12

 元宵の夜が終わり、少年は何度も母親に頭を撫でさせた。

 そして何が起きたのかを何回も繰り返し話して聞かせた。母親は目を丸くして声をたてて笑った。顔に血の気がさした。少年の家にようやくいいことがやってきた。

 その数日後には、あばらやの前に黒いぴったりとした衣を身につけた不思議な女性がたった。医者だと告げた。

 李媽は何度も何度もお辞儀をしてその女性を家にあげると、女性は箱のようなかばんの中から、不思議という他には形容のしようがない、見たことのない、ぴかぴか光る、からくりじかけをずらりと並べて、それらを手に取っては、少年の母親の体に当てて、様子をずいぶん長く見た。

 そうして、何か書き付けてある紙を出して、丸薬をおいていき、どんなふうに体の世話をしたり動いたりするのかをいちいち言いつけて去っていった。もちろんその通りにした。

 母親はその後ずいぶんと元気に長生きをした。


 少年は、二人の神仙に言われたことを忠実に守った。毎日たくさん食べて、鍛錬をし、本を読んだ。その後、毎年元宵にはあの二人を探しに出かけたが、ついぞ会えずじまいだった。毎年誰かが見かけていたから来ていないわけではない。おそらくあの神仙二人は他の人間に幸運をあげに行っているのだろう。

 ただ肩車をしてもらった子供については他に聞かなかった。それは少年を、いつしか少年ではなくなった青年を、それから随分経った後の老人を得意にした。だから、かつての少年は神仙たちとの出会いを他の人間たちに話した。もしかしたら誰かがあの神仙たちに伝えてくれるかもしれない。彼らは自分を覚えているだろうか。その話をするたびに老人は少年に戻った。瞳に星のように光が瞬いた。あの灯籠の夜に出会った二人の優しい眼差しと、母親に撫でられた時の手のひらのほのかな温かさを思い出した。



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灯籠の夜 みなそこ @minamominasoko

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