支障 ※カリナ視点

 相手は日本人の技術者だった。

 宇宙事業に関わる研究開発で、その技術の特許を欲しがるアメリカの要人から、依頼が入ったのだ。


 日本人は、ペットである。

 紛れもない事実がホテルの床に転がっている。


 本当は抱かれた方がスマートに事が運ぶ。

 なのに、私は他の人に抱かれることに対し、嫌悪感が込み上げていた。


 ルームサービスという口実で部屋に入り、トレイの蓋で隠した銃を使い、額を撃ち抜いた。


 彼がホテルに来て、オデット達がカメラを操作し、別の映像に差し替えるまで私はずっとシンたんの事を考えていた。


 オデットの合図が入れば、部屋に入るまで4分。

 部屋に入って、30秒。

 入れ替わりでオデット達が掃除にきて、私は台を押して部屋を出る。


 薬を使った方が、リスクが少ないのに。

 私はリスクを冒した。


 *


 車の中で、私は窓の外をボーっと眺めていた。


「聞いたぞ」


 ジュールが話しかけてくる。


「随分と、あの少年に熱心なようじゃないか」

結婚する一つになるもん」

「祖国の連中に聞かせてやりたいね」


 話しかけないでほしかった。


「仕事が嫌になったか?」

「違う」

「なら、2分のロスがあったのを、どう説明するつもりだ」


 そう。今回の仕事は、『2分に満たない時間』で終わる予定だった。

 それが、『倍の2分』は掛かった。


「……ヘマをして、ごめんなさい」


 ジュールが嘆息した。


「これは提案だが」

「なに?」

「あの少年を殺しては――」


 私は無意識の内にジュールのこめかみへ銃口を突きつけていた。

 引き金に指を掛け、すぐに撃てる状態にする。


「……何の真似だ」

「シンたんは私の全てなの」

「カリナ……」


 珍しく、ジュールが戸惑っていた。


「私から、全てを奪おうっていうなら。私は世界を敵に回す。上が心配してるなら、そう伝えて」

「分かったから、銃を下ろしてくれ」


 ゆっくり、でも反撃されないように腕を引いて、銃を戻す。

 ぼんやりとしていた感情が、自分でも驚くくらいに、鋭いナイフのように変化していた。


「お金は、いつも通り別々の銀行に振り込んでおく」

「ありがと」

「当然だ。だけどな、カリナ」


 ジュールが苦い顔を向けてきた。


「君は幸せになれないよ」


 引き金を引いておけばよかった。

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