…あ〜……」
「何ですか!?私に何したんですかぁ!?」
「いやっ、変な事は何もしてない!」
「言っておきますが、私は人質にはなりません。身代金などは要求しても無駄かと…」
「いや、しないから!というか攫ってないんだって…」
「では、何が目的なのですか?…もし目的がお嬢様なら貴方をここで…」
「待った!?てか待って、目的とかその前に本当に攫ってないだって!」
攫ってないって言ってんのを聞いてくれないどころか、彼女は殺意の込めた睨視を見せる。どうにかして緊張感を解けないか……
「では私は何故、ここにいるのですか?」
「僕には分からないけど、君が突然、空から降って来たから…」
「空から?…嘘にしたってもっと真面な嘘を吐いて下さい。私は庭の手入れを先程までしていたのですよ」
「そんな事言われても事実だし…それに少なくとも僕は君の敵とかではないよ!」
「信じられませんね。それに仮に貴方が攫ってないとして、ここは何処なのですか?」
「えっと、東京だけど……」
「トウ、キョウ?聞いた事の無い国ですね」
「いや、国じゃなくて都市なんだけど……」
多分、間違えない…この子、異世界転移して来たんだ!この状況に僕のテンションは何だかんだ上がっていた。
夢にまで見た異世界があるという証拠が目の前にあるんだ!
普通の人にしては長い耳に毛髪も染めた様な紫髪、そしてメイド服…僕の前に異世界産の美少女がいる。
この話の噛み合わなさはドッキリとかじゃない限り可笑しい。むしろこれで扉が開いてドッキリの看板が出てきたら僕はもう立ち直れない。
「まぁ、良いです。ここからファミィリティア王国までどれくらいですか?」
「ファミィリティア王国?それが君の住んでる国?」
「はい、攫ったのが貴方でないのなら…恐らく、転移魔法の類いで私はここに飛ばされたのかと…」
「転移魔法?君もそれを使えば帰れないの?」
「そんな簡単な魔法でありません、かなり高位の魔法ですよ?…それに早く帰らなければ、私が狙われたなら姫様まで……」
どうやら元の国に帰りたいらしい。そりゃそうか…普通はそうだよな。
「あの冷静に聞いて欲しいんだけど、良いかな?」
「はい?何でしょうか?私は一刻も早くお嬢様の元へ──」
「悪いけど、ここは君の住む世界じゃない」
少女はポカンとした後、真剣な表情をして立ち上がり、服に着いた汚れを払ってこちらに向き直った。
「どうりで私の知る町とは違う造りをしていたんですね?…ここが勇者様の世界なのですね」
僕は少し驚いた。「信じられない!」とか、「何を言ってるですか?」みたいに慌てたりするものかと思えば、彼女はそれを素直に受け入れていた。
「自己紹介が遅れました。私はユメリアと申しましす。以後お見知り置きを」
「えっと、驚かないの?ここが別の世界だって…」
「驚きはしましたが、こちらにも魔王討伐の為に異界から勇者様に来ていただく事がありますから」
なるほど、異世界に関しては知っているんだ。というか、やっぱり勇者に選ばれたりしたら異世界に行けるのか。
僕の夢が叶う可能性があると分かり、僕の気分は最高潮だった!しかも目の前に異世界から来た美少女がいる。
「えっと…カヤノ・キズク様でしたよね?先程の無礼、申し訳ありませんでした」
「いや、別に良いよ!後、僕の事はキズクで良いよ」
「ではキズクさん、不躾ですが私が元の世界に戻るのに協力して頂けないでしょうか?」
「うん!寧ろ僕にも手伝わせて欲しい!」
むしろこんな美少女のお願いされたら絶対に断れる訳が無い。それに知らない所で一人ぼっちは心細いだろうしな……
「私はこの世界に付いて無知ですので、そう言って頂けると助かります」
それは願ったり叶ったりな頼みだった。もし彼女が元の世界、つまり異世界に行く方法が見つかれば、必然的に僕も異世界に行ける!
異世界が本当にある事は分かったし、行く方法もある筈だ。
正直、普通は信じられない話だろうが、僕は異世界からやって来た少女と異世界に行く方法探す事になったのだ。
なったのだが、何故だ。何故、こうなった……
「キズクさんの部屋は不思議な物が沢山有りますね」
まさか、今まで女の子一人上げた事ない部屋に、異世界から来た美少女がいる。しかも二人っきり!
そりゃまぁ異世界から来たんだから、お金も泊まる場所も無いだろうから仕方ないんだけどさ。
「でも本当にありがとうございます。見ず知らずの私に今夜の寝床まで頂いて」
「気にしなくて大丈夫、困ってる人がいたなら当然だよ」
「お礼と言っては何ですが、私にできる事なら何なりと仰って下さい」
「えっ、それって……」
『何でも』って事!?今何でもって言った?…今、美少女が部屋に居てめちゃくちゃドキマギしてるのに、そんな美少女から何でもして良いだと!?
「何なりって、何でもって事だよね?」
「はい、夜のお世話でも何なりと」
夜のお世話って!?あれだよね?夜のお世話ってつまり、エッチな事だよなね?お父さんお母さん、今日僕は──
すると部屋に少し低い音が響く、それは腹の虫の鳴き声だった。でも僕ではない。って事は……
「ユメリア、もしかしなくてもお腹空いてる?」
「はい、恥ずかしながら実は朝から何も食べていなくて……」
「じゃあ、何か作るよ!一応、バイトで厨房にも入るから、ある程度の料理は作れるから!」
「バイト?…えっと、すみません。よろしくお願いします」
僕はユメリアに手料理を振る舞うべく冷蔵庫を確認するが……
「ごめん…大見得切ったけど、冷蔵庫の中に何も無いからスーパーにでも行こうか」
「あの、スーパーとはなんでしょうか?」
「えっとお店かな?所謂、食材とか買える所かな?」
「後、すみません。冷蔵庫やバイトというのも気になってまして…」
そうだった、ユメリアはこの世界の人間じゃないからバイトとか冷蔵庫とかって言葉も知らないのか……
僕はユメリアが気になる事がある度に、その疑問に答えながら僕達はスーパーに向かった。
勿論だが、ユメリアはメイド服だと目立つので僕の上着のパーカーを羽織ってもらった。
「見た事の無い食材がいっぱいですね?これは何という果物なのでしょう?ホルカの実ではなさそうですが…」
「それはトマトだね。果物じゃなくて野菜なんだ」
「なるほど、どんな味がするのでしょうか?」
「じゃあ今日の夕飯はトマトソースのパスタにしようかな?」
そう言うと、ユメリアの表情が突然曇る。多分、パスタが嫌いって訳じゃないだろうが……
「私はこんな事をしていて良いでしょうか…」
「ユメリア、どうしたの?」
「私は逸早く、お嬢様の元に帰らなくては行けないのに…」
「今は焦っても仕方ないよ。それで体調でも崩したら帰るどころじゃなくなるしさ」
「そうですね、キズクさん」
彼女の表情が晴れた。僕は安堵して再び色んな事を聞く彼女の疑問に答えながら食材を買い込んだ。
「本当にこの世界は不思議な物ばかりですね!魔法ではなく電気を使う道具に、見た事ない食材…興味深いです」
「そうか、僕からしたら魔法の方が興味あるけどな。そういえばユメリアは使えるの?」
「はい、もし良ければお見せしましょうか?」
「流石に普通に人いるからここではマズイから家で頼もうかな?」
「はい、お礼とはいきませんが私に出来ることなら」
そんな事を言いながら僕達は暗くなった道を歩いていく。
「そういえば、キズクさんもこの世界の人間ですよね?」
「そうだけど…どうして?」
「毛髪の色が金色や茶色、黒い人は良く見かけますが、白はキズクさん以外には見かけないので」
「あぁ、これは染め…えっと、色を塗ってるって言えば良いのかな?」
「色を?そんな事をする文化がここにはあるんですね」
「文化というか…まぁ、そんなところかな」
女の子と会話しながら家に帰る。高校では出来なかった事だ。しかも今隣にいるのは異世界から美少女、僕にとっては夢の様な状況だ。
その時、改めて心に覚悟を強く決めた。僕は絶対に彼女は元の世界に送り届ける!彼女の悲しい顔を見たくないから……
こうして異世界召還されなかった僕は異世界召還された少女、ユメリアを元の世界に送り届ける事になるのだった。
異世界召還されなかった僕は。―SLASH BLOOD― NORA介(珠扇キリン) @norasuke0302
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