#3 母と弟と姉と妹、それと客人


「え? ええっ?」

 フィーニ・オードインクは近隣でも名を知られた大海賊団。ここは、あまりに偉大な1人の父、生まれの違う8人の母と、自分も含めた25人の兄弟姉妹、百数十人の海賊団とその身内の暮らすアジト、もとい、フレスガノンの港町。ちょっとでも見たことのない人がいれば人目を引き、人づてに話が伝わってくるほどに結束は固い。勿論、外国からの客人が全く訪れないわけではないが、取引先の上客も仕入れに来てくれる商会も、みんなここでは顔馴染みばかり。

 そこへ、全く知らない異邦人が訪れ、その上さらにこの町にしかないような路上の喧嘩の中に加わっているなんて、珍しいどころかまずあり得ない。余所者はまずこの町の粗っぽさについていけないだろうから。

 というか、さっきまでダイラ兄が戦ってたんじゃなかったのか? カイリンガ姉を破ってノリ気だったから、そう簡単に負ける筈が……

 そう思って探したダイラ兄の姿は直ぐに見つける事ができた。さっきのカイリンガ姉以上に派手に吹っ飛ばされたらしく、酒場向かいの雑貨屋で片栗粉を被って気を失っていた。知っている顔が今その身体を運び出している。彼が戦ったその試合がどうなったかが容易に知れた。

 広場の中央に残っているのは旅装束の異邦人の男。肩当と一体になったマント姿に、鞘に入ったままの大剣を肩に担いで、運ばれていくダイラ兄の様子を冷静に眺めている。

「――――流しの傭兵だそうだ。相当に腕は立つよ」

 隣から囁きかけるガラガラ声は、イサリア母さん。八人いる母親の中で料理(もとい、包丁)と荒事を担当する……カイリンガ姉の心の師匠だなんてよく言われている人だ。ここにいる間もエプロンをかけたままなのはともかく、包丁を握ったままだ。……最近アコード兄の食堂に料理を学びに来ているのだが、おそらくこの騒ぎに真っ先に飛びだしてきて、厨房は完全にほったらかしなのだろう。今頃アコード兄だけがおかしな昼食を作っているに違いない。

「だが、基本に忠実な動きをする。裏をかいて短時間で終わらせるんだ」

「……アドバイス嬉しいけど、ダイラ兄がそれで勝てなかったんだろ……?」

「ダイラには忠告しなかった。だから負けたのさ」

「―――――」

 そのぞっとするほど低い声に、思わず唾を飲む。つまり、アドバイスしたんだから負けるなと言われている。もはや、簡単に負けるわけにはいかなくなった。

 こういう時、自分が変わり種である事に悩まずにはいられない。兄たちのように頭を空っぽにして荒事を楽しめたらどんなにいいかと思う。

 勿論、戦う術を知らないわけではない。フィーニ姓の男子は例外なく格闘技を仕込まれるからだ。俺も一通りの剣術を教わりはしたが、成績は奮えていなかった。最近は手伝いに恰好つけて練習をサボることにしている。


「……どうした? やるのか、やらないのか?」

 大剣を担いだ異邦人の男が俺の決意を促す。無感情な声だが、それは挑発だったのかもしれない。

「やるに決まってるだろ! そこのお前、首洗って待ってろ!」

 その挑発に、俺ではなくオルカが乗った。

「すかしたマント野郎なんかこてんぱんだ!」

「言うじゃないのさ! あなた達なんか! シーザーが本気出すまでもないんだから!」

 と、そのオルカの挑発にさらに乗ってくる、この場に不似合いな可愛い声。……ギャラリーの向こう側に、その声の主がいた。真っ白い素肌に赤い目の女の子……旅装束をしている所を見ると、この傭兵の連れなのだろう。

 ……何というか……、オルカといい勝負だ。歳も同じくらいだし。

「ただの喧嘩だってことに感謝なさい!」

「そっちこそ! 後で泣いたって知らないからな!」

「泣くわけないでしょ! びーびーうるさいあなたじゃないんだから!」

「真っ白々の白ウサギのくせに!」

「海賊の子! バンダナ似合ってない!」

 ………いっそのこと、この二人で決着付ければいいんじゃないかとさえ思う。


「向こうにも似たようなのがいるんだねぇ」

 微笑ましくその様子を見守るイサリア母さん。

「こりゃますます負けられないじゃないか。……ヨソのはともかく、ウチの子の夢を壊すんじゃないよ」

 そして、次には正反対の圧力を突きつけてくる。……つくづく、この母は怖い。

「ファロン兄!」

「シーザー!」

 子供達の声に導かれるようにして、俺と、そして傭兵……シーザーは前に出た。間合い三。歩にして五。それが、お互いが動かなくなった間合いだった。俺が仕掛けるにはやや遠すぎ、シーザーが待ちかまえるにはやや近すぎるだろうか。

「……シーザー、ねぇ……」

 あの白い少女が呼んでいるのだから、それが彼の名前なのだろう。

 それは神話の中で神を殺したという英雄の名前。親が最愛の子に授けるにしては、あまりにも重すぎやしないか。

 しかし目の前のシーザーは、その名を体現するかのように隙が無い。冷たく無感情な声が、まず非礼を詫びてくる。

「連れが失礼した。あれは多分酔ってるんだ。大目に見てやってくれ」

「いや、お互い様だ。……ウチのは酔ってはいないが」

 いくらオルカだって酒はまだ早い。……というか、あの子供に酒を飲ませたのか?

 いや、周りの大人たちの反応からして、飲まされた、が正解か?

「あんたみたいなへっぽこは、三秒かかりゃないわ!」

 ……確かにろれつが回っていない。いや、今はそんなことはどうでもいい。


 既にこの場はただの喧嘩の集まりじゃない。正式な決闘のように空気が緊張し始めていた。声援を送るギャラリーからの茶化すような声援は既にない。ただ、勝てと言っている。ダイラ兄を破ったあの余所者に、フィーニの誇りを示してやれと。

 俺は覚悟を決めて、持ってきた棒を構えた。それはおそらく折れた棹の一部であるらしかった。長さは十分以上にあるが、打ち合うだけの頑丈さはない。

 対するシーザーの得物は身の丈ほどもある大剣……こういう場だからということで鞘に収まったままで構えているが、それでもこんな喧嘩の場で持ち出すにはまだ物騒すぎる。……シーザーは理性的で道理を通す人のようだから、この決闘で剣を抜く事は無いだろうけど、刃が無くともあの重さと長さは鈍器としても十分に武器たり得る。

 ……いや、得物を気にするだけ無駄か。一番の強敵は武器ではない。あくまで目の前のシーザーなのだから。

 ギャラリーの声が聞こえる。この場はほんの僅かな余興。母さん達の誰かが止めに来れば直ぐにお開きになる、一時の熱気。

 皆が皆本気ではないのに、楽しむことそれ自体に本気で、一時たりとも目を離したりはできない、そんな海賊達の愉しみが、ここにはあって……

 ……俺は荒事それ自体は好きではないけど、そういう熱を端から見ているのは好きで、結局このフィーニ・オードインクという環境がとても好きだった。今、この場の熱は全て、俺とシーザーに向けられている。俺は一杯にその熱を吸い込み、四肢に力を込めた。

「先手……っ!」

 イサリア母さんの言う通り、できるだけ早く終わらせるのが一番いい。俺もまたその結論に達していた。

 それは少しもったいない気もしたが、どちらにしても戦いが始まってしまえば自分でこの熱を楽しんでいる余裕なんか無くなる。

 ――――だから、荒事は嫌いなのだけど……

 俺が向かってくるのに合わせ、シーザーがあの重そうな大剣を振り上げた。




 それ以上の説明の必要なんかあるだろうか?

 ダイラ兄が勝てなかった相手に、格闘技に関しては劣等生の俺が勝てるはずもなく、先手をあっさり見切られた後は一方的なものとなった。

 基本に忠実な動き? 短時間で? イサリア母さんのそんなアドバイスの全てが馬鹿馬鹿しい。シーザーは牽制するように大剣を振り上げて一撃目を逸らすと、その後に続く変則的な連撃を、まるで地面に立てた大剣と踊るようにして全て受け止めながら、いつの間にか反撃へと転じていた。せめて一撃をと思い、投げつけた棒きれをかわしたその隙を突いて渾身の蹴りを見舞ったが、それすらも彼の身体に届くことはなく、左腕で受け止められた後に続いた鯨が跳躍するような豪快な大剣の振り上げが俺の身体を吹き飛ばした。なんとか受け身を取って着地をするも、顔を再び上げた時には、石畳を激しく叩く硬い音と共に、シーザーの大剣が俺の首へと添えられていた。大剣、しかも鞘に入ったままの大剣ではそれで追い詰めた事にはならないのだが、シーザーは先程から地面に剣先を地面につけた状態で、片手持ちの棒切れに追いつける程の巧みな速さを見せていた。

 ……それを思えば、俺の身体が動くことができなくなっていた。

 それと同時に、この馬鹿騒ぎに終了の合図がかかった。



 いつもなら、ハスア母さんがこういう騒ぎを適当な所で収めてしまうのだが、

「あなた達! 持ち場に誰もいないと思ったら、またこんなくだらないことして!」

 聞き覚えのあるよく通る声。それはハスア母さんの綺麗な声ではなかった。と言うか、ハスア母さんは滅多に怒らないし叫ばない。

 しかし、百を超える海賊達を一喝するにはあまりにも不似合いな少女がそこに立っていた。少女と言っても歳は俺と同じほど。小さな顔立ちは不似合いな程に凛としていて年より幼く見えるが、まとめられた長い髪はよく手入れされ、見ようによっては商家の令嬢を彷彿させる。……そう、海賊達を前に仁王立ちする気の強そうな身の振り方も合わせ、貴族の令嬢には間違えられる事は絶対になさそうだ。

 彼女はエランダ。同い年の姉であり、俺よりもさらにこの場に似つかわしくない人だ。

 そのエランダがどうして?と疑問に思うより先に、まずい奴が来てしまったなという考えが頭を過ぎった。ハスア母さんならこういった騒ぎも割と理解してくれている。しかしエランダはそこまで頭が柔らかくない。

 彼女は騒ぎの中にぼろぼろの俺の姿を見つけると、怒るのでも呆れるのでもなく、冷ややかにこう言った。

「ファロン、あなたまでこんな事に加担していたの? 正直見損なったわ」

 それは、今までにない程の失望だった。俺は言葉を無くした。

「エランダちゃん! いいじゃねぇか、陸にいる間はこうでもしねぇと身体がなまっちまう」

「なら身体がなまってるって、ウィノン母様が帰ったら報告しておきます」

『げっ……』

 その場にいる誰もがその顔を凍り付かせた。


 荒くれ揃いの海賊達を一瞬にして恐怖に陥らせるウィノン母さん……それは、フィーニ・オードインクでは雑貨仕入れを一手に任されている母親である。

 忙しい人で昼間はなかなかアジトには居ないのだが、それ故に怠け者には特に厳しい。「人手はいつだって足りないので」が口癖で、サボっている人間、手の空いている人間を“さらって”行っては海向こうへと連れて行き、相当な重労働を課していくという。それは炭坑だったり無人島だったりガレー船だったりと、内容はいつも違うのだが、“さらわれた”人間は、一ヶ月は帰ってこず、そして帰ってきた頃には誰か分からない程にやつれていることもしばし。勿論、それはフィーニ姓でも例外ではない。ダイラ兄なんて常連だったりする。

 いつもならウィノン母さんが出てくる前にハスア母さんが収めてくれるのだが……

「これだけの男手が力を持て余してるんだから、ウィノン母様大喜びでしょうね」

 非難の目を辺りに振りまきながらエランダ。今日のエランダは機嫌が悪いようにも見えた。声色は皮肉にすらなってない。集まっていた奴らは、さっきまでの活気を全て奪われたかのように消沈していた。エランダから見えない位置にいた奴らはこっそり逃げ出しているに違いない。

「それには及ばないよ、エランダ」

 それに割って入ったのはイサリア母さんである。こういう時の味方で権力があるのは彼女だけである。彼女が関わっているのを知って、今度はエランダが顔色を変えた。

「たった今終わったからね。飯の後の昼寝がちょっとした余興になったってだけさ」

「イサリア母さん、いつもそんな事を言ってるから示しがつかないんでしょう」

「客人を歓迎してやんなきゃいけないだろ?」

 そう言って、シーザーの方を指さす。運悪くそのダシにされてしまったシーザーは、しかし顔色一つ変えずに頷いた。ちなみにオルカと張り合っていたあの白い少女は、……まだオルカと言い争っていた。場の空気に気付いていないようだ。

「客人……って、お客様が来ていながらこんな事をしてたんですかっ?!」

 勿論、エランダが考えるような正式な招待客ではない。イサリア母さんが彼の勇敢さに敬意を払って洒落た表現をしただけだ。

「シーザーとやら。お前の勝ちだ。受け取れ」

 激昂するエランダを無視して、イサリアはシーザーに向けて何かの袋を放り投げた。シーザーはそれを受け取り、中を確かめる。

「少し多いようだが」

「――――っ!?」

 そしてシーザーがイサリアに訊ねたのを見て、エランダにもその中身が何か分かったらしい。さっきの表情すら前奏曲だと言わんばかりに表情を変えた。

 肩を張り、片足を踏み込み、上目に相手を捉える……手に得物を持っていないのがかえって不自然なくらいの勢い。何しろ包丁を持っているのは相対するイサリア母さんの方。

「母さんっ! 賭け事までしていたんですか!」

 しかしそれを無視してイサリアはシーザーと話を進める。

「ダイラは今いる中じゃあそこそこに格上だからね。そっちの少年はおまけみたいなもんだが」

(おまけ……)

 勿論俺の事である。

「このことは、お父様が帰ってきたら逐一報告させて頂きます! 分かってますね!?」

「ディオールはこんなことくらいで目くじら立てたりしないよ。アンタも見習ったらどうだい?」

「そんな筈ありません! 怪我人が出るかもしれないっていうのに、いつまでもこんなことさせておくわけがありません」

 もはや二人のやり取りに割り込む隙など無い。勝手に賭けに使われた事に抗議してやろうとしたのだが……この様子じゃあ難しそうだ。

 見れば、さっきまで盛り上がっていた観衆達は姿を消している。……いや、あちこちにいるのだが、まるで最初から喧嘩なんかなかったというような素振りで自分達の仕事に戻っている。その変わり身は呆れるくらいに鮮やかで、手慣れている。イサリア母さんはきっと、この為の時間稼ぎをしているのだ。……もはやこの広場に留まっている人達でそのことに気付いていないのは、当のエランダだけ……いや、今もまだ低レベルな口喧嘩を続けているオルカとあの白い少女も気付いていないようだ。

 ……シーザーと俺の勝負は終わったのだが、それならそれで個人的なテーマに論争が移っているらしい。あっちでもこっちでもそんな喧嘩ばかり。殴り合わないだけで、一体何が違うんだか……むしろ、変にいがみ合う分だけこの方が始末の悪いような気がするのだが……エランダは自分で気付いていない。

(エランダだって、少しは分かってくれてもいいと思うんだけど)

 そう思わずにはいられないのは、……自分も関わってしまった罪悪感なのか、それとも今日の彼女が行きすぎに思えたからなのか。


「アルビナ、いつまでもすねてるんじゃない。行くぞ」

「なによー、もっとシーザーの強さを見せつけてやえばいいのよー」

 “あっち”は金勘定が終わったシーザーが解決してくれた。アルビナと呼ばれた少女を強引に抱え上げ、港の方へと行ってしまった。……オルカは、言葉が無くなるまでその背中に悪態を叫び続け、対してアルビナは抱えられながらニィと笑っていた。まるで、「あたしの勝ち」と言わんばかりに。

「くそぉー! 何だよアイツ! 余所者のクセにえばって!」

「……オルカ、もう止めておけ」

「ファロン兄ちゃん、なんで勝ってくれなかったんだよ! 兄ちゃんなんてだいっ嫌いだ!」

 そんな言葉を浴びせて走り去っていくオルカ。……あの少女との口喧嘩もさることながら、あの決闘において俺が負けたことがショックだったのだろう。それがただの我が儘に過ぎないとしても、その言葉にはかなりの動揺を受けた。

 …………

(……いや、無茶を言うなって……)

 溜息を一つ。そして“こっち”の二人もやはりどうしようもない。もはや最初の目的を完全に忘れてしまっている。エランダがイサリア母さんを怒らせるような事を言ってしまったのかもしれない。

「あのさ……母さん、エランダ。喧嘩してる場合じゃなくて……」

「黙ってな、この負け犬」

「黙ってなさい、野蛮人」

 ………俺の味方は何処にもいないらしい。二人はたったそれだけを俺に言うとまた口論に戻ってしまった。

「今日は厄日か……」

「それはあなたがどちらも敵にするからよ」

 呆れ気味の声が、落ち込む俺の背後から聞こえた。子供の声なのに、ひどく大人びた……冷めたような言葉遣いをするその特徴的な声は、一人しか居ない。

「ルアン……」

 そこにいたのはオルカよりさらに小柄な少女。おかっぱに切り揃えた髪に帽子がよく似合う、何処か都会的な雰囲気のする、これでこの子もフィーニの子で俺の妹だ。さっきのアルビナほどではないが、彼女も色が白い。それはいつも家に籠もって本ばかりを読んでいるからだ。おかげで俺のすぐ下の妹なのに言うことは誰よりもませている。オルカが一番歳が近いだなんて意外と思われてないのではないだろうか。……だが、この場を収めてくれる味方……と言うには、ちょっと難しいかも知れない。

「言っとくけど、私もあなたの味方じゃないから。イサリアじゃないけど、少しはお父さんを見習ったらどう?」

「そのつもりだったんだけどなぁ……」

 今更ながらに父さんを尊敬する。8人の妻から愛され、25人の子供達全員から尊敬されているのだから。

 すっかり降参の俺を無視して、ルアンはエランダの腰を叩きそっと囁いた。

「エランダ、あなたも用事を忘れてるわ」

「あ……」

 たったその一言で、エランダは正気に返った。それだけではなく、さっきまで激昂していたのを恥ずかしがるように顔を赤らめている。

「用事?」

 イサリア母さんまでもが、喧嘩を止めてルアンに注意を寄せてきた。……俺の言葉には耳も貸してくれなかったのに……ルアンが年上の扱いがうまいのか、俺が下手なだけなのか…… ルアンを見ていると身内ながらに恐ろしくなってくる。いや、それはともかく……

「ハスア母さんが今その準備をしているから、代わりに呼びに来たの。本当はあのろくでなしどもにも伝えなきゃいけなかったんだけど」

 ルアンの言うろくでなし……とは、ここに集まっていた海賊達のことだ。ルアンも海賊達を嫌っているのか、そんな風に呼ぶことが多い。エランダと同じ屋内にいることが多いタイプだからその影響かもしれないが、何故だか、時々エランダとは違う理由で嫌っているようにも思える。

「何があったんだい? アタシが出なきゃならないようなことかい?」

「入り江で人が死んでいるのをリトラが見つけてきたんです。葬るから参列するようにって」

 エランダの口から告げられたその事件に、俺は勿論、百戦錬磨のイサリア母さんも少なからず驚いていたようだった。

 そう……確かにこの時、俺は何か良くないことが起きるような気がしていた。

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